大学1年の夏休み、ジリジリと焼け付くアスファルトの上を大きな荷物片手に新幹線に乗ったあいつが来た。
女っ気なく、オレよりも短いのではないかという髪に、オレと同じ様に部活動…確かソフトボール部だかに打ち込んで黒く焼けていた姿を見たのは一、二年前の実家の前だった。"なんだ、靖友帰ってたんだ〜、ウケる、タケノコなくなってるし"とジャージ姿でコンビニの袋ぶら下げたあいつに会って頭をど突いた時が最後だった気がする。相変わらずバカっぽいなと人の事言えないが罵った記憶が残る。幼なじみといっても、色恋に発展するわけがねぇのは織り込み済みだ。節目には素っ気ないメールで連絡取り合うくらいの男同士の様な気兼ねない付き合いをしていた。
夏休みに入る前に来たメールには"悪いけど、数日泊まらせて、靖友に用事と相談あるから"との事。オレとしては、小学校くらいまで風呂すら一緒に入って騒いだやつくらいの印象しかないので、問題なく許可してしまったあの時のオレを今呪っていた。
"○○駅まで迎えね、○:△▼"
という若干横暴さが混じるメールに渋々腰を上げて暑い中駅に出て行った。が、時間過ぎてついた割にはあいつは居なかった。周りには、オレと同じ様に迎えきたようなやつと出会うやつ、家族だったり恋人ぽかったり…。こっちは迎えきてやったは良いがあの男女だし、なんとも花が足りない。あいつまさかスエットで新幹線乗ってくんじゃねぇよな?という変な予想までしてしまう。
ショートヘアで、色気のねぇ格好で、登山でも行くようなリュック背負ってそうなイメージをもって辺りを見渡したが、そんな奴は居なかった。仕方なく待合でベンチに座り、辺りを見渡してると、目的人物とは違うが、結構タイプな女が居た。長めの黒いストレートの一部を少し耳にかけながら、少しだけ不安そうな色の見える瞳は平常時であれば気が強そうだ。着ている服も身体の白い肌と凹凸相まって、引き立てるように似合っている。デケェバックを持っているからおそらくその女は付き合ってるだろう奴でも探そうしてるのだと予想できた。あー、そんな女待たせるとか男死んでんな、と見ず知らずの男に対して憐れんだ感情を持った。
つーか、マジで遅ェ。罰として今日の夕飯奢らせるしかねぇわ。貧乏揺すり始めそうな足を手で制し、尻のポケットに入っているスマフォを取り出す。もちろん連絡先はあいつしかいねェ。数回のコールの後に、呼び出しコールの音が途絶えた。
「おっせぇ、おめー今どこにいんだヨ!?」
「は?もういるんだけど、靖友こそどこにいんの?目立つ場所にいてくれなきゃ困るじゃん」
「ア!?オレに指図すンじゃねェ」
電話の向こうでふてぶてしい声が聞こえる。お小言を聞きながら、相変わらずだなとある種の諦めと懐かしさを感じてしまう。電話しながら辺りを見渡すとさっきの女が必然的に目に入った。その女も電話しているようで辺りを見回していた。
ギャンギャン耳元に響く声に顔を歪めた瞬間、数十メートル先のあの女と目が合い、ドキリと胸が高鳴った。するとその女は行き交う人の間を縫いながら手を振りオレの方へと近付いてくる。背後に目的人物でも居るのかと振り返るも誰もそんな素振りは見せていない。
いつの間にか途切れていたスマフォに気付かなかった。スカートを揺らして、小走りでかけてきた女が笑顔で一言。
「久しぶり靖友」
タイプだと思ってしまった女の声は電話で今まで聞いていた声で、そうするとこいつはなまえという事だ。信じられなくて、ジッとその顔を見つめると、確かに面影はしっかり残しているのが分かる。こんなに変わるものなのか?そう、呆然とするオレ。いつの間にか変わってしまった幼なじみを見て、何を思ったかオレは口走ってしまった。
「お、おせェ!夕飯てめェの奢りだからな!?」
オレの一言により、周りの老若男女の冷たい空気が突き刺さる。振り払う様にそそくさと席を立つ事しか出来なかった。
…
「靖友変わらないもんだね〜」
「セッ、触んな」
オレの隣を歩くなまえがフワッと笑いながら、肘で脇腹を突き刺してくる。思わぬ接触に、ついその手を振り払う。それをこいつは気にする事がねぇ。無性に苛立ち始めて、髪を掻き毟る。
おかしくねェ?一、二年で変わる訳ねぇだろ?あの男女が。時折香る甘い匂いに、タンクトップから覗く鎖骨やら、揺れるスカートやら…何もかも想像と違いすぎる。
「靖友、ハゲるよ?」
「ハゲねェヨ!」
が、時折の仕草や言葉使いは過去のあいつのままだ。ニッと目を細めて無邪気に笑うなまえに胸が締め付けられるとかきっと勘違いだ。
太陽が傾いてきて、空の色が徐々にオレンジ色へと移り変わり始める。なまえはというと、大学で会った面白い奴の話やら、最近のオレの家族の近況やらを絶え間なく話している。それに適当な相槌をうつしか出来なかった。
「アパート、そこ曲がったとこな」
「あ、夕飯…マジで奢らせる気なの?遠出してきた幼なじみに?モテないよ?」
「チッ…じゃ、てめェが作れヨ」
「えー…しょーがないなー、つーか靖友の冷蔵庫どうせ空でしょ?なんか買ってこうよ」
オレの腕を強引に引っ張り、通りかかったスーパーに連れ込んだ。冷蔵庫の中は確かに空に近いがこいつに言われるのは癪だ。
子連れや家族連れやらで賑わう夕方のスーパーの中をカゴをもつなまえと回る。おそらくこれは所謂カップルに見えるんだろう事が荒北にも予測される。断じてちげぇ、こんな男女と付き合う趣味はねェ。そう、駅でのアレは気の迷いに決まっている。笑顔で"靖友のことだからコレまだ好きでしょ?"とペプシを持ってこっちを見るやつなんて可愛いと思った事なんて一度足りとも無かったからだ。
「良いな〜、一人暮らし」
鍵を開けるオレの横でつぶやくなまえ。それより、今更過ぎるがこいつオレの部屋に数日泊まる気なんだよなと気付く。開けた部屋に家主のオレよりも早く入り込んで、適当に鞄を投げ出してベットへとダイブした女が泊まるという事だ。捲り上がるスカートからは、程よく肉の付いた太腿と水色にレースのパンツが見えていた。断じて見たかった訳じゃない、偶々見えてしまっただけだ。本気で中身が変わってねェのが腹立たしい。
「ん〜…なんか靖友の匂いするね」
クソ恥ずかしい事を言い出すこいつと数日暮らすとか拷問にも程がある。小一時間ほど後にこいつの報告と相談を聞いて今日最大の声を上げる事をオレはまだ知らない。