数十分後に、なまえが目を覚ました。部屋に帰った時は夕方だったはずなのに溺れていたら、時刻は20時過ぎになっていた。そして欲求の一つ、食欲、つまりは夕飯をどうするか考えていたところだった。
「…靖友性欲あり過ぎ…」
オレと目が合ったかと思いきや布団に頭から包まるなまえ。なまえがそう言うのも無理はない。ここまでになるまでオレだって知らなかった事だ。ネジが外れたみたいに、欲求が出てくる始末。けれどその欲求は満たされる事なく、次を追い求めようとしてしまう。既に出来そうになりそうな事実は隠しておいて、夕飯についてを問いかけた。
「…作ってくれても良いし、作ってあげても良いけど、買い物だけはよろしく」
"靖友のせいで、腰痛い"と小声で不満気にいうなまえ。包まる布団を剥がすように捲れば、恥ずかしそうな顔と白い細い肩が覗く。
「ハッさっきまで散々喘いでたのになァ」
「う…、もう!とにかくパスタのソースでも買ってきて!それで夕飯にしようよ」
手を叩かれて、追い出されるように部屋を出される。全くもって誰の部屋だっつー話だ。けれど参っちまう程にそれ以上言い返せないのは何故か少しずつ気付いてはいる。けれど認めたところでどうしようもないところがぶち当たる壁であった。
夜風に吹かれて、茹で上がっていたような頭も冷えていく。近くのスーパーに行き、パスタのコーナーで幾つかのソースを手にする。あいつボンゴレ好きだとか昔言ってた気がすンな…、そんな淡い記憶を思い出しながら、カゴに適当に入れていく。惣菜のコーナーで半額が貼られたサラダもカゴに入れて…っなんつーか、同棲してるみてェじゃねぇか。良からぬ意識を振り払いながら、レジに向かった。
「おかえりー」
「…」
扉を開けると共に、キッチンと部屋との境のドアを開けたのはもちろんなまえだ。ルームウエア代わりの俺のTシャツと短パンを着ていた。どことなくむず痒さを感じながらも、買ってきた材料を渡すと何も聞いていないけれど"私、これ好きなんだよね"と笑いながらボンゴレのソースを取り出していた。オレはと言うと知っているとも言えずに、鍋を出した。
「折角だから具を足そうっと」
「オレ、コレ食うからァ」
「はいはい、……ふふ、なんだか同棲みたいだねー」
「ハァ!?んな訳ねェだろ!」
「え、分かってるよ!何慌ててんの、冗談に決まってんじゃん」
突拍子もない事を言うなまえに声をあげれば、笑いながら冗談だという。そりゃそうだ、冗談くらい気付けた筈なのに、どうかしていた。
だからしょうがない話だ。"冗談"というなまえが泣きそうにしていた事なんて、明るいアホっぽいこいつからじゃ想像なんて出来ないのだ。
適当に茹でたパスタにそれぞれソースをかけて、TVを見ながらそれを胃袋に収めていく。市販のソースに関わらず美味しいと笑顔で言いながら食べるなまえ。忙しなく、TVに出ている若手俳優の誰がカッコいいとか、大学での生活やらを面白おかしく喋る。昔から暗くはない奴だった、けれど、ここまで喋る奴だったかどうかは正直言って覚えていない。きっとオレの知らない誰かがこいつを変えてきているのだろう。止まった時間と流れた時間、そのジレンマに取り憑かれているのはオレだけなのかもしれない。
「はい、ジャンケン」
「あ?」
「お皿洗い〜」
目を細めて笑うなまえが手を差し出す。そして勝ったのはオレだ。
「もー、最初から頼めば良かった」
そうなまえは口を尖らせて、皿を重ねてキッチンへ向かう。甘くもない筈なのに、やけに甘ったるい。ここにきてたった2日で今まで会わなかった時間を埋めるように居場所を作ってしまったなまえに怖さを感じる。徐々に侵食されていく感が、嫌いでもないが、好きでもなかった。
…
どちらともなく、風呂に一緒に入った。始め、明るくて嫌だと言ったなまえと狭い湯船に浸かる。いつもならシャワーで済ませる癖に、どうかしている。オレに背中を預けるなまえの身体をやんわりと抱きしめる。本当男と女って身体の作りがちげぇ、どこかしらも柔らかい肌に誘われる。
「…靖友って、細い癖に筋肉ついてるよね」
「細ェは余計だっつーのォ」
とかいうなまえも部活で鍛えた残りの筋肉のついた腹を撫でる。ただ愛撫にも満たないレベルに身体をなぞるだけ。目の前の濡れた肩、そして首筋に引き寄せられてキスをして、吸い付きたいのを我慢する。
「ちょっと、」
「バァカ、痕はつけてねェよ」
振り向いたなまえに唇を重ねる。角度を変えて唇を合わせるだけではもう物足りなくて、自然と舌の行き来が始まる。僅かな吐息と風呂の熱気、触れ合う身体をまとめて抱きしめるように唇を重ねた。
「っ、キスも上手くなったでしょ?」
「ハッ、まだまだだろ」
妖艶な顔を見せるなまえ。てめェだけじゃねェ、言わねェけどオレだって慣れたンだ。飲み込んだ言葉が唇から伝わればどれだけいいか分からない。再度口付けて、何度も何度も口内を犯しあった。そして、お互いの身体の状況を問いかけるだけで無駄な話だ。
髪を乾かす事もなく、雪崩れ込んだベットの上。差し出される舌を吸い、なまえの口内を余すところなくなぞりあげる。風呂の時から主張していた2つの赤い突起。口内を犯しながら、両手の指で優しく摘み上げる。
「んっ…ふ、」
「して欲しそうにしてたもんなァ」
「…っ、ン…気持ち良い…っ」
素直に言葉を発するなまえ。その目に映るのは紛れもなくオレだけだ。全てを支配する様に覆いかぶさり、風呂入って綺麗になったというのに、徐々に汗ばむ身体。それに回されるなまえの腕がもっとと煽ってくる。殴りたい程に好きだ。回された欲望に塗れた腕も喘ぐ唇も全て埋め尽くしてやンよ。
なまえの頭から足先まで全て触った気がする。嬉しそうにする顔も恥ずかしそうにする顔も快感で歪む顔も全てだ。
「やすとも…っ、入れて…」
「ハッ、もう処女チャンって言えねェな」
「んっ…」
「淫乱なまえチャン、ちゃんと食べさせてやンよ」
なまえは恥ずかしそうにしながらも教えた通りに自ら秘部を晒す。その穴にぐっと突き刺し、深く繋がり、抱きしめる。細身のオレにすらすっぽり収まる。スベスベした肌と出来るだけ範囲が広く触れ合うみたいに、繋がりあう。オレの背中に回されていた手が離れオレの頬に添えられる。ったく酔ってンなァ。潤む瞳、恥かしさやら快感やらで溢れる顔全てに惹かれてしまう。シーツに無造作に散らばる黒い髪先の毛先をまとめるように手で撫でる。少しくすぐったそうななまえにキスを何度もした。
そこからの4回目、5回目なんて記憶にあるけれど記憶にない。砂糖何杯入っているかと思うくらいの甘ったるさで求め合ったからだ。本能のままに身体が動き、息をするのさえ惜しむようにキスをし合い、身体を弄りあい、快楽を求めた。快楽の海に溺れながら、無意識に、そして無意味にお互いの名前を呼び合っていた。悦楽していたのは、決してオレだけではない筈だ。なまえの熱も冷める事なく、熱されたままオレの下で身体をくねらせていた。"ごっこ遊び"でも構わないと思う程に。