その格好がお似合いで


一気に冷めていく感覚があった。そして納得する部分もあった。

見かけたのは、とある日の講義終わりで少しだけ晴れ晴れとした気分でバイトへと向かおうとした時だ。軽やかな笑い声と話し声、それに立ち止まってしまうのはこの前があるからだろうか。そして物陰に入ってしまうのはどうしてだろうか。
目の端に映る2人のその距離に気付かないほど子供でもない。約2週間ほど前に別れた元彼と女性がそこにはいた。交わされる2人の会話と太い腕に寄り添う様な女。直感的にあの2人は付き合っているんだと感じた。
元彼がどうしようが何しようが私には関係はない。しかし、敢えて一言言わせてもらうというなら早くないですか?と言うことだろう。腕に寄り添う女性は私とは違うタイプであった、穏やかそうで控えめでいて、そう…所謂守ってあげたい系の子。高めの可愛らしい声が元彼の名前を呼び、それに対して笑顔で頭を撫でる。それを嬉しそうに笑顔で受けていた。
その子がふと端にいた私に気付く。茶色いウェーブかかった髪が揺れ、私を見て少し目を丸くしたかと思いきや、不敵に目を細めて明らさまに腕を絡めたのだった。







「あ〜〜…!!あらきたぁぁぁ!」
「ッセ!デケェ声出すんじゃねェ」
「何て言うのかな、この気持ちって」
「だからンだよ!?」
「元彼がもう付き合ってた」

講義室にいた荒北を引き止めた。この仏頂面の所為で機嫌が悪いか良いかよく分からない。しかし、そう私が真顔で先程起こったことを簡潔に伝えたら喉を鳴らして笑い始めた荒北だ。

「負けてやンの」
「やっぱそういう感じかぁ」

盛大なため息をつき、荒北を嫌そうな顔で見た。

「男ってバカ」
「バカに振り回されてんのてめェだろ」
「ひっど、これだから荒北は」

講義室を出ようとする荒北。これからサークルでも行くのだろう、飽きないやつ…。というか、荒北細過ぎしっかり食べてんの?とか思いつつ自分もまともな事してないから口を噤んだ。
そうだ私もバイト行かないと…。時計の針はもう17時を回りそうだった。不気味な音を立て立てる椅子から立ち上がり、鞄を持った。

「…オイ、おめェバイトだろ?」

とっくに廊下を歩いて行ってしまったと思った荒北がヒョコッと顔だけ出した。

「そー、行ってくる」
「ラーメン臭くなってれば、おっさんの一人でも寄ってくるんじゃナァイ?」
「いや、寄ってきてくれるならイケメンがいい」
「ハッ、ラーメン女にゃおっさんでも勿体ねェわ」

不毛な言い合いをしながら、外に出た所で荒北と分かれる。ふと荒北が歩いていくその先を見るとベンチで本を読んでいた金城君が手を挙げた所だった。…もしかして、荒北私に付き合ってくれた?いや、そんな事ないか。鞄を抱えなおして、ラーメン屋へ急いだ。

バイトの経験は、若かりし高校時代で親の仕事を手伝っていたくらいだったので、正直身内以外の所で働くのは戸惑いもあった。しかし、優しい店主夫婦に面倒みてもらいながら、働く事は楽しくて、少しくらいは様になってきたのではないかと思っている。
ラーメン女か、確かに私の姿で言えば、カフェで可愛らしいエプロンつけてバイトする女友達とは違い、ジーンズとジャージに店の名前が書いたエプロンをつけたものだ。そして伸ばしっぱなしにしていた肩までの髪を黒いゴムで括り、台を拭くのが基本だ。きっとあいつの新しい彼女はカフェで間違いなくバイトしているという私の勝手な思い込みがある。そう、この格好が可愛いか可愛くないかの判断でいけば可愛くはないと思う。が、お店に訪れるおじさん達の反応から寧ろ似合ってるのではという思いすらある。そう、ラーメン女と言われるのにはお似合いな姿だった。

荒北め…ラーメン女とは言ってくれるじゃない。今度来た時はチャーシュー減らしてやる…そんな心狭い事を考える夕方であった。