あの人から彼女を託されたあの瞬間、私は誓いを立てた。先逝くあの人と、自分自身に命懸けで、この手に託された少女を守り抜くと…そう強く誓った。






「…父様、無事だといいのだけれど」





不安げに、少し瞳に涙を浮かべながら呟く少女…雪村千鶴。外見は男装をしているため、一見女に見えないかもしれないが…少なくともその隣を歩く秋風にはどう見ても女にしか見えない。





「今の京の町は物騒だから何もないとは断言出来ないけど、まぁ片っ端から探すしかないね」


「…秋さん…」


「少なくとも、千鶴は絶対に私が守るから…」


「…ありがとう」






きっぱりと言い放つ秋風の態度に千鶴は胸を撫で下ろした。昔から、彼女の言葉に救われてきた。彼女は自分の意見をただ述べているに過ぎないのに、何故か安心させてくれる。





「…それにしても、」


「?どうしたの、秋さん」


「…いや、なんでもない」





千鶴には何でもない、としか告げない秋風だったが…京の町の治安の悪さは一目瞭然だった。昼間はそうでもないが、夜になると町の雰囲気は一変してしまう。賑わいを無くし、剣同士が交わる音と血の臭いが充満した戦場と化す。…特に夜の町を歩くときは警戒心を強める必要がありそうだ。と、思った矢先のことだった。






「うわあ!!た、助けてくれぇ!!」






男の叫び声が聞こえてきた。






「な、何が…!」


「………」





千鶴を自分の胸元に抱き寄せ、様子を眺めていると、どうやら浪士たちが斬り合いをしているようだ。…いや、一方的に斬られていると言った方が正しいかもしれない。






「…千鶴、目を瞑るんだ」


「え…?」





そう言ったが、遅かった。…目の前で浅葱色の羽織を着た男達が一方的に浪士たちを殺している現場を見てしまった。





「きゃっ!……っん」


「…静かに」





叫びそうなった千鶴の唇を手のひらで覆い隠す。そして動じることなく様子を眺めていた、のだが。
微かに発した千鶴の声に反応したのか、浅葱色の羽織を着た男達は二人の方へ視線を向けて来た。…髪は白く、瞳は鮮血に染まっていて、頬に付いた先程斬り殺した男の血を舌で舐める。その様子は明らかに不気味で気持ちが悪い。






「ひっ…」


「…………」






ぎゅっと怯える千鶴を先程より強く自分の胸元に抱き寄せ、この悲惨な光景が少しでも見せないようにと努める。そして腰にある刀を鞘から抜こうと手を伸ばした…その時だった。
違う浅葱色の羽織を着た男達が姿を現したのは。






「…あーあ、見られちゃった」






血に狂っていた者を斬り殺し、こちらに視線を向けてくる。人数は三人ほど。…先程の者達とは違い正気らしいが、油断してはならない。






「どうします、いっそのこと斬っちゃいます?」


「総司、そう軽々しく口にするな…こいつらの処遇は、副長が決めることだ」


「…お前ら、逃げるな。背を向ければ、斬る」






月光に照らされる刃をこちらに向けられた。千鶴は先程以上に怯え、恐怖のあまり気絶してしまった。…そんな彼女を秋風は強く抱き寄せた。






「…貴様等、新選組か。」


「おや、僕等のこと知ってるみたいですよ。まぁ、それもそうか。この羽織り着てれば誰だってわかるだろうし」


「総司、少し口を慎め」


「…お前達には俺達と共に来て貰おう」





副長、と呼ばれている男が口にした提案に秋風は目を細めた。