翌日、千鶴が起床したときには秋風はすぐ傍にいた。





「…おはよう、千鶴」


「あ、おはようございます秋さん…いつも秋さんは起きるのが早いですね…私も準備しないと…」


「着替え、手伝うよ」


「はい、ありがとうございます…」






ささっと千鶴の着物を用意し、彼女の髪を結う。綺麗に整え、腰には小太刀を帯びさせる。







「…さて、朝食の準備の手伝いに行ってきますね」


「千鶴…毎朝同じことを言うのは心苦しいのだけど…わざわざ千鶴がそんな真似をする必要はない。ここにいる者達に千鶴が作った食事を食べさせるなど勿体ないくらいなのだから」


「そ、そんなことは……!」


「…千鶴が心優しい子に育ったことを、奥方様もさぞお喜びのことでしょうが」






千鶴に優しく微笑みかける秋風。彼女の笑みに思わず千鶴もドキッと胸が高鳴ってしまった。…普段あまり見せない彼女の優しい笑顔は一種の武器だと思う。







「それじゃ、行こうか千鶴」


「はいっ」





秋風の言葉に、千鶴は元気よく返事をし、二人は勝手場へ向かったのだった。






「おはようございます、今日は沖田さんと斉藤さんが当番なんですね」


「おはよう、千鶴ちゃん。今日も手伝ってくれるの?」


「このくらいのことしか、私には出来ませんから…」


「ほんと千鶴ちゃんは控えめだよね。どっかの誰かさんと違って…」






わざとらしい言葉を、秋風の方に視線を向けながら話す沖田。しかし彼女は全く気にもしていない。






「…このおひたしの味付け、濃すぎる。これじゃあせっかくの食材の味が生かされないね」


「総司が作るものは皆そうなる」


「僕はこのくらいの味付けが好きなんだよ」





そう言い張る沖田を横目に秋風は小さく溜め息を溢す。…とてもじゃないが、こんなものを千鶴に食べさせるわけにはいかない。ただ、その一心で秋風は沖田が作ったおひたしを作り直し始めた。






「あと、味噌汁。ダシが効いていない。」





さっさと煮干しからダシを取り、味噌汁に入れる秋風。念入りに味付けを忘れずに。






「…癪だけど、あの子が作ったご飯ってほんと美味しいよね。今までの食生活では考えられないくらいにさ」


「秋さんは器用ですから、何でも出来てしまうんですよ。私に料理を教えてくれたのも彼女ですし…」


「へぇ、そうなんだ。あんな見た目は男っぽくてこういうこと疎そうなのに意外だよね」


「…お、沖田さんっ!?そんなこと言っちゃ……」


「千鶴、そいつの分はよそわなくていいそうだ」


「誰もそんなこと言ってないけど?」


「貴様の態度がそう言っているようだったが?」


「ふ、二人ともやめてください…!」







何故こんなにも仲が悪いのか…千鶴は慌てて二人の間に入り、喧嘩を止めたのだった。