「お前はほんと千鶴のことしか頭にねぇんだな」


「それ以外のことは私には不要なものに過ぎない」


「そりゃ、千鶴のことを大事に思うのはいいことだが…もっと自分のことも考えてやっても罰は当たんねぇと思うぜ?」


「私にそんな資格なんかない」


「資格だぁ?」








秋風の返答に原田は思わず眉を寄せる。自分のことを考えてやるのに資格がいるだなんて、堅苦しく考える秋風が信じられないとも思った。







「何だよ、お前は自分を大事にしちゃいけねぇってのか?」


「…それをいちいち説明しなければならないのか?」






自分の問いかけに対し、秋風もまた問い返してきた。…が、それは決してただ問いかけてきたのではなく、これ以上自分に関わるなと線引きをしているようだった。






「別に、んなこたぁねぇけど…」


「…そう」


「…俺ァお前も、女なんだし…もうちょっと自分のことを気にしてやってもいいんじゃねぇかって言いたかっただけでよ…」


「…女、か」






意味深に「女」と呟いた後、秋風はきっぱりと言い放った。







「女なんかに生まれなければよかったのに」







そう告げる彼女の瞳からは苛立ちが感じられる。自分の存在を否定しているかのようにも見れた。







「……それじゃ、私はやることがあるから」


「お、おいっ…!?」







原田は慌てて秋風を呼びとめようと声を発したが…秋風はそれに構うことなくスタスタと屯所内へと戻っていってしまったのだった。







「…何なんだ、アイツ……」






女であることをまるで否定するかのような発言。一瞬垣間見せた苛立ちと、哀しげな瞳。彼女が何を抱えているかだなんて見当もつかないが…少しでもいいから、彼女を楽にしてやりたいと思いながら、左之は遠くなっていく秋風の背を眺めていた。