「あぁ!?一君そっち行ったよ!」


「むっ…!?」


「何騒いでいるんですか…うわっ!?」






今日の新選組屯所はいつもより騒がしい。千鶴は不思議そうに部屋から様子を眺めていた。






「…一体何があったんでしょうね…秋さん」


「…さぁね。あいつらが騒がしいのはいつものことだと思うけど…」






と、二人で話を交わしていたときだった。






「ちょっと二人とも、部屋借りるぜ」


「あ、永倉さん、原田さん、平助君も…」


「…一体何の騒ぎだ」


「聞いてくれよ!実はさ…屯所内に猫が入り込んじまってよー……」







何でも屯所内に忍び込んだ野良猫が、釜やら膳やらをひっくり返し、せっかく作った昼食を滅茶苦茶にし、逃走しているらしい。それに新選組幹部が悪戦苦闘しているのだとか…猫のせいで料理を無駄にした…だなんてことが土方の耳に入れば……恐ろしいことだと聞いていた千鶴は身震いをした。






「フ…馬鹿らしいな」






話を全て聞き終わった秋風は鼻で笑った。







「馬鹿とは何だよ馬鹿とは!こっちは大変だっていうのによ…!このことが土方さんにバレれば全員並んで説教だぜ?」


「お説教で済めばいい方じゃない?きっと手とか足とか刀とか出るんじゃない、土方さんなら」


「お、総司…斉藤も…猫は捕まえたか?」







原田の問いに対し、沖田は首を左右に振る。…まぁあの様子だとそう簡単には掴まえることなど出来ないだろう。沖田、斉藤も千鶴の部屋に入り、腰を下ろした。







「新選組幹部ってのも大変な御身分なんだなー。猫一匹に振り回され、鬼上司に頭下げ、か」


「あ、秋さん!?そんなこと言っちゃ駄目です…皆さん真剣なんですから……」






棒読みで嫌味を吐く秋風を千鶴が慌てて宥めた。すると秋風は小さく溜息を零した後、了承したとでも言うかのように千鶴の頭を優しく撫でたのだった。







「…じゃ、頑張ってくださいな」


「おい、行っちまうのかよ…!?」


「ちょっと、軽々しく触んな原田!」






よっと腰を上げ、どこか立ち去ろうとする秋風を原田が慌てて腕を掴んで呼び止めた。







「頼むよ!俺達に協力してくれって!!」


「…猫ぐらい、そのうち何とかなるだろうよ」


「そのうちなんて呑気に言っている場合ではない。事は一刻を争う」


「…大げさだな」







さてどうしたものか、と明後日の方へ視線を向ける秋風。ちらり、と千鶴の方を見れば此方に両手を合わせて、お願いしますと小さく頭を下げて頼んでいた。…彼女の頼みなら秋風も手伝わざるを得ない。