「ま、こんなものでいいか」


「流石は秋風だな。あっという間に出来ちまった」


「…肝心の猫を捕まえるのはまだみたいだけど」






ぎゃーぎゃーと外から聞こえる騒ぎ声を聞けば、その様子を見なくてもわかる。






「…ここは、騒がしいな」


「まぁ今日は特別だろうがな」


「…猫くらい、さっさと掴まえられるだろうに」







口では悪態を吐くくせに、そう告げる彼女の瞳はどこか優しげなものに見えた。







「何ならちょっくら様子を見てくるか?食事の準備も出来たことだしよ」


「…いや、いい」







原田の提案に秋風は小さく首を振る。






「他に色々やらなければならないことがあるから」


「あ、おい……!」







膳に食事を全て並べ終わると、秋風は静かに勝手場を後にした。原田の呼びかける声など聞こえぬふりをして…騒いでる方に背を向け、自分の部屋へと戻っていったのだた。



その後、無事猫を捕まえ、食事も出来上がり、土方にも何とかバレずに済んだ。皆で秋風と原田と永倉が作った食事をとっているが…その場に秋風の姿はない。






「おい千鶴…秋風はどうした?」


「…え…えっと、気分が悪いから部屋で休んでいるって…」


「あの子、ほんと勝手だよね。目障りだなぁ…やっぱり斬っちゃおうか」


「えぇ!?」


「総司、滅多なことを言うもんじゃない」


「冗談だよ、冗談」






斉藤の厳しい言葉に肩を竦める沖田。…その様子を見て、どうやら本気ではないようで千鶴は胸を撫で下ろした。






「……アイツには、俺から話しておく。聞いておきたいこともあるからな」


「…土方さん、聞いておきたいことって一体何なんです?」


「…いや、別に大したことじゃねぇよ」






沖田の追及を軽く流しながら、味噌汁を啜る土方。その瞳はどこか普段よりも鋭いもののように見えた。






「……秋さん、江戸にいた頃はもう少し明るかったんですけど…」


「秋風が笑ってるところなんて、俺等見たことねぇもんなぁ」







焼き加減もちょうどいい魚を頬張りながら藤堂が口を開く。その言葉に千鶴が少し落ち込んだように顔を俯かせた。






「秋風からは人を寄せ付けない雰囲気が感じられるもんなぁ。まぁ、俺等のことを信用できないって言う気持ちもわからねぇわけでもねぇんだけどよー…何か寂しいよなー」


「…平助君」


「せめてこの場で共に食事をちゃんとするようぐらいさせてぇよな」


「…うん、そうだね」






江戸にいた頃も、そんな日常的によく笑うような人柄ではなかったが……彼女の人柄の良さは近所の人も知っていて、好かれていた。近所の子とはよく遊んでやったり、荷物の多い老人なんかはその荷物を持って家まで送ってやっていた。彼女の美貌からか男性からも慕われ、声を掛けられることも多かった。…最も彼女は相手にもしていなかったが。

そんな彼女のいいところを、彼らには何一つ伝わっていないのかと思うと…千鶴はどこかやりきれない思いにならずをえなかった。