「…………」






縁側に腰掛けながら、懐から取り出した煙管を吸う秋風。…普段はあまり吸わないのだが、今日は何故だか無性に吸いたくなった。







「…今更、昔を思い出すなんて」







先程の賑やかな屯所内を見ていて、遠い過去を思い出してしまっただなんて自分らしくないと思ったが…事実だった。







「…奥方様」






自分に"秋風"の名を与えてくれた彼女の存在が、今日は普段より印象強く脳裏に残っている。






『…お願い、秋風…千鶴を…千鶴を、頼みます……』







炎の渦に呑まれていく中、託されたのは彼女が生んだ幼き少女。今、何が起きているのかも理解出来ていない少女を…秋風は生涯かけて守りぬくと…決意した。

今、あの幼かった少女は年を重ねるにつれて亡くなった美しいあの人の面影と似てきた。さすがは母娘と言ったところか。







「…私らしくないな」







あの頃に戻りたい、だなんて叶わぬことを思ってもどうしようもないことぐらい…自分自身がよくわかってきているのに。今更何を躊躇するというのか。
いろんな思いが駆け巡る心情を振り切ろうとするかのように、カン、と音を立てて灰を落とす。しばらく庭の様子を眺め、気持ちを落ち着かせると…秋風は何事もなかったかのように煙管を懐へと戻し、部屋へ踵を返す。





…千鶴を守ること。それは自分が、敬愛した女性に立てた誓いだ。そのためなら…この手がどれだけ薄汚れようとも構わない。


改めて自分の決意を確認すると、秋風は夜出かける準備を始めたのだった。