「何故だ」


「何故?今お前達がこの場にいた、ということが連れて行く理由だ」


「だから、何故私たちがこの場にいたというだけで連れて行かれなければならないのか聞いている」


「いいから、君達は素直に僕等の言うことを聞いてればいいんだよ」


「………」






この場で逃げようと思えば出来ないことでもなかった。相手は男と言えど所詮は人間風情。鬼の自分からすれば大した相手ではない。…だが、それは自分一人だった場合の話だ。
今は千鶴を連れているし、しかも彼女は気を失っている。そんな彼女を庇って二人とも無事に逃げ切れるかは…何とも言えなかった。






「わかった。お前達の言うことを聞こう…だが、条件がある」


「条件だと?」






ちらり、と一瞬気絶している千鶴に視線を向けた後、直ぐに男達の方へ視線を戻した。






「この者には指一本たりとも触れるな、そしてこの者を休ませる場を用意しろ。この二点だけだ」


「…君、自分の立場ってもんをわかってる?」


「逆を言えば、私に対しては何しても構わない。私からもお前達に手を出しはしない。何なら、その証拠にこの太刀を預けよう」






腰から刀二本を抜き取り、相手に渡す秋風。その行動に迷いは一切ない。






「へぇ…そんなにこの子が大事なんだ?」


「余計なことを話す気はない。さっさと連れて行くなら連れて行け」


「…なら、こいつらは俺が預かっておく」





長髪で上の方で一纏めにしている男は秋風の手から刀を受け取ると颯爽にこの場を後にしていく。その後を秋風は素直について行ったのだった。







次の日になると、千鶴も目が覚めた。






「…秋、さん…ここは……」


「昨夜のこと、覚えている?」


「……あっ…」





秋風の言葉に千鶴の顔色は真っ青になる。…あのような残虐な現場を立ち会わせてしまったことに今更ながら後悔した。






「…いい、千鶴。昨夜、千鶴は何も見ていない」


「え……?」


「千鶴は、何も見ていない。…奴等にはただそれだけ言えばいい。後は私が何とかする」


「…っ秋さん…」


「大丈夫。千鶴は私が守るから」







不安そうに瞳を潤ませる千鶴に優しく笑みを浮かべた。と、そのとき、部屋の襖が開かれた。







「おはよう。よく眠れたかい?」


「…あっ……」


「そっちの君は、こんな状態だったから眠れなかったんじゃないか?何だか申し訳ないね…」


「…え?」






部屋に入ってきた少し年配の男性が眉を下げながら話す。その言葉に千鶴はようやく秋風が両腕両足を縛られた状態であることに気付いた。






「悪いがまだ全部を離してやることは出来ないんだ…とりあえず足に縛りついている縄だけ外そう」


「そうか」


「…秋さんっ…ずっと一晩その状態で……?」


「このくらい何ともない。…千鶴に、こんなことされる方が私には耐えられないから」






両足の縄を外してもらうと、秋風と千鶴は広間の方へと案内された。