「こら総司!そのような物騒なことを言うものではない!お上の民を無闇に殺していいわけないだろう!!」


「そんなムキにならないでください近藤さん。冗談ですよ、冗談」


「冗談に聞こえる冗談を言え」


「…っお願いです!秋さんを殺さないでください!!私にとっても大切な人で……何より、私と…彼は、今やらなければならないことがあるんです!!」


「……」






千鶴の口から出た「やらなければならないこと」。
…本当の意味では同じ目的ではないのだが、そのことを彼女はまだ知らない。…これからも知らせる気などさらさらないが。






「…もういい、連れていけ」


「え…きゃっ…!」





土方の指示により、斉藤が千鶴の腕を掴んだ…そのときだった。






「昨晩の言葉を忘れたか?」






思わず身震いしてしまいそうなほど冷たい声が部屋に響いた。







「…私はその者に、指一本も触れるなと言ったはずだが?」


「…っ秋、さん…」






ふと千鶴が秋風の方に視線をやれば…斉藤を冷たく睨み、今すぐにでも殺し合いになるのではないかというほどの殺気が感じられた。






「今すぐその者を離せ」


「…へぇ、君、まだそんな口叩くんだ?」






そう告げた総司の方へ、今度は視線を向けられた。ギロリ、とその睨みだけで人を殺せるのではないかと思えてしまうほどの睨みが。






「立場わかってる?君達は今詮議をかけられている身なんだよ?僕達は今すぐにでも君たちを斬り殺したって構わないんだからさ」


「…お前達が、私達を斬り殺す…フフ…そう易々と出来ると思っているのだから笑えてくる」


「…何だって?」


「総司、その辺でやめておけ」






挑発してくる秋風の態度が気に食わないのか、沖田も苛立った表情へと変わる。それを見て、先程まで千鶴を掴んでいた斉藤の手は外された。






「これでいいのか?」


「ああ、それでいい」






秋風の言葉に何故か素直に言うことを聞いた斉藤。千鶴に歩け、と促すと千鶴は秋風の方を気にしながらも言われた通り元の部屋へと足を進める。その後を秋風はまるで何事もなかったかのように歩いて行った。







「…アイツ、只者じゃなさそうだな」






原田が何気なく呟いた言葉を…この場にいた誰もがそう感じたことだろう。そのアイツとは…千鶴、ではなく秋風であることは言うまでもない。