「何!?処分はなしだと?」


「いいのかよ、土方さん。アイツ見たんだろ?」


「…俺達は昨夜士道に背いた隊士を処分した。アイツらは偶然その場に居合わせた。」


「それだけの話とおっしゃりたいのですか?」


「…実際目撃を見たとか言うアイツの認識も、その程度のもんだろ」






副長の土方がそう言うのなら、他の者に異論はない。この話は一旦それで終わることになった。
一方、部屋へと戻された千鶴は、あたふたと慌てふためいていた。






「どうするんです秋さん!?このままじゃ秋さんが殺されちゃいます」


「安心しなって、千鶴。私の腕はあんな連中相手に引けは取らないつもりだよ」


「そういう問題じゃなくってですね…!!」


「それに、私は何よりも秋風を守ることが最優先なんだ。このぐらい当然のことさ」


「…私のことに、そんな気を使わなくてもいいっていつも申しているじゃないですか…!」


「何を今更。そんなこと出来るはずがないのに」


「で、でも…!」






未だ納得がいかない様子の千鶴を余所に、秋風はこれからどうすべきかを考える。…考えると言っても、決めるのは千鶴なのだが。






「それより、どうする千鶴?」


「え…」


「このまま奴等の言われるがまま、ここにいるか…ここから抜け出して、綱道さんを探しに行くか」


「!」






秋風はわかりやすく、千鶴に二つの提案を出すと千鶴の顔色も変わった。…そう、自分達にはやるべきことがある。そのためにわざわざ江戸から京まで足を運んで来たのだ。…このようなことで、目的を達成出来なくなるわけにはいかないのだ。







「奴等に私たちの事情を話して和解してからここを後にする、というのもあるけど…あの様子じゃ、聞く耳を持つかどうか……。もし千鶴がここから抜け出したいって言うんなら私が何とかしてあげる。だけど、千鶴を無事逃がすには奴等を足止めしなきゃならないだろうから私は一緒に行けないだろうけど」


「…!そ、そんな……」


「私はどの選択肢でもいい。千鶴が望んだ方を選ぶんだ。どちらにしろ、私は千鶴に従うだけだから」


「………」







…今すぐに、重要な選択をしなければならなくなった千鶴。秋風の的確かつ現状の厳しさを告げる言葉に表情を曇らせる。このまま二人で大人しく言うことを聞いていても殺されるかもしれない、ここを逃げ出そうとすれば秋風を見捨てて一人京の町を逃げ回らなければならない。…出来ることなら選びたくはない選択。しかし、選ばなければならない選択。







「……一度事情を、話してみませんか…?」






ならば、少しでも平和に行きそうな道を選びたかった。争うごとを嫌う千鶴らしい考えだろう。






「なら、私はその説得役は引き受けるだけさ」







千鶴が告げると、秋風は優しく笑みを浮かべた。