「なあ、蒼乃。お前もう少しニコッと笑ったり出来へんのか?毎日毎日そない無愛想で…」


「それが、研究に必要ですか?」


「お前なぁ…!」


「研究に関係のないことはしない主義なので」





ペンとノートを片手に、普通の人から見れば何やら訳のわからない数式を解き続ける蒼乃。それの何が楽しいのか、真子にはさっぱり理解できない。





「…お前、そんな訳のわからんもん解いて楽しいんけ?」


「平子さんには理解不能でしょうが」


「いちいち嫌味ったらしいやっちゃなぁ!!大体、真子って呼べって言うとるやん!」


「そのことは何度も断ってると思いますが?…それでは、私はこれで」


「何や、もう帰る気け?まだ来て10分も経っとらんやん」


「…ここに来るのは、データ採取のついでですから」




パタン、と音を立ててノートを閉じ、腰を上げる蒼乃。そう告げる女の瞳はどこか寂しげに見えた。そんな彼女を大人しく帰すほど、真子も冷たくはない。




「…ええやん、もう少しここにおっても」


「調べたいことができましたので」


「そんなん後にしい。帰るんなら飯食ってからにせえ」


「食べている時間が勿体ないので」


「阿呆か!ちゃんと食えるときに食っとかんと、いざと言うとき困んのお前なんやぞ」


「…平子さんは、お節介ですよね」


「じゃかしいわ、ボケ!!ええから食ってけっちゅーねん」





無理矢理帰ろうとした蒼乃を引き留める真子。立ち上がった蒼乃を再び自分の隣へ座らせる。





「…蒼乃」


「何ですか」


「あんま無茶はしなや」


「…まあ、考えておきます」


「阿呆。そこは素直に嘘でもはい、て返事しとけ」


「私、素直なんで嘘つけません」


「…ほんまお前可愛くないわ」


「ありがとうございます」


「何も褒めとらんわ!」


「可愛くない、って言われるの好きなんです」


「…ほんま、お前訳わからんわ」





呆れながらもそう告げると、何故か彼女はほんの一瞬だが軽く笑みを浮かべていた。






「ありがとうございます」


「……何や、少しは笑ったり出来るやんけ…」


「何かおっしゃいましたか?」


「何でもあらへん、ボケ」