昔は私だって、ここまで研究に執着するなんてしていなかった。そりゃ元々こういうことをするのは好きだったし、夢中になってやっていた。新しいことを発見できれば素直に嬉しかったし、喜助の役に立てているのかと思えばそれもまた喜びだった。

…けど、あの事件があって自分の無力さに嫌気がさした。結局は喜助の役に立てているかだなんて思っていたのはただの自己満足だったことを痛いくらい思い知らされた。
何より…不器用ながらも慕っていた人達を救えなかった自分が大嫌いになった。

人は一つの出来事でよくも悪くも大きく変わってしまうものだ。







「………で、勝手に人の部屋に入り込んで何をしているんですか?平子さん」

「せやから真子やて。何回も同じこと言わすなや」

「私の質問に答えてください。勝手に人の部屋に入り込んで何をしているんですか?」

「んー?お前が部屋から一歩も出てきぃひんって聞いて様子見に来てやったんや。感謝しい」

「厚かましいにも程がありますね。さっさと退室してください、研究の邪魔です」






真子の方など一目を見ずに、ただひたすら自分の研究結果をノートに綴っていく蒼乃。そんな彼女の背中を眺めながら真子はわざとらしく溜息を零した。






「お前、変わったな」

「はい?」

「昔と、全然違うやん」

「…そうでしょうか?私は昔からこうでしたけど」

「そら研究研究煩く言っとったんは変わっとらんけどなぁ、そこまで研究中心で物事考えるような奴やなかったやろ」

「平子さんが勝手にそう思っているだけでは?」






昔のことなんて、知らない。私には興味ない。今、私が興味・関心があるのはこの研究結果だけ。






「なぁ、やっぱりお前…あんときのこと、」

「お喋りな方は、嫌いです」

「いだあああ!?」






ぽいっと蒼乃が真子に投げつけたのは、あまり使用することのない彼女の斬魄刀で。見事彼の顔に直撃した。






「阿呆!!この美形が崩れたらどうしてくれんねん!!」

「美形…?そんなもの、貴方のどこにも見当たりませんが」

「おま、女やと思って舐めとると痛い目遭わすぞド阿呆」

「むしろ私が手術して差し上げましょうか?」

「ああん!?」






彼は賢く、鋭い人だからきっと気付いている。私が頑なに研究にこだわる理由を。だけどそこにはまだ、触れないでほしい。







「まずはその口を閉ざす手術から始めましょう」

「喧嘩売っとるんか!?」
「いえ、本気です」

「……ほんま恐ろしいやっちゃ…」