「どうにかしぃや!喜助!!」


「どうにかって僕に言われても困りますよ〜平子さん」


「せやかて、蒼乃はお前の幼馴染やろ!?」


「それが出来たら苦労しないっスから」






浦原商店を訪ねた真子は、喜助に蒼乃に対する愚痴を零す。ひよ里のように何でもかんでも喧嘩売ってくるタイプも困ったものだが、まだ蒼乃よりもマシだ。
本心、本音をちゃんと口にしてくる分わかりやすいが…彼女は自分のことを何一つ語ろうとしない。自分自身のことを話しているときなど、長い付き合いになるが見たこともない。
泣いたり、笑ったり、怒ったり…そう言った生きた顔をしない。…まるで、生きているのに死んでるようだ。人形のように表情を一つも変えやしない。







「仕方ないっスよ…蒼乃には研究しか興味ないんスから」


「それがあかんて言うてんねん!せやからアイツ、いっつも真っ白で生気のない顔してんねん!」


「生気のない顔ですみませんね」


「そや!…って、蒼乃!?お前いつからそこにおったん!?」





聞こえてきた声に驚く真子を冷たい目で眺めている蒼乃。どうやらお茶出しに来てくれたらしい。






「平子さん、声でかいですから私の地下の研究室まで聞こえてきました」


「嘘つけ!」


「ええ、嘘です。鉄裁さんが買い物に出てますから代わりに私が店番してただけです」


「おまっ…ほんま腹立つ女やな…!」


「そんなに苛々する平子さんにはお茶より牛乳の方がよかったですか?」


「じゃかしいわ、阿呆!それに、真子って呼べって言うとるやんけ」


「お断りします。そんなことより、喜助」




真子の言葉を軽く流し、蒼乃は喜助に視線を移す。





「私しばらく籠るから」


「今回はどのくらいのつもりで?」


「二週間は見といて」


「…その間も、ちゃんと食事ぐらいはとってくださいね」


「…考えとく」






それだけ告げると、蒼乃は浦原商店の地下にある蒼乃専用の研究室へと向かう。ちなみにその隣に一護達が使用した稽古場である。






「ちょい待ち!蒼乃!!」


「何ですか、平子さん。私忙しいんですが」


「忙しいもくそもあらへん!またお前あんな薄暗いところ籠る気なん?」


「ほっといてください」


「あかんあかん、そんなんやと余計性根が腐ってまうわ」






パシッ…と蒼乃の腕を掴まえ、離そうとしない真子。今彼女を離すと、本人が言った通り、二週間は姿を出そうとしないだろう。そんなアンバランスな生活を許していいはずがない。
しかし、蒼乃も譲らない。






「性根が腐ろうと何であろうと、私にとって研究が第一なんです。わかったら手を離して下さい。」


「何言うてんねん、自分の体もっと大事にしいや?一応女なんやし」


「それなら私、男に生まれたかったです」






バッと乱暴に真子の手から逃れると、蒼乃は再びスタスタと奥へ戻っていく。






「おい蒼乃!!待てって言うてんのがわからんのか!?」






どれだけ真子が怒鳴り散らしても、蒼乃は気にする様子を一切見せずに姿を消してしまった。…そんな彼女の態度に、真子の機嫌の悪さも最高潮に達した。






「何やねん、あの女!!もっとちゃんと躾けたりや!!喜助!!」


「…だから僕に言われても困りますって…」