蒼乃は予告通り二週間、自分の研究室に籠りっぱなしだった。真子は何度か浦原商店に足を運んで、彼女のことを聞いたが、喜助から戻ってくる返事はいつも同じだった。
無理矢理彼女の研究室に入ろうとするも、鍵はしっかりと閉められていて、立ち入り禁止の張り紙までご丁寧にされていたので、真子の苛立ちはまた上がる一方だった。





「まぁ、今日がその二週間最後の日なんですからそのうち彼女もひょっこり姿を現しますよ」


「蒼乃のことや、きっと普段よりも青白い顔してるんやろ。ほんま阿呆かって話や」





ズズ…と淹れてもらったお茶を口にする真子。眉間に皺寄せて、不機嫌さは丸出しである。






「いつも阿呆面している平子さんに言われたくないです」


「誰が阿呆面やっ!って、おま、蒼乃!!いつからここに居ってん!?居るなら居るってちゃんと言いやな!心臓に悪いやんけ!!」


「そんな長々とまとまりのない話をされても困ります」





いつの間にか研究室から出てきたのか、蒼乃は淡々と述べながらお茶をすすっていた。真子の予想通り、ただでさえ白い顔が余計真っ青になっていた。






「蒼乃、この二週間ちゃんと飯は食うとったんやろなぁ?」


「馴れ馴れしく名前で呼ばないでください、平子さん。食事なら最低限摂取してました」


「真子って呼べって言うてんのに素直やないやっちゃ…それに、最低限って何や。お前何食って過ごしとったんや?」


「何って、バナナとか林檎とかトマトとか…片手で持って終われるものですが何か?」





蒼乃のとんでもない食生活に真子は目を開かせた。






「お前はまともに食事をとることも出来んのか!?」


「…そんな大声で叫ばないで下さい。徹夜明けなんですから。喜助、お茶お代わり」


「喜助!こいつに飯や!!なんかまともなもん食わせたれ!!」


「…はいはい、そんな二人いっぺんに言われても困りますって。えーっと、お茶とご飯っスね?何かありましたかねぇ…」






蒼乃と真子に言われるがまま、喜助は奥へと向かう。この場に残った二人は変わらず討論し続けている。






「おい蒼乃」


「何です、平子さん」


「お前な、研究やらに夢中になるんはええけどな、もっと加減しいや。飯もまともに食わんと倒れるんがオチやわ」


「…平子さんはお節介ですね」


「面倒見がええねん、俺は」


「へぇ、そうですか」


「…その棒読みやめろや、腹立つねん」


「そんなの私の勝手です」





いい歳になる男女がああも騒がしく揉めるのは、今では貴重なのかもしれない。呑気にお茶をいれながら、喜助はそう思った。






「結局、仲いいんですかね?アレは」