心地よい体温

「君、俺の補佐決定ね」






そう笑顔で告げてきた貴方に、私は拍子抜けしてバカみたいに呆然としたあの日は今はもう遠い昔となってしまった。






「月白、何してるの?」


「だ、団長!?…え、えっと…書類の方を纏めてました」






…正確には、団長の暴れ回った尻拭いとして課せられた書類なのだけど。






「そんなのつまんないよ。俺の部屋でゆっくりしようよ」


「だ、駄目ですっ…団長の部屋なんて……!」






ただでさえ何を考えているなかさっぱりわからない団長なのに…そんな人の部屋で何するって言うのだ。






「そんなの決まってるだろ?俺と1発ヤリ……」


「わああああっ!だ、団長ォォ!それ以上は言っちゃ嫌ですっ!!」


「…っはは、月白ってばほんと純情だよねェ」






団長はサラッと爽やかにそんなぶっ飛んだこと言っちゃえるんだからびっくりだよ、こっちは。





「そんなんで、よくもまぁ宇宙海賊春雨になんかに入れたもんだよ」


「だ、団長が強引に私をここに連れて来たんでしょう…!!」






先程より強い口調で話す月白だが、元々気の弱い彼女のこと。それは無意味と化した。
人間と夜兎族のハーフと言う珍しい血筋をしていた月白は元々は地球で細々と暮らしていた。見た目は人間と何一つ変わらないため、普通に暮らしていつも別に害もなく、平和だった。

……が、






「…君、俺と来ない?」


「……え?」






バイト先の小さな団子屋で働いているときに掛けられた言葉。聞き間違いかと思い聞き返した瞬間……






「まぁ、君に拒否権なんてないんだけどね」


「うっ…!」





ドス…と腹を殴られ、その痛みから気を失って……気付いたときにはもうこの船の中。






「言っておくけど、船はもう出ちゃってるから。地球なんてもう見えもしないよ」


「う、うそ……」






突如引き返したくても引き返せない窮地に立たされ、選ぶ選択肢はたった一つだけだった。









「あのときはホント団長を恨みましたよ…」


「けど今はその選択が正解だったと思うだろ?よかったじゃん」





…よかった、のだろうか?まぁ確かに。天人ばかりだからと言っても、私みたいなハーフの方が珍しいものだし。怖い顔しててもみんな優しいし、何とかやっていけてるからそれでいいのだけど。


……ただ、今でも慣れないことは一つだけ。





「月白、こっちおいでよ」


「いっ今は仕事の最中なんで……」


「そんなこと言う権利が月白にあると思ってる?」






けらけら笑いながらそう告げる神威に月白はぞぞっ…と背筋に冷たいものが走った。


こ、怖いィィ!!てか笑顔なのに団長の背後に黒いものが見えてるんだけどこれ気のせいじゃないよね?ねぇ?



身の危険を察した月白はおずおずと神威の方に近寄る。…が二人の間に微妙な距離があった。






「…月白」


「だんちょ……っきゃ!」





名前を呼ばれたため反応すると、月白は神威に腕を掴まれ、彼の胸板に顔を埋めるような態勢になってしまった。





「×○▲□…?!」


「言葉になってないよ、月白」





…言葉にしたくても衝撃が強すぎて口がうまく動かないんですよ、団長。





「おとなしくしていないと痛い目遭わせるから」


「……!」





そう言われては何も身動きできない月白。彼のされるがままだ。


は、恥ずかしい…!めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど、この体勢…!!






「月白ってほんと小さいよね」


「ほ、ほっといてください…!」





…そりゃ小さい方だけど。小さいし童顔のためいつも子供扱いされてしまう程だけど…!





「触り心地はいいけど」


「ふにゃ!?」






もみもみ…と厭らしい手つきで月白の体中を触りまわる神威。





せ、セクハラぁぁあ!!セクシャルハラシメントぉぉ!!




…なんて、言えることができるはずもなく。小さくため息をつくことしかできない。






「いい抱き枕だよね、ほんと」


「だっ…!」




抱き枕って!!もう人じゃないし!雑貨になっちゃってるし…!!





「…ZZZ…」


「…寝ちゃったし」





けど、なんでかな。団長の体温が伝わってくると……すごく心地よく感じるのは。
こうやって、抱きしめられてると嬉しく感じるのは。

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