彼女の行方

「…遅いなー月白さん、いつもならもうこの時間帯なら帰って来ててもいい頃なのに…」


「ほっとけほっとけ、腹減らしたら帰って来んだろ」


「銀チャンはそういうところが駄目アル。だからモテないネ」


「うるせぇほっとけェェ!!」





万事屋ではそんな会話がされているなどと想像もできずに…月白は見知らぬ男達に捕まっていた。

場所は人影の少ない、町外れにある今や使われていない工場。煤やら埃やらが蔓延していて気味悪いところである。


そんなところで、月白は両手を鉄縄で縛られ、口元はガムテープを貼られ、捕えられていた。


ただの縄なら、月白の力で簡単に外せるのだが、鉄製のため腕が痛み、外すことが困難だった。



「…ん、んーっ!」


「さて、どう落し前つけてもらおうかね?…お嬢ちゃん?」


「……っ!」




びくっと体をビクつかせる月白。瞳には涙が浮かんでいる。……怖い、その感情しか今の月白にはなかった。




「それにしても、こんな細ェ腕で男一人投げ飛ばすとは…どれだけ力あんだァ?」


「…っん!」




無理矢理腕を男に引っ張られ、そのせいで鈍い痛みが月白に襲う。手首はもう赤くなっている。
抵抗する力は最早ない。





「…お前、さては人間じゃねェな?どっかの星の天人ってところか…」


「っ…」


「ははっ、こいつ売り飛ばせばそれなりの金になんじゃねェの?」


「確かに、それなりに見た目もいいしな…」


「力もあるって言うんじゃ戦場とかでも使えるしな……」





男達の会話に月白はますます怯えた。このままではどこか知らぬ星に売り飛ばされてしまう。


そしたら、もう二度と…団長に会えなくなる…と。




それだけは嫌だ。だって、今日団長に冷たい態度をとったままで……あんな形で別れてしまうだなんて絶対に嫌だ、ちゃんと…謝りたい。





「…ん……!」


「あ、逃げたぞ!追え!!」


「チッ、足も縛っときゃよかったな…まぁいい、この工場内から出すな!足を狙え、足を!!」


「見えるところに傷をつけんなよー!?こいつは大事な売り物なんだからよぉ…」





必死に工場内を逃げ回る月白。どこか逃げ道はないか、どこか隠れられる場所はないか……ただただ必死に走り回ったのだった。








「…月白が、まだ帰って来てないって?」


「そうなんですよ神威さん……」


「…んー、何かあったのかな…。」


「な、何かって…」


「そんなの、俺が知るわけないじゃん」





新八が真剣に言い寄ってくるので、神威は笑って返した。別に彼の言葉に確証はない。





「けど確かに、心配だねー。もし俺以外の男に襲われてたらって思うと……」


「思うと…?」


「そいつら、この世から消したくなるよね」


「…っ!」






思わず絶句する新八。この男が恐ろしい男だと言うことはとっくに認識していたのだが、その思いがさらに強くなった気がする。






「いいからさっさと自分の部下探してくるネ!馬鹿兄貴!!あたしもうお腹ペコペコで我慢できないネ!!」


「って言いながらも僕が作ったご飯完食しちゃってるしィィ!!」


「はいはい、探してくればいいんでしょ?探してくれば。…んー、面倒だなー…」





…と、口ではやる気なさそうに呟いていたが…本当のところは月白のことが心配でたまらなかった。


何せ、自分が初めて強くなること以外で興味を持ったのが月白の存在なのだから。


逆に言えば、月白が彼にとって唯一の存在と言っても過言ではないのだ。



んー…と眠そうに背伸びをすると、神威は万事屋を後にしたのだった。



「ねぇ銀さん、僕達も月白さん探しに行きましょうよ」


「あァ?テメー新八、何面倒くせーことほざいてんだよ?いいか?大体俺達とアイツ等は本当はこうやって一緒にいることがおかしいんだよ。アイツ等がどれだけ危険な存在かぐらい、オメーもよくわかってんだろ?」


「…だけどっ!月白さんは、いつも優しくしてくれたから……!」






居候の身だから、と家のこと全てしてくれていた。食事、洗濯、掃除、買出し…一つも文句を言わず全て一人でしてくれていた。





「その恩を返すのは、駄目なことなんですか!?銀さん!!」


「銀チャン、あたし別にあの女のことなんてどうでもいいアル。あの馬鹿兄貴の部下ってだけで吐き気がするネ…だけど、今日の月白の様子はおかしかったアル!なんか、泣きそうな顔していてつらそうだったネ!!同じ女として見てられなかったヨ!」


「……ったく、お人好しも大概にしろってんだ」





はぁ…とソファーから腰を上げ、愛用の木刀を腰に差し、頭を掻きながら銀時は言った。




「探しゃいいんだろ、探せばよォ…」






ぶっきらぼうにそう言いながらも、万事屋を一番に出たのは銀時だった。





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