救いの兆し
「…っ!」


「待てェェ!アマァァ!!」


「…ん〜っ!」





男たちに追い掛け回され、必死に逃げ惑う月白。恐怖のあまり瞳には涙が浮かんでいる。





「(怖い…!)」





涙で視界が歪んでいく中、月白は必死に逃げる。…もしこいつらに捕まれば二度と団長に会えなくなってしまう…そんなのは嫌だ。



こんな別れ方だなんて、絶対に嫌だ。






「(…だから、何が何でもここから逃げなきゃ…!)」







ただその一心で、月白は逃げ惑ったのだった。











「ほんと手のかかる女ネ。ご飯食べる間もなくておかげであたしお腹ペコペコアル」


「神楽ちゃん僕が作ったご飯皆綺麗に平らげてたでしょうが!」


「ったく、ぎゃーぎゃーうるせェ奴だなァ…騒いでる暇あったらさっさとあのバカ娘捜し出せっつーの」



「人の女をバカ呼ばわりするのはやめてよ旦那。月白をバカにしていいのは俺だけの特権なんだからさ」


「嫌な特権だなァおい…で、何か心当たりでもあんのかよ?」






銀時の言葉に神威はそっとあるものを取り出した。






「な、何ですかそれは?」


「俺の船で仕入れた超小型追跡機。月白にちゃんとこっそり付けておいたからこの機械どおり進めば月白はいるはずさ」


「さっさとそれを出すアル!このバカ兄貴ィィ!!」


「うるさいなー、俺は月白以外の雑魚に興味ないんだって」


「だからそんな騒いでる暇があんならさっさと月白さんのいるとこ向かえって!!」





端から見ればやかましいだけの連中。だが本題は真剣なもの。一刻も早く月白を見つけるのに越したことはないのだから。








「…っくそ、どこに隠れやがった!」


「どうせここから出られねぇんだ、逃げても無駄なのによー」


「まぁいい、見つけたら少し痛めつけてやれ。あぁ、顔に傷は付けんなよ、せっかくの売り物が駄目になっちまうからな」





そんな男たちの言葉を物陰に隠れて聞いていた月白は言葉が出てこなかった。





「…っ!」





彼女にあるのは恐怖。ただそれだけである。

ぎゅうっと拳を握り合って必死に恐怖を拭おうとしている月白。カタカタと体は震えている。





「(…団長、助けて…お願い、助けに来て……!)」




ただただ縋る思いだけだった。



あれから数分経った。いや数十分?時間の感覚なんてなくなってしまうくらい私は緊張していたみたいで…唾を飲み込むのも、恐る恐るとでしか出来ない。





「(…どうしよう…)」




せめて手錠さえ外せれば、相手を気絶させるくらい夜兎の血が半分流れている月白には造作もないことであろう。

が、この手錠を外そうにも鍵はないし、無理矢理引きちぎるまでの力は月白にはない。足技はやったことがないので不利なのは確かである。


ここから脱出する手段はないかと、あれやこれやと頭の中を考え巡らせていたそのときだった。





ガシャーン、と激しい音が月白の耳に届いたのは。





「…っえ、」





物音と共に、思わず耳を塞ぎたくなるほどの超絶な叫び声も響き出す。
一体何が起きているのか月白にはちんぷんかんぷんである。

だが、一つだけわかるのが…今のこの騒ぎに乗じてここから抜け出すしかないと言うことだ。





「…っ行こう…!」





ふと物陰から姿を現し、出口を求めて走りだす。



恐怖心に思わず身を竦めて足を止めてしまいそうになるが、今はそんなことを言っている場合ではない。





「はぁ、はぁ…っひ…!」




周りを確認しながら逃げていた…そのときだった。





「…っく、テメー!!こんなときに出て来やがって…!!」


「…あっ!」





自分を捕らえようとした男と鉢合わせしてしまった。




「…テメーのせいで俺等がどんな目に遭ってると思いやがる!!」


「なっ、何の話ですか…!?」


「うるせぇ!こうなったらテメーを人質にして奴らを黙らせ……」


「奴、らって…?」


「いいから来いっ!」


「やっ、やだ……!」





無理矢理月白の手錠で固定された両手首を掴み、どこかへ彼女を連れて行かれそうになったそのとき。





「その汚い手を今すぐ離さないと、殺しちゃうぞ」




聞き慣れた声が、月白の耳に届いた。次の瞬間、月白を掴んでいた男は遠い彼方に吹き飛ばされた。





「月白、帰ろうか?」


「だ、だんちょ…っ」





返り血を浴びながらも、にこにこ笑って話す彼から目を逸らせなかった。





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