彼の愛情表現
無事月白救出に成功した万事屋一行は、店へと戻って来た。普段と変わらず皆だらけきっている中、月白は一つ気になったことがあるので神威に尋ねることにした。
「…そう言えば団長、なんで私があの場所にいるってわかったんです?」
「そんなの決まってるじゃない、俺の月白への愛の力だよ」
「へっ…!?」
「何平気で嘘ついているアルか馬鹿兄貴ィィ!!月白の服にGPSつけてただけネ!!」
「え…えぇ!?」
さらり、と神威が放った一言に一瞬頬を赤く染めた月白だったが…その後すぐに神楽が明かした事実に違う意味で顔を赤くした。
「な、何やってるんですか団長ゥゥ!!私、そんなこと一言も聞いてませんよ!!」
「嫌だな、月白。そのことを言おうが言わまいが付けることに変わりないんだから言う必要なんてないだろう」
「…私に拒否権はないんですか…!」
「そんなのあるはずないでしょ。馬鹿なこと言うと殺しちゃうヨ」
「!!」
ビクリ、と体を震わせ、一瞬で神威の傍から距離を取る月白。その瞳はすっかりおびえ切ってしまっている。
「アハハ、嫌だなー、俺が月白を本気で殺すわけないじゃない。軽く甚振ったり、苛めたりはするけど、それは俺なりの愛情表現だからさ」
「…ううっ…」
どちらにしろ月白からすれば迷惑極まりない。
…何より、神威がいくら月白を好きだの何だの言ったとしても、それは彼女の特異体質の部分だけであって、月白自身のことを好きだと言っているわけでないことは明らかだ。
「銀チャン!なんかこの二人見てるとイラってくるネ」
「あー?ほっとけほっとけ、夫婦喧嘩は犬も食えないって昔っから決まってんだよ」
「ふっ、夫婦喧嘩なんかじゃありません!そもそも私と団長はそんな関係じゃ……!」
「何言ってるの、もう婚前交際でしょ」
「ち、違います!…もうっ団長まで私をからかって……!」
ぷいっと顔を逸らせる月白。瞳はどこか寂しげである。
「…そういうことは、ちゃんと団長が好きになった子に言ってあげてください…!」
「だから月白に言ってるヨ」
「〜っだ、団長が言う私への好きは、ちょっと違います!」
「へぇ、どう違うって言うの?」
「…だ、だからそれは…団長が私を必要としているのは他の夜兎にはない私の太陽への抗体であって…私自身が…いいってわけじゃなくって…」
…なんでこんなことをわざわざ自分が説明しなければならないのだろう。自分の胸を抉るだけに過ぎないのに。
「…つまりはそういうわけですっ…だから、団長は別に私のことなんか好きでも何でもなくて……!」
「なるほど…月白が一体何に怒っていたのかよくわかったヨ」
「…わかってくれたなら結構です…。私も今までのことを忘れますから、団長も…」
「つまりは俺が月白自身を求めればいいってわけでしょ?」
「……は?」
的外れな神威の発言に月白は情けない声を洩らす。一体何を言いだすのだ、この人は。
「だから、俺はいつも言ってるヨ。早く月白を犯し…」
「きゃああああ!!」
本当に何を言いだすのだ、この人は!!今絶対に突拍子もなく恐ろしいことを口走ろうとしていた!!
「大体俺は別に月白の特異体質なんて元々興味ないヨ」
「………へ…?」
「ただ月白を見ていると、つい俺好みに調教したいって言うか…鳴かせたくなるんだよネ」
「………!」
今とんでもなく恐ろしいことを口走ったよ、また!!なんでこの人はこうなんだ!
「これって、俺なりの愛だと思うんだけど?」
「…〜っ絶対、違いますゥゥ!!」
月白は半泣きになりながら、またも神威から大幅に距離を取り、ソファーの影に隠れて怯えることになったのだった。
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