理不尽な上司様
「それじゃ、本当にお世話になりました!」
「あー、ほんとだっつの。これで面倒なもんがいなくなってせいせいするわ」
「旦那ってば、そんなわざとらしい悪態吐いても無駄だって。本当は俺達がいなくなるの寂しいくせに」
「あぁん?どの口がんなこと言ってんだ?」
「ちょ、ちょっと!二人ともやめてくださいっ!!」
銀時と神威の間に今すぐにでも殴り合いそうな険悪なムードが漂ったのを感じ取った月白は慌てて二人の間に割って入る。せっかくのお別れが喧嘩別れだなんて哀しすぎるじゃないか。
「へっ、もう来んなヨ、お前等のイチャつきを見せつけられるのはごめんネ」
「何、月白が羨ましいの?」
「そんなの死んでもないアル!このクソ兄貴ィィ!!」
「残念、俺もこんな出来そこないの妹を愛でる気にはならないヨ」
「ちょっ団長!?なんでそう喧嘩に持っていこうとするんですか!」
「なんでって、つまらないじゃない。平和的に別れるなんて」
「そんな理由…!」
今度は神楽と神威がもめ始めたので、またも月白が止めに入る。…いつまで経っても彼の世話係なのは変わらないようだ。
「ったく、もう来んじゃねェぞ」
「今度来た時は旦那をボコボコのズルズルにしてあげるヨ」
「団長ォォ!!もう帰りますよ!」
「ハハハ、月白は怒りん坊だなー。それじゃ、またネ旦那。今度会ったときは、容赦しないヨ」
月白に強引に引っ張られながらも、神威は万事屋を後にした。
「ったく、月白の奴…あんなろくでもない奴に捕まっちまって、苦労するのが目に見えてるぜ?あー、やだやだ。なんでお前等兄妹は揃いにそろってろくでもねェんだよ!」
「銀チャン!あんなのと一緒にしないでヨ!!あたしの方が格段上ネ!」
「や、それ全然よくないんじゃ…」
「新八は黙ってろヨ!パチ野郎に言われたくないネ!!」
「何だよ、パチ野郎って!!なんで僕がそんなこと言われなきゃなんないんだよ!?」
とにもかくにも…万事屋から、一つの嵐が去っていったのだった。
「…いやーそれにしても…嬉しいヨ。とうとう月白が俺のものになる気になったなんて」
「……な、なんですか…いきなり…っ」
「アハハ、今夜、覚悟していてヨ」
「…!?」
「一睡もさせてあげないからネ」
「なっ何言って……」
「だって俺、これでも我慢したんだヨ?月白に嫌われたくなかったしネ」
「(あれのどこが我慢してたって言うの!?)」
「大丈夫だヨ。俺こう見えてもちゃんと上手いから」
「(そんな心配よりも身の危険が心配なんですけど!!)」
思わず後ずさりしそうになる月白の手をガシッとしっかり掴み、にこにこ笑顔をこちらに向けて来た。
「今夜は楽しくなりそうだネ、月白」
「っい、嫌ァァ!!」
楽しそうに笑う神威とは打って変わって、月白の瞳にはうるうると涙が滲んでいた。
「……私、道を踏み外しちゃったかもしれない…」
「何を今更言ってるんだヨ」
「っ!?」
おしまい
1/22
prev next△