奏でるリップノイズ

「団長、今日は確か地球の方に行く予定じゃありませんでした?」





部屋でごろごろと寝転がっている上司、神威に予定の確認を訪ねる月白。すると、ゆっくりとこちらを向く団長はにっこりと笑っていた。






「あぁ、確かそうだったかもね」


「か、『かもね』じゃないですよ!?絶対そうですよぉ!!こんな呑気にしてていいんですか!?」






自分のことではないのに、自分のことのように慌て出す月白。それもそのはず。マイペースな彼の補佐と言う名の世話係を命じられている月白は神威にちゃんと仕事させるのが役目。

…つまり、神威だけではなく月白も叱られてしまうのだ。






「だって俺、商売関係のこと興味ないし」


「興味あるないの問題じゃなくて、やらなきゃいけないことはやらなきゃ……」


「俺がいいって言ってるんだからいいんだよ。」


「だ、けど…」


「それ以上何か言うんならこっちにも考えがあるよ」


「え、」






腕を引っ張られ、視界が反転。今見えるのは真っ白な壁と相変わらずにんまりと笑っている団長の姿だけ。






「俺好みに反応するように1から躾けてあげるってこと」


「へぇ、なるほど……じゃなくて!なんでこんなことに!?わ、私は仕事するよう頼んだだけなのに……っ」


「俺にそんな口聞いちゃうだなてよほどえらくなったんだね、月白」




にんまりと笑う団長の笑みが怖い、恐ろしい!!





「だ、だんちょ、だんちょぉぉお!!すみません、本当に私が悪かったと思うんで許してくださいィィ!!」


「そうだよね、団長である俺にあんな口きいちゃあね。普通なら俺即刻首を取っちゃってるかな?」





ケラケラ笑いながらそんな恐ろしいこと言わないでください。団長の目、輝いてますから。瞳孔開きかかってますからァァ!!





「な、なんでもするんでっ……許してください…っ」






ぶるぶる震えながら神威に懇願すると、神威は嬉しそうに笑った。






「じゃあ月白に何してもらおっかな〜」




…あぁ!!今更ながら「何でもする」だなんて言わない方がよかったかもしんない…!だって今度は違う意味で団長の瞳がきらきら輝いているもの!!


うぅ…何、言われるんだろ……戦闘とかあまり得意じゃないから、団長の代わりに戦って来いとか言われたらどうしようぅう!!てか、団長の代わりだなんてなれるはずがないっ!






「じゃ、月白からキスしてよ」


「は、い?」




団長の言葉に声が裏返った。






「だから、月白からキスしてって言ってんの」



………えぇぇえ!?



「え、ちょっ…ま……!」


「なんでもするって言ったよね。」




ほらほら、と顔を近づけてくる神威に逃れようと月白は必死にじたばたと手足を動かすが無意味に終わる。




「いだいだいだいですー団長ゥゥ!!」


「俺から逃れられると思ってんの?」





道は、ひとつしかない……





「…う、うぅ…じゃ、あ…その、目…閉じてください…」




顔を赤く染めて、お願いする月白の言うことに仕方ないなぁ、と目を閉じてくれた団長。



……や、やるっきゃない……!




ちゅっ、とリップノイズが聞こえたかと思えば神威の頬にやわらかく、温かい感覚が触れた。




「……っし、しましたからねぇぇ!!」




その隙にと神威から距離を取り、部屋を飛び出していく月白。その様子を、またケラケラ笑いながら神威は眺めていたのだった。

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