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「え、えへ‥‥許して?」
こてん、と首を傾げて可愛こぶっても、エレンに効くわけがない。
「俺がどれだけ心臓が痛い思いしたか分かるか?」
「心臓、?」
なまえの首元へと顔を寄せたエレンは、そのまま白い首筋へ、がぶり、と歯をたてた。
「や、?!ぃた...っ」
「これより痛かった」
まさかエレンに首を噛まれるとは思いもしなかった。
今何が起きているのか、何故ここにいるのか、エレンが何を考えているのか、考える事が多すぎて頭がパンクしそうだ。
というか付き合ってもいない女子の首を噛むのはどうかと思う。
そう抗議しようと口を開くも、エレンの悲しそうな、犬のような目を見れば口から出るのは謝罪の言葉だった。
「ご、めん」
「俺が傷ついたってこと知らねえだろなまえは、」
首筋で喋ったエレンの吐息がそのままかかり、ぶるりと体を震わせた。
もう誰だこの男は、どうすればいい。
もはや体全身に熱を帯びたなまえの体は、緊張と戸惑いで硬直し動く余力は無い。
「ほんと...ごめんってば...、だってエレンが急に変なことするから...っ!」
「変なことってなんだよ」
「こ、こういうっ!」
頬に時々あたるエレンの柔らかい髪の毛のくすぐったさと、エレンの吐息に体をよじらせる。
「エレン、ねえ、.....くすぐった!、やだ、」
力が入らない腕を無理やり動かし、弱々しくエレンの胸板へと力をかける。
そんななまえの抵抗は意味もなく、エレンの体はピクリとも動かない。
ちゅう、と音が鳴り、ぴりっとした痛みが体を襲った。
「え、エレン、...なにしてっ!」
「今度無視したら許さねえ。これでも悩んだんだからな」
顔を上げてグッと眉をひそめているエレンの言葉に、少し罪悪感を覚えて慌てて「わかった、」と首を縦にふった。
「分かってねえ絶対」
「ひどい‥‥信用ないの?」
「ねえだろ」
アルミンにずっと相談したんだぞ、と愚痴を吐かれる。
元はといえばエレンが急に知らない人のように距離を詰めてきたのが問題ではないのか。私が悪いの?と思った気持ちはごくりと喉を鳴らして飲み込んだ。
「その癖にアイツとは楽しそうに話してるし」
「アイツ?」
エレンがこんなに嫌そうな顔するなんて1人しか思いつかない。
ジャンのこと?とおそるおそる聞けば、当たっていたのだろう、エレンの眉間の皺が濃くなる。
「そんな話してたかな?」
「話してた」
まるで小さい子のような拗ね方に、少しだけ頬が緩んだ。