あんた、どこか体が悪いのか。
なぁ、って俺が、たまに真袖をガリガリ引っ張っていたり、手首をずうっと親指で今でも覚えている。瓶詰めの錠剤がびっちり、みっちりある瓶底の丸い蓋をぎいぎい病的な指でいつまでも掴まえているか、がぶがぶをカプセルを飲みこんでいるところばかり見てきたから、てっきりそうだと思ったのに。
この女、あろうことか薬をなんだかうまそうに食うではないか。もっぱら、栄養剤だかなんだか、黄色い液体がまるまる二パックもある点滴の針が刺さったままのそんな腕で薬を食べるのがそんなに旨いのか、気味の悪い奴だと思っていた。だから聞いた。体が悪いのか、って。そうしたら、
「こうでもしないと生きていけないのだ」
なんて、また薬を飲むので、“あぁ、こいつはまずいやつだ。俺が何とかしてやらないとな”、って俺が思うことはちっともおかしくなんてないのだ。
たかだかCランクだろうと、ちょっと任務先でヘマをやらかしたからって、先生にせっせと病院送りにさせられて、あれよあれよと病室のベッドでここ暫く寝起き、お着替えすることに少し、ほんの少し落ち込んでいたら、目の前に病院生活が生き甲斐みたいなもっと不幸なヤツが表れた。俺はこのひとを救ってやらなければならないと思った。聞いてみれば三日間の入院を、それも一月に三度、この病院へ通っているらしいから、医師も看護師も殆どが顔見知りで、病室を点滴棒とこのひとが一緒に出れば大概は親しげに声を掛けられている。
「よりにも病院で、医師と患者が友人のように親しくなってもなぁ」
「……なんだよ」
「いや、明日にはいつでも死ねるこちらからすれば友情なんてムダだなぁと思っただけだよ」
「あんたまさか、いっつもそんなこと考えてんのか?」
「そんな、いつもなわけがない。こういうのはたまにでいい」
「そのたまにが別に今じゃなくてもよかったんじゃねぇかと俺は思っているわけなんだけど!」
「なんだい、うるさいなぁ。ここは病院なんだ。静かにしないか。子供だからってなんでも許されるわけじゃないんだぞ。弁えるんだ」
「いや、弁えるのはあんたの方だ」
でもこの不謹慎なひと、つい最近まで青白い顔で若葉色の入院着を着て点滴を鬱陶しそうにしていたと思っていたら、額宛を巻いてきて、里の門から全くそ知らぬ顔で帰ってくることがある。いや、青白い顔は別に相変わらずだったのだが。栄養が足りていないのか、顔色は死人みたいだったし、細くって、あと“ぺらい”。だからちゃんと食わないといけないだぞ、と俺が折角世話を焼いてやって、料理とかするのにこのひとは普通に食べないのだ。あんまりである。ミナト先生に聞いてみても、あのひとはもうずっとあんな感じだから、オビトが気にすることはないんだよ。でも、あのひともきっと嬉しいとは思っている筈だから、とかなんとなくミナト先生には誤魔化された気がした。それに『あのひと』ってあんた。先生の方が年上なんじゃないのかよ、と俺が言ったら「ううーん」と先生にはやはり巻かれた。俺はますます気になって彼女があっちへ行くにもそっちへ行くにもよく付きまとった。でも俺があんまりにしつこって鬱陶しがるのはわかるけど、まるで羽虫か、と言われたときはかなり、こう、ムカついた。言い方ってものがあるだろうに、暫く俺は彼女と会うことをやめた。でも直ぐに心配になって、彼女の家に彼女へ会いに行った。インターフォンやノックを鳴らしても、カーテンの揺れくらいにうんともすんとも言わないもので、ドアの前でもだもだしていると、老婆の大家が腰が悪そうに階段を登ってきて、彼女は何日か前から病院にいると言うので、屋根伝いを走ってきて病室まで来てみたらますます死にそうな雰囲気で彼女がそこにいた。
「体、そんなに悪いのか。月に何度も病院に通わなくちゃならないくらい」
「近頃は人手不足だからなぁ。使える体は腐る前に使っていかねば」
「なぁ、あんた。死ぬのか」
「死ぬかもなぁ」
「忍、やめないのか」
「やめない」
「なんで、なんでやめない。やめればいいだろ。死ぬかもしれないんだぞ、死ぬのがこわくないのか。それともなにか、どうせ死ぬなら、どうでもいいってか、そんなのおかしいだろ、あんた、自分が死ぬからって全部どうなってもいいのかよ」
「少年」
「オビトだ、俺はうちはオビトだ。少年じゃない、将来、この里の火影になる男だ! 俺があんたを変えてやる。あんたに生きる理由がないのなら、あんたが俺のために生きるんだ。死なせない。俺のために、あんたが俺の里で、忍なんかやってないで、病気を治して、戦争のない平和な世で暮らすんだ」
「はは……いいなぁ。ちょっと生きてみたくなった」
「……そうだろ」
泣いてるのか、という彼女の言葉が嬉しそうだったから、泣いてないって言った素直じゃない俺すら愛しいみたいな笑い方だから、俺も何故か嬉しくなった。
「あんた、名前は? なんていうんだ?」
「エモだよ。もう知ってるのかと思ってた」
「俺だって、もう知られてるかと思ってた」
「オビト、蝿みたいだって言ったこと、謝るよ」
「えっ、あぁ……いいよ、もう気にしてない」
「怒っていたんだろう。すまないなぁ」
かわいいかわいいって俺の頭を撫でるエモは、結局来月には戦死してしまって、俺は一ヶ月に一度だけの墓参りは絶対に欠かさなかったけど、半身を大岩に潰されて、死んだと思われていたうちはマダラに救われてからそうもいかなくなった。それから、エモにはまだ言えなかったんだけど、俺には好きな女の子がいて、その女の子がリン、って言うんだけど、エモは知らないよな。俺はリンを守れずに死なせてしまったことを今でも悔やんで、世界を恨んだ。リンがいない世界なんて、なくてもいい。俺はマダラと手を組み、月の眼計画を実現させる。
俺は真の意味で世界を変えるよ、エモ。
お前もきっとそこにいるだろう。
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