あぁ、蟻めや。私は恨むぞ。あのアブラ蝉が蟻のために食い物にされているじゃないか。
おおよそ女子ではないな、と宗近の爺があはれなり、と私が袴でいるからと膝頭を立ててるはいいが、大いに掛けるのはよろしくない、だなんて、たんと株を叩かれたが、やめろと言おうか言うまいか、しかしなぁ、と一人でアブラ蝉にわらわらと黒い六本足でかかっているのを見てあぐねていたら「なにを熱心にそんなに見ているのだ?」と爺が言うので「蝉を」と、私はアブラ蝉のいるあそこへと爪で指してあれと呼んだ三日月宗近が「鶴が遊ばれた蝉か」と、はははと笑う。私もはははと笑いたい。
「……似ているかな、私は。似ているのかな」
アブラ蝉の足が何匹も蟻に持っていかれている
「アレと、主がか? いやぁ、まっこと……俺にはわからんな」
三日月がふぅんと私を天辺から爪先まで見る。あまり、よく思われていないなぁ、ってわかる。
「いや、そうじゃない」
私は不細工だなって言われた膝一本だけの曰く雅でないと呼ばれそうな、らしからぬお座りにもう一本も膝を立てて、せめて少女っぽく丸ごと腕で抱き締めれば、この人となれど深刻に受け止められたようで、爺のように少しだけ屈んでくれた。あぁっ、今度は羽を持っていかれている。
「ん?」
「そうではなくて……」
「……そうではなく?」
「いや……すみません。やっぱり、なんでもないんですなんでも」
「おかしな主だなぁ」
それだけで、爺にはあなやとそのまま逃げられてしまったが。
みっともなく、蟻に体をむしられるアブラ蝉の姿。私はどんなふうに死ぬかな。死ぬ、ってあんまり考えることがない。きみもこんなふうに死ぬのかな、と私に言った鶴丸さんのことなんとなく思いついてきた。
鶴丸さんにはあれが、私に見える。誰かに殺される私が見える。
私があのアブラ蝉のように死ぬ。私がアブラ蝉なら、あの、私を殺す蟻んこどもは誰だろう。鶴丸さんかな。でも鶴丸さんは、白いから違うかな。
「考え事か?」
「ひっ……!」
ばっと白いにおいのする髪がひょっと見えた。私はアブラ蝉のことでやましい気持ちを知られたのかと思ってドキリとした。暑い気がする。だからって、着物の襟を指が二本だけ生々しく触れられたのには、危ないと思った。
「いやいや、すまんすまん。これといって、驚かせたつもりはないんだが……」
「い、いえ……こちらこそ過剰に驚いてしまって……すみません」
「それで、何を見ていたんだ?……って、なんだ蝉か。きみも変わったやつだな。死んだ蝉を見ているなんて。つまらなくないのか?」
「鶴丸さん」
「なんだ」
「私を、殺してみたいですか。あの蟻のように」
「もし、仮に俺が『ある』と言ったら君はどうするんだ」
「えっ。はは、どうしようかな……すみません。それは、考えてませんでした」
「そうか。それは、よかった」
なんだろう、蝉の鳴き声がしないのだ。
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