09


随分奇抜な色の髪を持った少女が扉をあけたことに若干戸惑っている。え、パワーローダー先生て女の人?

「えぇと、パワーローダー先生…?」
「違います!わたしは発目明、パワーローダー先生は中ですが、先生になんの用事ですか?コスチュームのことについてですか!?」
「うぇ、うんそうだけど」

なんかぐいぐい来るなこの子。コスチューム、という言葉を俺が否定しなかったからかキラキラとした目を向けてくる。あれか、この子サポート科の子か。

「発目、何をまだ騒いでるの。今日はもう帰りな」
「パワーローダー先生!コスチュームの相談があるそうですよ!」

力強くドンッと俺を扉の中へ押し込んだ彼女、発目はにこにこさせながら後ろ手にドアを閉めた。うん、なんかカチャンて音したけど締められた?え、何この子怖い。

「どんなコスチュームの相談ですか?!」
「いや、お前は帰りなさい」

パワーローダー先生の言葉も何のその。ぐいぐい詰め寄ってきて壁ドンされてるんだけど。見かねた先生が子猫をつまむように襟首を付かんで引き離してくれてようやく息をつく。とりあえず席に付けばにこにこ興味津々な眼差しが俺に注がれる。これは早く先生に要件を言って脱出すべきだろうか。

「コスチュームの改良のことについてなんですけど、時間大丈夫ですか?」

かなり今更ですけど。
大丈夫だよ、と発目を片手間に押さえつけながらため息をつく先生。お疲れ様です。

カバンの中から重みのあるソレを取り出す。机に置く前におもちゃを与えられた猫のようにキラキラと目を輝かせた発目に奪われた。

あ、先生に殴られた。コントですか、あなたたち。

「俺ヒーロー科一年の夜守かなめです。今日初めてコスチューム着ての訓練だったんですけど、」

事のあらましを告げる。コスチューム要望書に鋼鉄製の頑丈な紐を収納、それを巻き取る機能付きの腕輪がほしいと書いたら、大きさはコンパクト化されたが、重量がおもすぎて今日の訓練で付けてみて使えそうになかったこと。まぁ、あれはハンデの重りもプラスにあったから余計なんだろうけど。どうにかして軽量化出来ないかどうかを今日は相談に来た。

「鋼鉄製、ね。頑丈なのが欲しいのかい?」
「これからのことを考えると俺の身体能力はそんな高くないので、その紐の先に金具か何か取り付けて移動する時とか、あとは他者を拘束するのに切ることも可能な長さの紐があれば便利だと思って要望書は出しました」
「鋼鉄製の紐…」

うぅーん、と先生もすぐには案が出ないようだ。しかし、無理と一蹴されないだけマシである。

先程から随分と静かな発目は紙に何かをかき殴っている。それをひそかに見ても何が書いてあるか全くわからない。幾何学模様にしか見えない。

「あなた!体重何キロですか?!」

発目をじーっ、と見ていると急に顔が俺の方を向き眼前にその顔が迫ってきたものだから、思わず椅子ごと後ろに倒れた。後頭部に激しい痛みが走る。そんな俺にはお構いなく体重!と叫ぶ彼女は一体何なのだ。

「65くらい…?」

体重計なんかマメに乗らないし、身体検査のときそれくらいだったはず。なんなんだ。

「鋼鉄製ではなくとも、耐熱性に優れて軽く、繊維を太くすればあなたくらいの人間を持ち上げることができる繊維!あります!」
「…まさか、”蜘蛛の糸”じゃないだろうね」
「そのまさかです!蜘蛛の糸!夢の繊維!すべてを蜘蛛の糸の繊維で作ることは難しいかもしれないですけど、他の繊維に織り交ぜることで強度を上げることはできますよ!」

キラキラした眼差しでパワーローダー先生に熱く語っているが、当の俺が全然わかってない。蜘蛛の糸てあの蜘蛛?

「あなた!わたしにそれ任せてくれませんか!?」
「ちょ、発目勝手に何言ってるの」
「私どっ可愛いベイビー作ってみせます!性能良ければオーケーでしょう?!」
「よほど良ければだよ!基本はちょっといじる程度にしかできないからね。大幅な改良になるとこっちで申請書つくらなきゃいけないから認可書のないお前にはできないからね!」

プンスカ怒るパワーローダー先生に同情しつつ、軽量化されて実用性があるものができるのであれば俺としてはありがたい。それに、きっと発目がこの場にいなければその”蜘蛛の糸”の話は出てこなかっただろう。彼女の発想豊かな点は発明者としては重宝すべきものだろう。

「先生、俺からも発目にお願いしたいんですけど、駄目ですか?」
「…まぁ、よほどいい案持ってくれば許可するよ」
「じゃあ、私はさっそくどっ可愛いベイビー作りますね!」

もう色んな発送が頭の中に浮かんでいるのか、すでにガリガリと白い紙が幾何学模様で埋められていく。こうなれば聞かないからいつできるか分かんないよ、と呆れたふうにパワーローダー先生は肩をすくめた。

「発目」
「なんですか?」
「連絡先教えてくれない?それ出来たらすぐ知りたいし、他に面白いやつできたら教えてよ」

これだけサポートアイテムに対して情熱を注げる発目は、きっと特異な人物だろう。そんな彼女に作ってもらうものはきっと俺自身の想像をも越えたものを作ってくれるかもしれない、という期待に思わず口元が上がる。

「では、ベイビーができたら連絡しますね」

なんて、レンチ片手に言う発目はやっぱり変人だ。

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