11


PM0:50。

なぜ、こんな時間にある、ヒーロー基礎学。
お腹いっぱいで眠たい時間帯なんだけど、てか、眠たいんだけど。

「さて、今日のヒーロー基礎学だが…俺とオールマイト、そしてもう一人の3人体制で見ることになった」

今日も今日とて素晴らしいきっちりさで教室へ入ってきた相澤先生に感服する。絶対先生ってA型だよね、几帳面そう。

「災害水難なんでもござれ、人命救助訓練だ!!」

相澤先生がRESCUEというカードを眼前に掲げる。なんだろ、ヒーロー基礎学はカード方式なのか。てか、人命救助訓練か、一番難関の訓練な気がしてならない。人命救助なんか前世でもしたことほとんどないし。

周りを見れば楽しげに話すみんなの姿が。「おい、まだ途中」ギロッと先生の三白眼がこちらへ向く、こえぇ。

「今回コスチュームの着用は個人の判断で構わない。中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな」

準備開始、の言葉とともにコスチュームを取りに行く。まぁ、腕輪はないけど仕方ない。あっても重さでアウトだしな。

ゴーグルを頭に装着し、バスを待つべく外へ出た。

周りを見渡せば一人体操服姿の緑谷の姿が。着緑谷のコスチュームて人命救助に不利なやつだっけ?思い出してみるがそんなことはなかった気がする。どうしたのだろうか。

「緑谷はコスチューム着ないんだ?」
「あ、夜守くん。この間の授業でボロボロになっちゃったから修復待ちなんだ」
「あー、そういや爆発してたもんなー」

前回の授業唯一のけが人であった緑谷の姿を思い出せば納得した。たしかに見るも無残にボロボロにされてたな、爆豪に。容赦なかったよね、爆豪少年。

ピッピッ、と軽快に鳴る笛の音に面白く指揮を取る飯田の姿が目に入った。ほんとに委員長気質というか、なんというか。すごい張り切りようだな。

飯田の指示により順序よくバスへ乗り込むみんなを見送り最後に乗り込む。さて、空いている席はどこか。

「ここ、空いてる?」
「…ああ」

ちょうど目に入った空席の、隣の主に声をかける。白と赤のツートンカラーが目印の轟。そういえば話すのは前のヒーロー基礎学以来か。

「轟も仮面は外してるんだね」
「人命救助訓練じゃ、邪魔になるしな」
「あー、たしかに」

ストンと腰を下ろせばゆっくりと発進するバス。
随分と盛り上がっているバスの前方座席群。みんな他の個性だったり自分の個性自慢してるけど、俺的には。

「轟の個性っていいよなー」
「は?」
なにやら爆豪がいじられて怒鳴り散らして随分騒がしい。そういえば、爆豪の個性も派手だったな。派手さなら一番かもしれない。

「いやー、個性ていうのに二つもあるし。制御は大変そうだけどコントロールできたら自由自在じゃん。なによりかっこいい」

俺の個性ももちろん自慢だし、強いと自負してるけど。やっぱり派手さも欲しいじゃん。だって男の子だもん。憧れるよねー。

ぽかん、としたように轟がこちらを見ている気がする。なんだ、生意気だとか思われてるのかな。まぁ、制御大変そうだよな。2つの個性だから制御も二倍大変とか?うわ、なにそれやだ。

一つの個性でさえ鍛錬大変なのにさらに二倍とかおかしくなりそう。うわ、俺無理だ。

「もう着くぞ、いい加減にしとけよ…」

おっと騒ぎすぎたらしい。相澤先生の鉄槌が下る前に黙ろう。まだ轟から視線は感じるが空気を読んだのか、何も言葉を発しなかった。




バスの中から見た人命救助訓練場は外から見ればまるで体育館やドームといった様式だ。しかもでかい。

相澤先生の後ろに並んでついていき、扉をくぐった先には見渡す限りの巨大な施設。誰かがUSJかよ!?と叫んでいるが、あながち間違っていなさそうだ。USJこんな感じだもんな。てか、一番奥めっちゃ燃えてない?

「水難事故、土砂災害、火事…etc。あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も、ウソの(U)災害や(S)事故ルーム(J)!!」

USJだった!! 

宇宙服を模した格好をしたやけに可愛らしい先生は13号先生というらしい。なんか声とか動作とかかわいい。いや、中身わかんないけど。

「えー…、始める前にお小言を一つ、二つ…三つ……四つ…」

おおう、どんどんお小言が増えていく。
そして、13号先生が語りだしたのは自身の個性について。”ブラックホール”という強烈な個性でどんな災害からも人をすくい上げるその個性。しかし、それは裏を返せば簡単に人を殺せる力である、と。

その言葉にドキリと心臓が跳ねる。俺自身を名指ししたわけではないが、俺の個性も使い方次第で、俺の言葉一つで簡単に人が殺せてしまうのだ。

「この授業では…、心機一転!人命のために”個性”をどう活用していくかを学びましょう。君たちの力は人を傷つけるためにあるのではない。助けるためにあるのだと、心得て帰ってくださいな」

俺はみんなとは違って随分不純な動機でこのヒーロー科に入ったわけだけど、やっぱり、前世と同様”誰か”の役には立ちたくて、この力を使いたくて、ここにいるんだ。

そんな当たり前のことを再確認する。


13号先生の言葉に誰からともなく拍手が溢れる。そんじゃあまずは、と演説が終わったことを確認した相澤先生がフェンスから身を起こし、こちらをみて。



息を詰めた。




「一塊になって動くな!!13号!!生徒を守れ!!」




階下の広場から溢れてくる黒い靄。異形の人。

青髪の、男。

ぞわりと、数日前の悪寒が背中を撫でた。

prev|next
[戻る]