12
「何だあれ、この間みたいにもう始まっちゃってるパターン?」
鋭児郎が呑気にそんな事をいうから頭をぶん殴ってやりたい。いや、どうみてもおぞましい嫌な感じしかしないんだけど、俺!
「動くなあれは…、敵だ!!!」
相澤先生が緊迫した声を挙げるとようやく異常事態を察知したらしい、まわりのみんなも体を強張らせた。
「敵ンン!?バカだろ!?ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!」
こちらの困惑を尻目に次々現れる敵たち。
「13号先生!侵入者センサーは!?」
「もちろんありますが…!」
先程からいくら耳を澄ませても警報音は聞こえない。セキュリティが壊されているのか、それともセキュリティを掻い潜って入り込んだのか。
「何にせよセンサーが反応しねえなら、向こうにそういうことが出来る個性のやつがいるってことだな」
轟の冷静な分析に皆が耳を傾ける。
「校舎と離れた隔離空間、そこに少人数が入る時間割。バカだがアホじゃねえ、これは…。何らかの目的があって用意周到に画策された奇襲だ」
そうしている間にも次々黒い靄から溢れ出てくる人、人、人。
その中で立ち尽くす、青髪の男はやはり異様である。あの時以上に異様な立ち姿なのは体中に手が蔓延っているからだろうか。不気味だ。
「先生。あの青髪、学校のセキュリティ壊されたとき、学校の中にいましたよ」
「…なに!?」
「学校の先生かもって思ったから誰にも言ってなかったんだけど、違ったみたい。先生、あいつに触れられたらだめだよ。俺の個性の結界、消されたから」
首に巻かれた捕縛武器をしゅるりと緩めながら、ゆっくりとあちらの動向を伺いつつ相澤先生が広場を見渡す。
「13号避難開始!!学校に電話試せ!…電波系の奴が妨害している可能性もある。上鳴、お前も個性で連絡試せ」
「ッス!」
「先生は!?一人で戦うんですか!?…正面戦闘は…!」
「一芸だけじゃ、ヒーローは務まらん。13号任せたぞ」
叫ぶ緑谷を尻目に相澤先生は広場の群衆の中に飛び込んでいった。加勢すべきか、考え倦ねていたのはその一瞬だけだった。
敵の個性を相澤先生が自身の個性で消しつつ、体術や捕縛武器を駆使し敵を圧倒してゆく。さすが、最高峰のヒーロー科教員。さっきの言葉は伊達じゃないわけね。
「夜守ちゃん、先生の邪魔になっちゃだめだから避難しなきゃ」
蛙吹に促され、俺も広場から目をはなし、みんなの後ろに続く。飯田に怒鳴られる緑谷を横目でみつつ。
一瞬の隙に、目の前に大きな靄が出現した。
「初めまして。我々は敵連合、せんえつながら…この度ヒーローの巣窟雄英高校にはいらせていただいたのは、平和の象徴オールマイトに、息絶えて頂きたいと思ってのことでして」
靄から声が発せられた。一瞬でこちらへやってきた黒い靄。大量の人をここへ運んできたことを考えると、ワープ的な個性なのだろうか。
個性の発動範囲がわからないまま、突撃していくのは危険。けど、このままここにいてもあいつらの思う壺。
13号先生が人差し指の先を開放し、個性を発動させようとしているのが目に入る。出来ればそれの補助くらいしたいんだけど。
黒い靄全体に結界を形成すればあいつを捕まえることくらいはできる気はする、が。その靄の範囲がなんせ広い。一瞬で囲えられるほどの範囲ではない。
もうちょっとコンパクトにまとまってくれないものか、と一番後ろにいる俺は人垣に阻まれて黒い靄からは手元まで見えないだろう。密かに手をおろしたまま印を結ぶ。
あとはタイミングを見計らって。
ボーンッ!!ガアーンッ!!
大きな爆発音。それから殴打音。
「その前に俺たちにやられることは!!考えてなかったか!?」
瞬間的に間をつめたらしい、鋭児郎と爆豪が黒い靄に殴りかかっていた。さらに飛散する靄に俺は頭を抱える。それなら前のほうが範囲マシだった!
しかし、もしかしてあの打撃と爆破は効果があったのだろうか。
「ふぅ、危ない危ない。そう…生徒とはいえど、優秀な金の卵」
そんな簡単には倒れてくれないですよね、うん。
「ダメだ、どきなさい!二人共!」
「蹴散らして、嬲り、殺す」
その言葉とともにこちらへ襲い掛かってくる黒い靄。ワープの個性であれば飛ばされてはどこへ行くかわからない。
一瞬のうちに目の前に広がる黒い闇。
俺は自身を守るために結界を展開した。
………………
目の前から黒い靄が晴れたあと、クラスメイトの大半が消えていた。俺はまともに黒い靄に包まれたはずだが、結界の定礎をコンクリートにしていたからか、結界を展開した場所から全く動いていなかった。
障子が耳を複製し、全員が散り散りではあるが、USJ内にいることがわかっただけでも朗報である。
あとは。
目の前にいる厄介そうなこの黒い靄の男をどうするべきか。
「おや、あなたですね」
靄のなかにある怪しげな光と、目があった気がする。
「確かに、面白い。わたしの個性で完全に包み込んだはずなのに、発動しなかったのですね」
厄介だ、と呟かれた言葉にこれはこいつを凌ぐ方法として有用なのだと確信する。
だからといって勝つ道筋が通ったわけではないけど。
「委員長!」
13号先生が決心したようにひときわ大きな声を上げた。
「君に託します。学校まで駆けてこのことを伝えてください」
警報はならない、電話も繋がらない、警報機にも全く反応がない。ーーーー君が駆けたほうが早い!
確かにこの中では飯田が一番適任である。しかしっ!とためらう飯田にお前にしかできないことだと、皆が言う。
「救うために、個性を使ってください」
「サポートなら私超できるから!する!から!」
「俺の結界もあいつには関係ないみたいだから道を作ることはできるよ」
とにかく先生たちを呼べばどうにかなるはずだ。俺達がここでこんな状態なのを外へ知らせる必要がある。
「手段がないとは言え、敵前で策を語る阿呆がいますか」
「バレても問題がないから、語ったんでしょうが!!」
ズズズとこちらへ猛威を振るおうと広がる黒い靄。13号先生も自身の個性を発動した。
やっぱり簡単には行かせてくれないよね!
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