13


13号先生のブラックホールは確実に黒い靄の男を捉えていた。徐々にその吸引力で靄が吸われ始めた頃、危機的状況であるにも関わらず、靄の男がニヤリと目を歪ませた。

「戦闘経験は一般ヒーローに比べ半歩劣る。……自分で自分をチリにしてしまった」

突如先生の後ろにも現れた靄から先生の能力が出現する。こいつ!人だけじゃなくて能力までワープさせることできるのか!

ガクリと膝を付き、倒れ込む先生に結界を施す。このまま先生も飲み込まれてどっかに連れて行かれたらたまったもんじゃない。

皆が呆然とする中、砂藤に怒鳴られ我に返った飯田がようやく扉へ向かって走り出した。それを阻止すべく動く靄の男。うまい具合に男が着ていた衣服に麗日と瀬呂が個性を使い男の行く手を遮り、飯田の邪魔にならないよう阻止する。

防火扉にも負けない、重く厚い扉の前に飯田がたどり着く前に。

「飯田!ちょっとどいててよ!方囲、定礎、結っ!」

邪魔な扉なんてなくしてしまえばいいでしょ!

「滅っ!」

結界とともにポッカリと四角の穴が空いた扉。立ち止まることなく、その扉を通過した飯田を見送り、先程浮かせた男を何処かに飛んでいかないように引っ張っていた瀬呂を探す。

が、あいつ!投げやがった!

「瀬呂ー!!!そのままひっつけといてよ!なんで投げるの!そのままにしててくれたら俺が結界で閉じ込めといたのにー!!」
「えー!?いや、そんなことできるなら先に言っとけよ!」
「言う暇なかったんだよー!」

あほー!と瀬呂に暴言を吐きながらゴーグルを装着する。望遠機能を兼ねたこのゴーグルで随分と離れてしまった黒い靄の男を捉え、…結界を形成する。

「…避けやがったー!」

むかつく。己の個性を使ったのであろう、突如結界を作った場所から消えた男に地団駄を踏む。
どこにいった、あの男。
頭であろうあの青い髪の男の近くにワープしてきていないか確認して。ーーー息を呑んだ。

「相澤先生!!!」

脳みそ丸出しの大男に馬乗りになられて腕をへし折られている。それを認識した瞬間に脳みそ男に結界を使って殴打をお見舞いしてやる。が、全く微動打にしていない。じゃあせめて動きだけでも封じてやる!


脳みそ男の両手に何重にも結界を施す。先生の頭を持ち上げたままで静止する腕。先生の顔面が血で染まっているところを見るとコンクリに顔面打ち付けられたのか。

なんて、感想を抱いていれば突如視界に飛び込んでくる緑谷。え、どこにいたの君。

どうやら近くにいたらしい緑谷は蛙吹の頭に手を当てようとしている青い髪の男に殴りかかろうとしていた。やばい、蛙吹が危ない。

ピンッと形成した小さな細長い結界を勢いをつけて青い髪の男に向かって打ち付ける。脳みそ男とは違いあきらかにヒョロヒョロの男は見た目を裏切らず結界で殴打した勢いで後ろに尻餅をついていた。よし、蛙吹から離れたな。

青い髪の男に殴りかかったはずの緑谷はいつの間にか俺の結界を跳ね除けた脳みそ男に腕を掴まれている。結界にかなり力込めた筈なんだけど。自分の結界の軟弱具合に腹が立つ。やっぱり早く会得しなきゃこの世界でもこの程度の結界、全然役に立たない。

その怪力の脳みそ男に握られたら緑谷の腕なんか粉々になっちゃうじゃんか!

あー、もう!どこもかしこもしっちゃかめっちゃかじゃん!

お願いだから間に合ってよ!なんて祈りにも近い思いで緑谷と蛙吹たちを守るための結界を形成、した瞬間。

バァァンっ!!!!!

轟く破壊音。

誰もが新たな敵かと身構え、先程飯田が出ていった扉へ目を向ける。コツリ、コツリと威圧感をも伴って現れた姿に、ここにいた誰もが安堵の息を漏らした。





「もう大丈夫。ーーーー私が来た!」
「「「「「「オールマイトォォ!!!」」」」」






前回見たような、笑顔はなかった。


なにかをぽつりぽつりと、つぶやいたかと思えば、オールマイトの姿は一瞬で消えた。いや、目で追えない速さで下の広場へ駆けて行った。

あっという間に相澤先生、緑谷たちを一旦一纏めに地面に下ろすと、 青髪男と脳みそ男に突撃しに行った。それをまともに受けたはずの脳みそ男もオールマイトへ痛烈な反撃をする。殴り合いでは埒が明かないと判断したのか、オールマイトはおもむろに脳みそ男の背後へまわり、轟音のバッグドロップをかました。辺り一体に振動が走る。

望遠機能でことのあらましはわかるけど、音声もわかるような機能ほしいよね。何喋ってるかわかんない。

広場から身を乗り出してことの顛末を見守った。

…そんな悠長にしている余裕など、なかったのに。



砂埃が落ち着き、視界がクリアになった俺の目に飛び込んできたのは、脳みそ男に横っ腹をえぐられ、血を吐いているオールマイトの姿だった。

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