14
「夜守!」
誰かが俺の名前を叫んだ気がするけど、俺は結界を宙に形成しながらその上を駆けた。今、この場にアイツ等を仕留めることができるのは悔しいけどオールマイトしかいない。俺はサポートすらも出来ない。なら、オールマイトの行動を阻むやつのお邪魔虫くらいの役割はしなきゃ、だめだよねぇ。
オールマイトたちの元へ駆けながら、左手から念糸を作り出す。二本目まで出た。三本目は、…今日は出ないか。なら仕方ない。
ようやくオールマイトたちの頭上近くまで近づくことができた。バッと左手を広げ、二本の念糸を脳みそ男の首とオールマイトが外そうと藻掻いている左脇腹側の腕に巻き付かせ絡める。
巻き付かせれば、こっちのもん。
「オールマイトから手はなせよ、コノヤロウ!」
どうにか腕の拘束が緩まないかと念糸をこれでもかと、ギリギリと締め上げる。流石に首の締付けは嫌だったらしく、脳みそ男の鋭い双眸が俺へ向けられる。こわい。
漸く俺の存在に気づいたらしい靄の男がこちらへ向かって来ようとしたが、叫びながらオールマイトの方へと駆けてくる緑谷の方へと向かっていった。
馬鹿、せっかくオールマイトが安全な所に降ろしてたのに。
「どっけ、邪魔だ!!デク!!」
ボンッ!!という爆発音に靄の男が吹き飛ぶ。緑谷と靄の男の接触は回避されたようだ。その男の胴体を掴み強引に爆豪が地面へと張り倒した。次の瞬間にはピキピキと周りの温度が急激に下がり始め、脳みそ男の半身が氷漬けになった。ちょっ、俺の念糸まで凍らせないでよ!ギリじゃん!
「だあー!!」
硬化させた腕で青髪の男を殴りつけようとした鋭児郎はとっさに気づいた男に避けられ、くっそ!!と悪態をついている。おお、なんかすげぇ面子が揃ってきたな。
「平和の象徴は、てめぇら如きに殺られねぇよ」
脳みそ男が氷漬けされたことでより拘束のゆるくなった手からオールマイトが抜け出した。
「出入り口を押さえられた…こりゃあ…ピンチだなあ」
ぼそり、と呟く男に鳥肌が立つ。やっぱりこの男、気味が悪い。その向こうでは爆豪が靄の男の弱点を挙げ、挙句の果にはヒーローの卵なのか敵の卵なのか正体不明の爆破宣言を言ってのけた。ホントにヒーロー志望なの、君。
「脳無爆発小僧をやっつけろ、出入り口の奪還だ」
その言葉に、今まで動きを止めていた脳みそ男”脳無”が氷漬けにされた半身をそのままにビキビキと動き始めた。締め上げている念糸すら気にしない様子にホントに人間なのか疑問が膨らむ。だって首の念糸だって相当締め上げてるから普通の人間だと失神するもんだよ。
上半身が靄の男のワープをくぐり抜けたことで一度切れてしまった念糸をもう一度再構築して素早く脳無の両腕に巻きつけ、おれ自身の左手にも巻きつけて締め上げる。なんか、筋肉繊維が再生してて気持ち悪いんだけど。
「これは”超再生”だな。脳無はおまえの100%にも耐えられるように改造された、超高性能サンドバッグ人間さ」
再生の終わった腕を振りかざした脳無の力に、負ける。念糸の締め上げ程度、こいつには全く無効だったわけだ。
爆豪へと振りかざされた腕のスイングとともに俺の念糸が耐えきれずブチ切れる。いや、耐えれたとしても俺自身が吹き飛ばされてたからどっちにしてもよろしくない。
ブチ切れた反動で俺の左手が酷いことになっているがこれは後でどうにかしよう。クソ痛いけど動かないことないし。
風圧で目を開けることもできない。どんだけすごいパワーなんだよあの脳無。
「かっちゃん!!?よ、避けたの!?すごい…」
「違えよ、黙れカス」
呆然と座り込んでいる爆豪に驚きを隠せない緑谷が叫ぶ。しかし、無傷の爆豪がここにいるということは、脳無が殴ったのって…。
「ゴホッ、ゲボ…」
土煙のなかから、腕でガードしているオールマイトが佇んでいた。あの一瞬の隙に爆豪を庇ったのか。
血を吐くオールマイトにこちらも危機感が募る。
そんな俺たちに畳み掛けるように青髪の男が持論を展開する。両手を広げ、さも自分の言っていることが正しいのだと豪語する。
「何が平和の象徴!!所詮抑圧のための暴力装置だおまえは!暴力は暴力しか生まないのだと、おまえを殺すことで世に知らしめるのさ!」
そうか。こいつらの目的はオールマイトを殺すこと、なのか。だから、オールマイトがここに来た途端、躍起になって突っかかってるんだな。
でも。
「3対6だ」
「モヤの弱点はかっちゃんが暴いた…!!」
「とんでもねえ奴らだが、俺らでオールマイトのサポートすりゃ、撃退できる!!」
「緩和剤くらいの役目はできるよ」
こっちもなかなか好戦的なやつが集まっちゃったもんだねぇ。俺も、人のこと言えないけど。
「ダメだ!!!逃げなさい」
「…さっきのは俺がサポートは入らなきゃやばかったでしょう」
「オールマイト血…、それに時間だってないはずじゃ…あ…」
皆が不満を口にするなか、やはり大人であり教師である彼に生徒である俺達は第一の守るべき対象になってしまうのか。
「しかし、大丈夫!!プロの本気を見ていなさい!!」
その頼もしい背中に、思わず頷いてしまいそうになる。
けれど、
「脳無、黒霧やれ。俺は子供をあしらう」
向こうはそう簡単に退いてはくれないようだ。
「クリアして、帰ろう!」
猛然とこちらへ向かってくる青髪の男。広げられている両手に嫌悪感を覚えつつ、俺も胸の前で印を結んだ。
途端に、駆け抜ける圧倒的な、恐怖すらも感じるーーーーー威圧感。
途端に体に感じる恐ろしい風圧。
オールマイトががむしゃらに脳無の体へとその重い拳を打ち付けている。負けじと打ち返す脳無に、そこから暴風が生まれ、俺は立っていられなくなった。
「こっち、はいって」
両手で掴めるだけ周りにいるこいつらを掴み、俺たちを覆うくらいの大きさの結界を形成する。青髪男も靄の男も風圧でこっちに近づけないみたいだし、このまま結界張ってるほうがきっと安全だ。
その間も恐ろしい肉弾戦が繰り広げられる。オールマイトも血を吐きながら、更に拳を打ちつける。
「ヒーローとは、常にピンチをぶち壊していくもの!敵よ、こんな言葉を知ってるか!!?ーーーーPlus Ultra!!!」
ドガァァァン!!!!
形容しきれない爆音が響き渡る。オールマイトの最後の一撃に耐えられなかった脳無がUSJのガラス張りの天井を突き破り空へと消えていった。いや、ホントに消えていったんだって。
「す、ごいね…」
「…漫画かよ」
「ショック吸収をないことにしちまった。究極の脳筋だぜ」
呆然と、する以外何もない。凄い以外の語彙力を失った俺は舞い上がった土煙からオールマイトの姿が見えて安堵した。
「さてと敵。お互い早めに決着をつけたいね」
「チートが…!」
ぎりぎりと歯ぎしりすら聞こえてきそうな、恨めしそうな表情を浮かべていた。
prev|
next