15


「衰えた?嘘だろ完全にに気圧されたよ…」

ぶつぶつ何かをつぶやきながら、どこか苛立ったように自身の首元をガリガリかき毟る青髪の男。

「どうした?こないのかな!?クリアとかなんとか言ってたけど…出来るものならしてみろよ!!」

ゾクリと、背を向けられている俺ですら立つ鳥肌。正面からそれを受けている青髪の男は溜まったもんじゃないだろう。さすが、No.1ヒーロー、格が違う。

「さすがだ…俺達の出る幕じゃねえみたいだな」

状況がこちらに有利だと判断し、轟がそう述べる。確かに、このままここにいても邪魔になるだけっぽいしね。

「解。結界解いたよ、邪魔にならないうちにいこうか」
「緑谷!ここは退いたほうがいいぜもう、却って人質とかにされたらやべエし」

一向に動く気配を見せない緑谷に鋭児郎がいう。何か気になることでもあったのかな。みんなに名を呼ばれても緑谷の視線はオールマイトから離れない。

「主犯格はオールマイトが何とかしてくれる!俺たちは他の連中を助けに…」



あ、と声を上げた瞬間に緑谷は、飛んでいた。


青髪の男と靄の男がオールマイトへ向かって駆け出していく。その更に、中心に。

「緑谷!!」

無謀にも飛び込んでいく緑谷。両足があらぬ方向へと風で靡きながらも緑谷の拳は靄の男の胴へと伸ばされようとしていた。

「バカ!なにやってんの!?」

こんなことになるなら結界解除しなきゃよかった!!靄の男の体から現れた手のひらを見て思わず叫ぶ。あんなのに触れられたら緑谷がどうなるかわからない。

「、結っ!!」

緑谷へと伸ばされた手のひらに結界を使って殴打する。途端に結界が掴まれてボロボロと崩れ落ちていったが、緑谷にその手のひらが届かなければいい。しかし、無情にもまた、手が伸ばされ。


パァンッ、と乾いた発泡音が3つ。ドズッ、鈍い音が緑谷に伸ばされたてから鳴った。



「ごめんよ皆、遅くなったね」



音響機械も、マイクもないはずなのに。この空間に静かな声はとても響いた。

「すぐ動ける者をかき集めてきた」
「1-Aクラス委員長、飯田天哉!!ただいま戻りました!!!」

USJの扉の前に、ずらりと並ぶ頼もしすぎる教師陣。必死に走ったであろう飯田が汗を滴らせながら大きく宣言をした。

「あーあ、来ちゃったな…ゲームオーバーだ。帰って出直すか、黒霧」

やけにあっさりと、負けを認める青髪の男。こんな状態で逃げれると思っているのだろうか。

パンッと間髪入れず何発もの銃声が一帯に鳴り響く。そういえば、緑谷あのへんにぶっ倒れてるじゃん!あわてて結界を使って緑谷を銃撃から守る。いや、先生の腕疑ってるわけじゃないんだけど、あまりにも敵との距離近すぎて、ね。流れ弾とか怖いし。ついでにこっちにも張っとこ。

ピンッと張られた結界に、爆豪が嫌そうに俺を睨みつける。いや、なんで睨まれてるのか意味がわからん。

流石に慌てたように靄の中に引っ込んでいく青髪の男。しかし、ズルズルと引きずられるように個性を発動した13号先生のもとへと吸引されていく。

「今回は失敗だったけど…今度は殺すぞ、平和の象徴、オールマイト」

そんな不穏な言葉を残して、黒い靄の中へ消えていった。あとに残ったのは、無残にも破壊されたUSJと、俺達だけだった。


「解。…あー、つかれた」

久々すぎる、いや、この世界では初めてのこんな緊張感と恐怖感に思わず詰めていた息が漏れた。ポン、と鋭児郎が俺の背中を叩いてから緑谷の方へと駆けていった。緑谷大丈夫かな。

鋭児郎はすぐにセメントス先生に注意されてこっちに戻ってきたけど、オールマイトと緑谷はそのまま保健室直行なのかな?

「安否確認したいからゲート前に集まれってさ」
「おけー」

力の入りにくい体にむち打ち、どっこいせと立ち上がる。この際掛け声とか気にしないでほしい。

「おい、」
「んー?」

なにやら随分と不機嫌そうな声に足を止める。

「保健室いけよ、てめー」

それだけ言うとさっさとゲートへ足を向ける爆豪。あらま、バレてたか。

「あとでいくよー、ありがと」
「ッセ!テメーの血で俺の腕汚れて気持ち悪ぃんだよ!さっさと治せ!」

あ、もしかしてさっき引っ張ったときか。マジか、と爆豪の腕を見れば手形に血が付いている。うわ、なんてホラー。

「ごめん爆豪!感染症とかは持ってないから心配しないでね!」
「感染症とか持ってたらぶっコロスわ」

ふんっ、と鼻を鳴らしてずんずん歩いていってしまった。

「かなめ、今はそこじゃなかったと思うぜ」

…マジか。感染症の有無って大事じゃない?




…………………





「両足重症の彼を除いて…ほぼ全員無事か」

あれだけの敵の数に対して皆無事とかすごいね。てか、ゲート以外に飛ばされてた面子の所にたくさん敵がいたとか、なにそれ恐怖。

「とりあえず生徒らは教室へ戻ってもらう。すぐ事情聴取というわけにもいかんだろ」
「相澤先生は…」

蛙吹が心配そうに尋ねたのは相澤先生の安否だ。幸い、命は大丈夫なようだが、先生の個性の要、目の方は何かしらの後遺症が残るかもしれない、と。

13号先生、オールマイト、緑谷に関しても命に別状なし。これは不幸中の幸いだといえるだろう。

皆がほっと胸をなでおろし、では、みんな教室へと刑事が生徒を誘導しようとすると、力強い手に引っ張られた。

「保健室」

おおぅ、爆豪少年。わざわざ刑事さんの前に手を引っ掴んで行かなくても良くないか?あとで行くってば。

「え、結構重症じゃないのコレ。なんで先に言わなかったの君」
「え、や。安否確認先って言われたし、見た目ほどじゃないですし」

へらっ、と笑えば隣から強烈な舌打ちが。いや、爆豪、君怖いよまじで。

「我慢させて悪かったね、保健室行ってきていいよ」
「ありがとうございま…」
「さっさといけ、クソが」

チッともう一度舌打ちを頂いて嵐は去っていった。なんなんだ、君。心配してくれてるのか、そうでないのか、うーん。よくわからん。

とにかく、保健室いってきまーす。




……………





「チユーーーーーーー!!!!」

淑女から熱烈なキスを頂きました。あれ、ここ保健室だよね?

「もう、大丈夫さね。しかし、肉が抉れて骨まで行ってたのによく耐えたね」
「まぁ、痛みには多少耐性があるので」

あは、と突っ込まれないように笑いながらすっかり傷の治った左手を見遣る。先程まで血で真っ赤に染まっていた手のひらはそれが全くなかったかのように傷一つなく存在している。…こんな人を癒やす個性もあるんだな。

「どうかしたかい?」
「んーと、人を癒やす、傷を治す個性っていいなぁと思いまして」

俺は守るか壊すしか出来ないし。もちろん、それが無いものねだりだとはわかってはいるけれど、どうしても羨ましくは思ってしまう。

「私の個性はね、治癒力の活性化。活性化させる代わりにその対象の体力を削って治癒を促すもんだよ。だから、大怪我したり、体力残ってない人に対しては使いたくても使えないときもある個性なんだよ」

だから、ポジティブな面だけ羨ましがってもだめだよ。ほら、ペッツお食べ。

懐かしのおやつをくれるリカバリーガールの言葉に耳を傾ける。そっか、どの個性でもプラスの面とマイナスの面は持ち合わせてるのか。

もごもごと咀嚼しながらリカバリーガールの流れるゆったりとした空気にほぅと息をつく。

「あんたは随分と気を張って生活してるみたいだねぇ」

そんなんじゃ、疲れちゃうよ。なんて突如として始まったプチ説教に思わずくすくすと笑みが漏れる。

「おばあちゃんみたい」

なんて、リカバリーガールに失礼か。

「まぁ、あんたくらいの年齢の子供は私にとっては孫も同然さね」
「…ときどき、遊びに来てもいいですか?」

少しドキドキしながらその言葉を述べる。まぁ、彼女も先生だし、一生徒に肩入りなんて出来ないだろうから俺の願いなど受け入れ難いかもしれないが。

「かまわないよ、いつでもおいで」

ただ、出張なり。緊急手術だったりでいないこともあるけどね。ふふふ。

なんて可憐に笑うリカバリーガールに俺の方も笑みが漏れる。

「じゃあ、お茶に合うお菓子持って次来ますね」
「怪我こさえてくるんじゃないよ」
「はーい」

肝に銘じます。さて、お茶に合うお菓子、どこで見繕ってこようかな。


このあと、鋭児郎に散々心配され、怪我したことが両親にバレて父は号泣し、母は修行が足りないと怒鳴り散らされた。




「ねぇ、母さん。ーーーー母さんの強固な結界、俺にも教えて」


prev|next
[戻る]