18
体育祭当日。
雄英体育祭は学年ごとの総当り戦らしい。つまり、一年は一年同士で。まぁ、学年ごっちゃ混ぜにされたら経験年数の多い三年が有利だもんね。
そんなこんなで、体育祭が始まるまでは控室で入場準備が整うまでクラスどこに待機らしい。皆が皆どこか緊張したりそわそわしている姿がある。
「皆、準備は出来ているか!?もうじき入場だ!!」
「体育祭コスチューム着たかったなー」
「公平を期す為に着用不可なんだよ」
なんて文句を言ってのけるのは芦戸。尾白が宥めるように駄目な理由を伝える。まぁ、有利になっちゃうもんね。
「一体どんな競技があるんだろうな」
「んー、毎年違うみたいだしね」
去年は何があったっけ?と過去の記憶を掘り起こしていると、なにやら轟が緑谷に突っかかっているようだ。次第にざわめきが収まり、二人の行く末を皆が注視している。
「客観的に見ても実力は俺のほうが上だと思う。…おまえには勝つぞ」
途中聞き取れない言葉があったが、なにやら轟は緑谷に宣戦布告をしているようだ。どうしたの、轟。そんな熱いキャラだっけ?
「急にケンカ腰でとうした!?直前にやめろって…」
「仲良しごっこじゃねぇんだ、何だっていいだろ」
止めに入った鋭児郎の言葉を跳ね除けるように緑谷を睨みつける轟。明らかに被害被っただけだな、鋭児郎。
「そりゃあ、君のほうが上だよ…。実力なんて大半の人には敵わないと思う…。客観的に見ても…」
鋭児郎が次は緑谷のフォローに回るが、緑谷は何かを決意したように轟に向き直り大きく宣言してみせた。
「皆…他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ。僕だって、遅れを取るわけにはいかないんだ。…僕も本気で、獲りに行く!」
「…おお」
なにやら、そこはそこで纏まったらしい。とぼとぼ帰ってきた鋭児郎の肩を叩いてやる。いや、お前はダチ思いな良いやつだよ、うん。
突如として、バンッと勢い良く1-A控室のドアが開いた。シリアスな先程までの空気を叩き割るような乱入者に誰もがその扉を注視した。
「あ!いましたね!夜守くん!」
「…、発目?」
いましたね、てそりゃ、いるでしょうよ。だって俺1-A組だもの。てか、突然どうしたの、この子。あともうちょいで入場でしょ。てか、この控室内のピリピリした空気を察してほしい、いや、無理か。
扉から現れた他クラスの発目に視線が集まり、その発目が俺を名指ししたことで俺に視線が集まった。なんか、刺さる。特に峰田と上鳴。
「出来ましたの!わたしのドッ可愛いベイビーが!」
「え、早かったね」
おおー、と手放しに拍手する。予想以上の早さだ。発目すごい。あ、ついでに他のやつの要望も言っとこうかな。
「夜守ー!!!」
「うぇ、なに!?怖いんだけど二人」
突然の峰田と上鳴の突撃に驚く。しかも二人共形相が恐ろしいし。なにさ!?
「おまっ、学生の身で!」
「ドッ可愛いベイビーとか!なんだよリア充自慢かチクショー!!」
「はぁ!?なんの話?」
体操服引っ張んないで!伸びる!体操服を死守しつつ結界で殴打する。最近結界こういう使い方しかしてない気がする、なぜだ。
「見てください!これが私のベイビーです!」
相変わらずマイペースな発目はウズウズした様子で俺の目の前にベイビーを差し出してきた。重厚感のある銀色のパーツが蛍光灯に反射し、鈍い光を放っている。そして、
…なんかでかくなってない?
「…なんか、違う」
「ドッ可愛いでしょう!見てください!この様に体に装着してですね、ここのボタンでワイヤーが出てきます!巻取りは肩のボタンですね!夜守くんの体重なんて軽々ですよ!」
キラキラさせながらベイビーの説明をしてくれる発目。うん、あれ、俺が頼んでたのって腕輪型じゃなかったかな?体装着型に変化してるんだけど。いや、確かに腕輪型より体装着型のが安定感はあるとは思うけどね。なんせ、体に何かあるのって落ち着かないんだよね、俺。
「発目、腕輪は…?」
「?………っは!?」
「はっ!?じゃないよね!?え、すっかり忘れてこれ作っちゃってたの、ねぇ?!」
あはは!と笑うだけで誤魔化す発目の頬をビヨンビヨン引っ張ってやる。こいつ、ホントに発明バカだな。自分が作りたいと思ったやつ一直線なんだな、おい。
「やもひくん!いたひでふ!」
「痛くしてるんだから当たり前でしょ。もー、今度こそ俺のやつ作ってね」
「善処します!」
では!ご機嫌ようA組の方!びゅんっ、と嵐のように去っていった発目に大きなため息が漏れる。
ちらりと後ろを見れば俺を憐れみを込めて見つめる目がちらほら。
「ねぇ、今も何か誤解してたりする?」
「「いや、大丈夫です」」
体育祭前に疲れた。てか、さっきまでの空気ぶち壊してごめん。緑谷、轟。けど、俺は悪くない。
『群がれマスメディア!今年もおまえらが大好きな高校生たちの青春暴れ馬…雄英体育祭が始まディエビバディアァユウレディ!!??』
さぁ、雄英体育祭です。
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