01


突然だが、走馬灯という言葉をご存知であろうか。


まぁ、簡単に言うと人が死ぬ間際に見る自己の生い立ちから死ぬ間際までの出来事が頭の中に蘇ってくる、回想するさまを指すと思う。

が、俺にとってはその言葉の意味は少々異なっていたようだ。






ふっ、と意識が浮上する。チュンチュンと雀の囀りが耳に届き、まぶた越しに日が昇っていることを感じる。いつになくスッキリと寝れた気がした。最近は妖の騒ぎも随分と減って平穏になったものだからのどかなものだ。

しかし、何か変な夢を見ていた気がする。どんな夢だったか覚えてはいないが。

くわっと大きなあくびを漏らし顔を洗うべくベットから降りて、違和感に気づく。なんか、目線が低い。目線がさきほど降りたベットからそれほど変わっていない。足元を見下ろすとやたらと小さいぷくりとした足。なんか、おかしい。


まだ寝ぼけているのだろうか。


とりあえず顔でも洗えば目が覚めるだろうと、幾分か夢心地のまま洗面台へと足を向ける。

そういえば、俺はなぜ初めて見るこの家の中の構造を知ってるんだろうか。自身の部屋からこの洗面台までの場所を初めて辿るはずなのに、知っている。

バシャバシャと冷たい水で顔を洗い、やはり洗面台が大きすぎる気がする。ご丁寧に足元に台もあった。

ふわふわと手触りの良いタオルにほっと息をつき、目の前の鏡に映る自分の姿に思わずこえを失った。


誰だ、これは。


ふっくらとした頬に黒目黒髪、少し猫目の子供。
子供の頃の、俺だ。

それを認識した瞬間、ぶわりと昨日までの、この体での記憶が頭の中に駆け巡る。そうだ、俺は昨日、四歳の誕生日を迎えてようやく”個性”が出現したのだった。

総人口の約八割が有する超常現象”個性”。それは齢四歳までに発現し、それは自身の”個性”として、親から受け継がれてゆくもの。前世ではしるはずのない、この世界の当たり前がこの体の記憶の中にはある。

どういった経緯か全くわからないが、俺は以前の、この場合は前世とも言うのだろうか。記憶を持ったまま、”個性”の出現したこの体に生まれ変わってしまったらしい。

いや、だって説明してくれる人誰もいないし、まず前世なんかじゃこんな超常現象が個性としてなんか認められてないし、おぼろげなこの体の記憶では今世の幼馴染が体を固くするような個性があるようだし。

てか、ちょっと待って。なんか嫌なことまで思い出したんだけど。確か昨日初めて俺の個性が発現して両親が喜々とした悲鳴を挙げてたのは覚えてるんだけど、なんか俺の結界、あれ?

嫌な汗が背中を伝う。バッと以前と同じように胸の前で印を結ぶ。

「ほうい」

うわ、なんか声が高すぎて気持ち悪い。いや、こんな四歳児がひっくーい声出したらそれこそ悲鳴もんだけど。

「じょうそ」

ジジジっと聞き慣れた音に、ここまでは記憶と相違なく安堵する。あとは…。
ぐぐ、と印を結んだ手に力を込めて。

「けつっ!!!」


ぴよよーん、となんとも頼りなさげな、ゆらゆら不安定な結界が出現した。


ちがう、俺が思ってる結界と全然違うんだけどー!!!!


これでも俺、結界師の界隈では優秀な方だったはずなんだけど!まさか、これまた修行のやり直し!?

数秒も形態を保てなかったらしい結界が音もなく消えていく様子に軽く絶望しながら、心の涙を流した。


………………


ちなみに昨日の個性が出現したあとのことをよく覚えてないのは、初めての結界生成にキャパオーバーを起こして倒れたかららしい。
どれだけキャパ少ないんだこの体!



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