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見上げる大きさのお邪魔虫が試験の時とは違い、何十体と行く手を阻んで佇んでいる。初めて見る生徒もいるのか、お邪魔虫の大きさに戸惑いの声も上がる。

「一般入試用の仮想敵ってやつか」
「あれ、轟見てないのあのお邪魔虫」
「俺は推薦だったからな…」

律儀にも答えてくれた轟の答えに納得する。そういや、推薦で各クラス二人入れるんだっけ?おぼろげな記憶を振り返る暇もなく何か不穏な言葉をぽつりと呟いたかと思えば一瞬のうちに目の前のお邪魔虫が凍りついた。凍らせた隙間を縫うように走り去る轟。

「にしても、随分不安定な体制で凍らせたね、轟」

こりゃ倒れてきそう。さっさと逃げよう。お邪魔虫が氷漬けになって喜んでる人いるけどさっさと避けたほうが身のためだと思うよ。

ほら。

「倒れてきた」

ピンッと結界を斜め上に幾つか形成し、それを足場に駆け上がる。氷漬けにされたお邪魔虫の頭を土台に踏み込みさらに上へ。あ、俺も倒れるのに加担しちゃったじゃん。

ズドーンッ!!という地響きを伴って倒れたお邪魔虫×2。誰も潰されてなきゃいいけど、まぁ、潰されてても先生すぐ来てくれるだろうし。大丈夫でしょ。

『1-A轟!!攻略と妨害を一度に!それに便乗してさっさとその頭上を行った夜守!!こいつぁシヴィー!!!』

俺がお邪魔虫の頭上に上がりきる頃には轟はお邪魔虫畑を抜けたようだ。ホントに彼早いよね。なんて、悠長に考えてる暇なんてもらえないか。

後ろから爆音と声が迫ってきてる。十中八九爆豪だろう。てか、爆破の個性なんか二人もいらない。物騒すぎる。お邪魔虫の影から現れたのは爆豪に瀬呂、あとは、常闇か?あの影みたいなのなんだろ。

『一足先行く連中A組が多いなやっぱ!!!』

瀬呂にまた結界使われる前にさっさと行こう。あの引っ付く個性いいよね、念糸もひっつく構造にならないかな。

後ろからやたらと嫌な笑顔の爆豪たちに追われる恐怖も若干感じつつ、さっさと轟に追いつこうと空を駆ける。どうやらこのまま空を駆けたほうが良さそうだ。これ、なかなかいい修行になりそうじゃない?これからちょっと早めに学校来てこれで走ってみようかな。体力もつきそうだし。やっぱり外で個性使っちゃいけない制限辛いな。

漸く開けた場所に出たかと思えば、底の見えない深い谷に所々点在する足場、それ同士を繋ぎ止めている綱たち。

『オイオイ第一関門チョロいってよ!んじゃあ第二はどうさ!?落ちればアウト!!それが嫌なら這いずりな!!ザ・フォール!!』

うわ、落ちたらひとたまりもなさそう。まあ。

「俺には関係ないけど」


先程までと同じように空を駆ける。けど、今後の体力温存も考えたいし。

「解」

足元に張っていた結界を消す。先程まで空を走っていた俺を不思議そうに見ているやつもいるけどまぁ、気にしない。このエリアもあと半分かな。爆豪なんかすごい勢いで轟が爆走してる一位のところまで飛んでいった。ずっと爆風で飛んでるよね。すごい体力。

ピンッと二つ靴の裏に結界を形成。その場でびょんっと飛び跳ねて強度だけ確認したら。

「じゃ、お先」

いち、に、さんっ!
三歩踏み込み綱が渡されている深い谷を飛び超える。うん、一谷超えるくらいならこれで十分みたいだ。


「さぁ見てて出来るだけデカイ企業ー!!!私のドッ可愛いーベイビーを!!!」


お、発目も来たみたい。あのコ声でかいからよく開けたここだと声通るから存在がわかりやすい。姿はまったく見えないけど。

『さぁ、先頭は難なくイチ抜けしてんぞ!!』
「え、轟そんなとこまでいってんの?」

急がないとヤバイじゃん。

後は同じ要領でぴょんぴょん谷の間を跳ねながら進んでいく。前より制御できるようになったし、足場まで届かなかったら自分で足場形成したらいいし。うん、これのが楽かな。

『ウサギみたいに跳ねて夜守も上がってきたー!てか、夜守の個性汎用性良すぎない?』

なんかプレゼント・マイクの実況て実況というより好きに喋ってる感じだよね。俺のことはいいので、他のコ実況してください。恥ずかしい。

『先頭が一足先に抜けて下はダンゴ状態!上位何名が通過するかは公表してねぇから安心せずにつき進め!!そして、早くも最終関門!!かくしてその実態は!』

「はーっ!追いついた!」

しんどい!!途中ピッチ上げたから汗だくなんだけど!次何さ!?

『一面地雷原!!!怒りのアフガンだ!!ちなみに地雷!威力は大したことねぇが、音と見た目は派手だから失禁必死だぜ!』

「あー、はい…」

空、走ります。だってそんなことでし神経削りたくない。前世よりもずっと多く使っている宙に結界を張る所作。

「方囲」

「定礎」

「結」

さぁ。あと一踏ん張り。ピンッといつもと変わりなく宙に一つ。結界が出来た。さて、前を追いかけましょうか。

どうやら、轟も流石にこの地雷原には苦慮しているようだ。先程までと違いあきらかに速度が落ちてきている。思わずぺろりと舌が出る。

「てめェ宣戦布告する相手を、間違えてんじゃねぇよ!!」
『ここで先頭が変わったー!!喜べマスメディア!!お前ら好みの展開だぁぁ!!』

「俺も忘れちゃ困るよねー」

『おっとー!後続もスパートをかけてきた!!』

なにやら引っ張り合いを始めた二人を追いかけつつ、ニヤリと思わず笑みが溢れる。引っ張り合いしてくれてたら俺が一抜けできるかな?

みんなの頭上で結界を形成しながら全速力で駆ける。漸く二人の頭上にたどり着いた。と思えば。


突然の、今までの比でない爆音と爆風。

「うぇ!?」

『後方で大爆発!!?なんだあの威力!?偶然か故意かー…A組緑谷爆風で猛追ー!!!??』

やめてよ!俺思いっくそ煽り受けたんだけど!!てか、どこからその爆風生み出したの緑谷!

『つーか!!!抜いたァァァああ!!!』

俺の眼下で戦闘争いをしていた轟と爆豪の頭上を何かを盾に飛んで移動する緑谷。まさか、地雷まともに踏んで飛んできたってこと!?てことはさ…。

次落ちるときもまた爆風くる感じ?

「えー!もうやめてよ!!」

足場形成して走る作戦やめ!おもいっくそ煽り受けて順位落としかねないし!なにより爆風すごいから受けたくないし!

ピンッと自身の周りに結界を形成。それを一直線にゴールに向かって走りながら伸ばしていく。
あーもー!なんて個性酷使した持久走だよ!!

『元先頭の2人、足の引っ張り合いを止め緑谷を追う!!共通の敵が現れれば人は争いをやめる!!争いはなくならないがな!!』
『何言ってんだお前』

いや、ホントに。プレゼント・マイク何言ってんの。なんて、言ってる場合じゃないか。

緑谷が持っていた装甲を地雷原に勢い良く叩きつける。それにより触れた地雷が無情にも爆風を生み、周りを蹴散らしていく。俺の結界も若干歪んだからすごい威力だよね。まともに相手したら怪我する。

『緑谷 間髪入れず後続妨害!なんと地雷原即クリア!!イレイザーヘッドお前のクラスすげえな!!どんな教育してんだ!』

俺も、地雷原抜けれた!さっさと自身の周りに形成していた結界を解除する。予想以上に個性使わされすぎて疲れてきた。これ、俺の課題だよねぇ。

一番を独走する緑谷を先頭に皆がそれを追いかける展開。先程まで先頭だった二人には信じがたいことだろう。今まで以上の全速力でかけて行くのが後ろからでも見て取れる。

『さァさァ、序盤の展開から誰が予想できた!?今一番にスタジアムへ還ってきたその男―――、緑谷出久の存在を!!』

「、だーっ!!疲れた!」

ばくばくと脈打つ心臓が早く静まるように、深く大きく息を吸うがなかなか収まらない。周りで続々とゴールしてくる連中も同様だ。すごいサバイバルレース。

A組ほとんどゴールしたんじゃない?キョロキョロとまわりを見渡せば知っている顔がちらほら。赤髪の逆毛を見つけて声をかける。

「鋭児郎、おつかれ」
「おー、かなめおつかれ…」

おや。元気印の鋭児郎がなにやらしょげている。どうしたんだ?

「どうかした?しょげてるね」
「しょげて…、いやまぁ…」

なにやら言いにくそうにガリガリと首元をかいて、視線を彷徨わせる。ホントにどうした鋭児郎。男らしさの欠片もないんだけど、お前の信条どこいった。観念したのか、漸く重い口が開いた。

「…ほら、俺の個性って地味じゃん?やっぱこういうのになるとなかなか結果出せねぇなぁっていう、な」

へらっ、と力なく笑う鋭児郎にムッとする。なにそれ。

「アホなの、鋭児郎」
「え、アホって…」
「個性でどうしても長所短所は出てくるよ。鋭児郎の個性じゃこのレースはあんま活躍の場はないけど」

でも、どうか自分の個性を卑下しないでほしい。

「ほぼ個性使わずここまで這い上がってきてる鋭児郎が、自分貶してどうすんの」

自分本来の身体能力でここまで上位に食い込んでいるのだ。何を卑下する必要がある。それに、

「地味さでいったら俺のが地味だし!」
「いや、んなことねぇぞ?」
「なにいってんの。俺がせいぜいできることって結界張って守るとか、空走るとか殆ど後衛だからね。鋭児郎なんか有事のとき前線で戦える個性じゃん!かっこいいじゃん!」

これは本音である。前世であれば俺も前線で戦えることができたが、こちらの世界ではどうしても後衛援護の個性になってしまう。母の活躍を聞いている限り余計そう感じる。やはり、前線を経験したことがある身としてはもどかしいものがある。

「つまり!鋭児郎はどんと胸張っとけばいいの!」

鋭児郎の個性ほど男らしいものはないと、半ば本気で思ってる。だって、”硬化”だよ?ガチンコ勝負できる個性じゃん。なにしょげてんだか。轟とか爆豪、あとは緑谷に影響されてのことだろうけど、鋭児郎はそのまんまでいいのに。

俺が言ったことを咀嚼するようにしばらく黙りこくってから鋭児郎はいつもと同じ笑顔でニッと笑った。

「そうだな!サンキューかなめ」
「そうそう、それでこそ鋭児郎!」

つられて俺までニッと笑う。

『ようやく終了ね。それじゃあ結果をご覧なさい!』

バンッとまたも巨大モニターに映し出される順位と個々人の映像。うわ、どこから映してんだこれ。お陰でなんともいえない微妙な顔で映像のっちゃったじゃん。で、俺は6位ね。

『最後は同着がいたから予選通過は上位43名!!』

あ、発目いた。同着42位って発目と青山だったのね。なんか二人共かなり疲労困憊っぽいね。てか、先生早く青山開放してあげて絶対あれお腹下してるよね。

あと、発目すごい。ヒーロー科に混じって上位に食い込めるって。根性もだけど、やっぱベイビーが活躍したんだろうな。

『そして次からいよいよ本戦よ!ここからは取材陣も白熱してくるわよ!キバリなさい!!さーて、第二種目よ!!』

ちゃっちゃか進む進行に遅れを取るまいとモニターを見上げる。コレよ!、とミッドナイトが指し示したのは、騎馬戦。ざわりと、会場が揺れる。そりゃあさっきは完全個人のサバイバルゲームだったからな。急に協力して勝ちを取りにいけってのも困惑するよね。

『参加者は2-4人のチームを自由に組んで騎馬を作ってもらうわ!基本は普通の騎馬戦と同じルールだけど、一つ違うのが先程の結果にしたがい、各自にポイントが振り当てられること!』

ふーん。じゃあ、持ち点高い且つ、機動力のある騎馬を組めたら有利ってわけね。皆が思い思いのことを口に出して喋りだすものだからミッドナイト先生のムチが空を裂く。恐ろしい。形相も怖い。

『与えられるポイントは下から5ずつ!そして、一位に与えられるポイントは1000万!!!』

バッと視線が緑谷へと向かう。当の本人もかなり驚いたようで瞳孔も見開き何とも言えない顔になる。そりゃそうだわな。うまく組まなきゃ緑谷は。

『上位のやつほど狙われちゃう、下克上サバイバルゲームよ!!』

即死だもんね。



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