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「やっぱり緑谷が真っ先に狙われるよね」

開始の合図とともに目星をつけていた各々の相手へ向かっていく者。しばし周りの出方を見るもの。様々である。俺たちはとりあえずみんなの出方を見てから動く。

なんか緑谷面白いもん背負ってるね。メカっぽいから発目のサポートアイテムかな。お、とんだ。

『さア、まだ2分も経ってねえが早くも混戦混戦!!各所でハチマキの奪い合い!!1000万を狙わず2位-4位狙いってのも悪くねぇ!!』

「さて、俺たちも動くか?」
「そうね、ちょっとずつポイントはためてても損はないわ」

騎手の許しも出たので、じゃあ周りからじわじわこちらに詰め寄ってるB組のハチマキを取りに行きましょうか。

「梅雨ちゃんの舌ってどのくらい伸びるもん?USJの時緑谷に巻きつけてたりしてたから舌でハチマキ取るのはできそうだよね?」
「ええ、できるわ。私の舌は最長で20mくらい伸びるわ」
「それだけあれば、十分」

梅雨ちゃんを見上げてニッと笑う。じゃあ手始めに。

「結っ!」
「えっ!?動かねぇ!」

こっちに近づこうとしてる何組かの動きを止めるところから始めましょうかね。


相手が俺の結界に身動きを制限されている間に梅雨ちゃんがその長い舌で相手のハチマキを回収すればオーケー。うん、なかなかに良い連携じゃない?

俺たちも向こうの個性はわかんないけどそれは向こうも同じ。俺ら二人は遠距離でも攻撃可能だから、不用意には近づかず、離れたままハチマキを奪い取る。

「あ!取られた!!」
「もらうわね」

しかしなんとまぁ、梅雨ちゃんの舌の正確さ。かなり離れてるにも関わらず寸分違うことなくハチマキを取る所作に舌を巻く。いくら自分の体の一部とは言え正確性すごい。俺も”無想”の訓練するか。

『おっとー!知らない間に蛙吹チーム得点を伸ばしてたー!!上位に食い込んでるぞ!!』

「あー、プレゼント・マイクいわないでよ。せっかく地味に点数重ねてたのに」
「ほんとにね、お陰で…」

「おらぁ!!」

「狙われる羽目になっちゃうじゃんか!!」

まぁ、防げばいいんだけど!大丈夫、相手との距離はまだある。すっ、と体から余分な力を抜き、雑念を、消す。

「結」

俺たち二人を覆うくらいの結界を形成する。相手から舌打ちが聞こえたけど気にしない。これが本来の俺の個性。

『やはり狙われまくる1位と、猛追をかけるA組面々共に実力者揃い!現在の保持ポイントはどうなっているのか…7分経過した現在のランキングを見てみよう!』

「私たちは今6位ね。もう少しポイント持ってたほうが無難かしら」
「そうだね、とすると。さっさとこの攻撃の嵐から抜けなきゃだめか」

数組が俺の結界を取り囲み、攻撃を仕掛けてくる。無想状態は今の俺にはまだまだ荷が重いらしい。たかが15分という時間制限の騎馬戦の合間ですら持ちそうにない。いや、これは前哨戦の持久走が響いたからであり…、いや、力不足です、はい。

「梅雨ちゃん、上に逃げてもいい?ずっと攻撃されると結界もたないかも」
「ええ、…周りに飛ぶような個性の人はいないみたいだし、大丈夫じゃないかしら」
「じゃあ、一気に結界で上に押し上げるね。しばらくは上からハチマキ取る作戦にしようか」

プレゼント・マイクのアナウンスを聞く限り残りもあと少しのようだし、少し離れたところには轟と緑谷のグループもいる。残り時間もあるし、そろそろそちらのポイントを取ることに移行してもいいかもしれない。

幸い、轟たちは緑谷に固執してるみたいだし、背を向けてる俺達が狙ってるなんて思いもしないだろう。そうなれば。

「梅雨ちゃん、いくよ。結!」

ぐぐっ、と印を結んだ手に力を入れる。体が下から持ち上がる感覚、目の前にいるB組面々は突然おれたちが上へ上昇したことに驚きを隠せないらしい、目を見開き、口をぽかんと開けている。

上昇したところで、俺達の周りに張っていた結界を解除する。さて、そろそろ奪ろうか。

『さァ残り時間、半分を切ったぞ!!』

このまま無想状態でいこう。その方がより結界の精度もあがるし。狙うは、轟と緑谷のポイント。

6人分の足と上に乗る2人の腕に狙いを定める。

うん、いける。

ぐっ、と力を、

「夜守ちゃん、轟ちゃんたち…!」


ビリビリビリ!!!!!!


突然の、眩しすぎる光と痛すぎるほどの体の痺れ。その痛みは感覚が鋭敏になる無想状態の俺には耐え難い刺激だった。

「がっ…!!」

無想状態が解除される。結界の形態が保てない。おちる。

『何だ何をした!?群がる騎馬を轟一蹴!、てあァ!?夜守と蛙吹が空から落ちてきてんぞ!?』

お前らどこにいたの!?プレゼント・マイクが何か言ってる気がするけど、そんな場合じゃない。かなりの高さからの落下だ。俺はいいけど、梅雨ちゃんが。

未だに痺れ、疼痛を全身が訴える。それは梅雨ちゃんも同じようで、重量のある頭から地面に向かっている。動け!

「け、つ…!」

弾性のある結界を、梅雨ちゃんの落下地点に展開する。ぽよん、と跳ねた梅雨ちゃんを横目に確認し、速度の落ちた彼女の周りを結界で覆う。結界は機能している。

次いで、ガンッともドンッとも取れる鈍い音と衝撃が俺の体を襲う。…痛い。まだビリビリ痺れてるし。動けそうにないんだけど、あの放電て上鳴の仕業か。くそ。

『夜守、蛙吹をナイスキャッチ!てか、夜守大丈夫かー!?意識はあるのかー!?』

なんか安否確認されてる。体は動かないけど結界は作れるからそれで許して。と小さな結界を形成する。なんて力の無駄遣い。

『とりあえず、大丈夫そうか?意識あるなら自分にも結界しとけー。後で回収に行くから、イレイザーヘッドが』

なんで俺が、ブツブツと呟く先生に同情する。いや、そのうち動けるし大丈夫ですよ。にしても、周りで氷漬けにされてる子達のが重症じゃない?凍傷ならないのかなこれ。

存外近くで繰り広げられる轟と緑谷の戦いを自分の周りに結界を形成してから眺める。この狭いフィールド内を逃げ回る緑谷の立ち回り、うまい。逃げ切れれば勝ちの緑谷にとって、いかにして目の前の轟から逃げるのか。それが鍵だろう。

『残り時間約1分!!轟フィールドをサシ仕様にし…そしてあっちゅー間に1000万奪取!!…とか思ってたよ5分前までは!緑谷なんとこの狭い空間を5分間逃げ切っている!』

今のところはうまい具合に轟があまり使用する様子のない左側を常にキープしている。右側の氷を警戒してだろうけど、今も左側は使う様子がないからそちらは制御が苦手なのだろうか。なんにせよ、このままであれば緑谷に軍配が上がる。

けれど、まだ秘策はあったようだ。ドゥルンドゥルンと改造されたバイクのエンジン音のような轟音を響かせ、緑谷の横を走り抜ける轟の騎馬。どす黒い煙が飯田の足から吐き出される。

『なー!!何が起きた!!?速っ速ー!!飯田そんな超加速があるんなら予選から見せろよー!!』

確かに。
いつも飯田の使ってる速度よりもさらに速い。けど、これって俺の無想みたいな感じで使ったあとの反動が大きいとか?それならこの最終局面で使ったことも頷ける。うん、なんかプスンって音立ててエンジン止まったし、うん、なんかそうっぽい。エンストしたかな?

しかし、俺の体いつになったら動くんだろうか。いまだに痺れの残る体にため息をつく。先程まで感じていた激痛は消えた。そうなればあとはしびれが取れるのを待つのみ。そんなに時間はかからないだろう。

でも体動かないし、騎馬戦は諦めるしかないか。まぁ、こんな近くで観戦できるってのもなかなか捨てがたいしね。いや、これ言ったら梅雨ちゃんに怒られそうだから言わないけど。

目の前では緊迫した空気が流れる中。俺は頭をごろりと動かし梅雨ちゃんを目で探す。

梅雨ちゃんは、まだ痺れてそうだけどなんとか動けるようになったのかな?じー、とそちらを見ていると目があったからへらりと笑う。

「梅雨ちゃん、体大丈夫?」
「えぇ、わたしは大丈夫よ。夜守ちゃんこそ…」
「俺もー、て言いたいんだけどね。まだ痺れてて動けそうにないんだよね。だから騎馬戦これ以上難しいや、ごめんね」
「仕方がないわ。轟ちゃんたちの策に完敗ね」

ケロ、と可愛らしくなく梅雨ちゃんに思わず笑みが漏れる。いい子で良かった。もし爆豪とかと組んでたら無理矢理でも引っ張られていきそうだし。あ、カウントダウン始まってた。

『10!…9!…8!…』

ジュワッと、後ろにある氷の壁が音を鳴らし始めた。轟が溶かし始めたのか?いや、でも、今緑谷と最終ハチマキ取り合いしててそんな暇ないだろうし。

『7!』

ボンッ!!

ここ数日で耳慣れた爆発音。嫌な予感。そろりと、上を見上げれば宙を舞う爆豪の姿。え、騎馬いないけどそれってありなの?

『3!…2!…1!タイムアップ!!』

スゴっと勢い良く地面へ落下する爆豪。いや、そりゃあ落ちるでしょうよ。あ、騎馬後から来た。鋭児郎疲れ果ててんな、おつかれ。

「え、かなめどうしたんだ?寝っ転がって」
「いや、ちょっと痺れてて…」

そりゃあ不思議でしょうね、騎馬戦中に寝転がる羽目になるなんか俺も思ってなかったよ、うん。

「夜守と梅雨ちゃんがペアだったんだねー!あれ?梅雨ちゃんは?」
「ここよ」

タイムアップを合図に早々に結界を解除した。梅雨ちゃんは問題なくもう動けるようで、動けないのは俺と轟に氷漬けにされた面々。こう思うと轟チームにみんな被害受けてんのね。

「夜守ちゃん、動ける?保健室いきましょう」
「えー、いやー。そのうち治るし大丈夫でしょ。あ、鋭児郎肩かして」
「おう」

ぐっ、と力を入れ引っ張り上げられる。ピリピリ痺れる足を地面につけるのすら億劫になるが仕方ない。さて、このまま鋭児郎に引っ張ってもらって昼休憩に、

「夜守は保健室いけ」
「うぇ、相澤先生…」
「あの高さからの落下だ。何かあってもおかしくない。蛙吹に個性使う余裕があるなら自分にも使え。いつか取り返しのつかないことになるぞ」

それだけ伝言しに来たのか、相澤先生はさっさとその場をあとにする。残された俺たちは…。

「「じゃ、保健室で」」
「…面目ない」

強制送還されました、はい。

保健室では、怪我こさえてくるんじゃないよって言ったばかりだろ、とかプンスカお怒りのリカバリーガールにお説教をもらいつつ、簡単な消毒だけしてもらった。別に痺れてただけでなんともなかったしね。ペッツもらった。うん、ごめんなさい。


騎馬戦 蛙吹チーム 6位

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