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『最終種目発表の前に、予選落ちしたみんなへ朗報だ!あくまで体育祭!ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ!』
昼休憩も終わり、お腹の膨れた体で会場入りする。本戦落ちした俺は後は応援とレクリエーションを残すのみ。にしても…。
ちらりと、隣に立っているA組女子の面々に視線を送る。どうしたの、それ。
『ん?アリャ?どーしたA組!!?』
いや、そりゃそうですよね。異色すぎるよね、うん。青ベースの雄英体操服と違い、明るいオレンジのチア服に身を包んだ女子に思わず目がゆく。視界の端で峰田と上鳴が親指を突き立てるのを見てアイツらの仕業かと納得する。好きそうだよね、あの二人。
「なによ、夜守」
「いや、そんな格好しててお腹冷えないかなぁって」
いくら暖かくなってきた季節だろうと空気におなか晒してたら冷えない?俺すぐ冷えて痛くなるんだけど。
「あぁ、それは平気。あのアホ二人はムカつくけど」
後で覚悟しとけよ、ボソリと呟いた耳郎に苦笑いが漏れる。まぁ、騙されたならそりゃ嫌だよね。
「まぁ、本戦まで時間空くし張り詰めててもシンドいしさ…いいんじゃない!!?やったろ!」
「透ちゃん、好きね」
「めちゃポジティブだね、葉隠」
「だって楽しんでナンボでしょー!」
葉隠透明人間だから全然顔色とかわかんないけど、その分声色とか動きとかでテンション高いんだとわかる。てか、わかりやすすぎて思わず笑いが漏れる。
ポンポンちょー振り回してるし。
『さアさアみんな楽しく競えよレクリエーション!!それが終われば最終種目、進出4チーム総勢16名からなるトーナメント形式!!一対一のガチバトルだ!!』
お、楽しそう。
「トーナメントか…!毎年テレビで見てた舞台に立つんだあ…!」
「鋭児郎最終種目の競技一番好きだよねぇ」
「おう!なんてったって、サシでの勝負だしな!男らしいだろ!」
うん、鋭児郎らしい。そして組み合わせはくじ引きらしい。この学校くじ引き好きだよね、気のせい?そーいえば、結局誰々が残ったんだっけ?と頭の中の記憶を引き出していると。
「俺、辞退します」
右手を上げた尾白に、視線が集まる。ざわりと揺れる空気。尾白は悔しそうにしながら辞退の理由を告げる。尾白が誰と組んだのかは全く覚えてないけど、聞く限りは精神支配系の個性に操られてたのかな?こっちの世界にもいるんだね、精神支配系。しかも、目で見たり感じたりできるのか分からない分、厄介かもしれないね。
尾白と同じようにB組であろう少年がぐっと拳を握り、辞退を告げる。しかし、二人も辞退者が出ていいのか?
『そういう青臭い話はさア…好み!!』
どこか煌々とした顔でムチを振るうミッドナイト先生。てか、好みで采配決めてもいいもんなのか。いや、許されるのか。自由すぎるぞ、雄英高校。
『繰り上がりは5位の拳藤チームだけど…』
「そういう話で来るんなら…ほぼ動けなかった私らよりアレだよな?な?最後まで頑張って上位キープしてた鉄哲チームじゃね?まぁ、A組の、蛙吹チームによりけりだけど?」
サイドポニーテールの女子がこちらをちらりと見る。あぁ、拳藤チームとほぼ僅差なのが俺達のチームで最後は0ポイントになってる鉄哲チームに譲ってもいいのかって事だよね。
「俺は別にいいけど」
「おまっ!せっかくのチャンスだぞ!」
「だって、どっちにしても俺たちは拳藤チームには最後まで点数及ばなかったし、それは鉄哲チームにかえても変わんないし。終盤動けてないのは俺達もだし?」
ね?と梅雨ちゃんをみても彼女も頷くだけだ。俺たちに参加する意志はない。まぁ、楽しそうだなぁとはすごく思うけど、うん。でもやっぱり自分の力で勝ち取りたい場所だよね。そこは。
『じゃあ、いいのね?』
「はい」
『というわけで、…鉄哲と塩崎が繰り上がって16名!!組はこうなりました!!』
バンッと大きく提示されるトーナメント表。こうみるとA組結構残ってたんだね。あ、鋭児郎さっきの鉄哲て人じゃん。
『よーし、そりじゃあトーナメントはひとまず置いといて、イッツ束の間、楽しく遊ぶぞレクリエーション!!』
パンパンっ、と派手に打ち上がる花火。それを見上げながらA組の皆について歩く。俺なんのレクリエーション出るんだったっけ?てか、A組本線に出る人多いから出ない人の分を代わりに誰かが競技入らなきゃいけないんじゃない?え、やだ。
「おぉいっ!A組の、!!」
「ん?」
A組の最後尾を歩いていたから一応声の方へと振り返る。ん?誰だ。
「…誰?」
「おまっ!さっき話に出てた鉄哲は俺だぁ!!」
「ああ、騎馬戦の。どうかした?」
鉄哲て君のことだったのね。仕方ないじゃん、ほぼ初対面なんだからさ。つり上がった目をさらに吊り上げ、なかなかに強面な形相で詰め寄られる。え、なんで詰め寄られてんの、俺。
「おめぇら、なんで俺らに最終譲ったんだ」
「えー…さっきも言ったけど。俺らずっと君らのチームには点数負けてたし、拳藤チームが譲るって言ってるから俺らが出る幕じゃないと思っただけなんだけど」
何回この説明するんの、聞いてなかったのかな鉄哲て人。しかももう決まっちゃったから今更変更とかもきかないだろうし。
「だからさ、普通に胸張って試合に出たらいいじゃん。そこはもう君の舞台なんだし」
はい、この話おしまーい。パンッと一つ手を叩いて鉄哲を放置しA組の元に歩きだす。なんか、みんなしてこっち見てるんだけど、何か知らない間に目立ってるんだけど、やめてよ。
「おめぇ!名前なんてんだ!?」
「え、そっちも知らなかったの?人のこと言えないじゃん」
「うるせー!」
「夜守かなめ。覚えといて」
ニッと笑うと鉄哲も不敵な笑みを浮かべた。うん、なんか鋭児郎みたい。
「本戦頑張れよー。あ、でも鋭児郎が勝つけどね!」
「あぁ!?鋭児郎て誰だコラ!」
あまりにも遅い鉄哲にB組のしびれを切らした面々が襟首引っ掴んで連れて行ってくれた。うん、あの拳藤てコ。漂うお人好し感。
「遅いぞ夜守ー。もうレクリエーション始まるぜ」
「はーい、いくよ」
席に付けば最初のレクリエーション種目、大玉ころがしが始まろうとしていた。お、障子と口田がいったのね。大玉っていうだけあって体格いいやつが行ったほうがボールも安定するもんね。
『よーい、スタート!!』
一斉に飛び出す11クラスの大玉。てか、これ色んなところにぶつかり過ぎて制御大変そう。障子の複製したてのおかげでうまい具合に転がってるけど。その隣に変な大玉を見つけて、思わず吹き出した。
「ヤバイ、あのクラス何組?ボールに人張り付いてるんだけど!メッチャ高速回転してるんだけど!」
「え…?ぶふっ!高速回転し過ぎて相方追いついてないじゃん。あ、自滅した」
「美しくないね☆」
ゲラゲラと笑いながら大玉ころがしを見守る。普通に面白い。なんか個性が様々すぎてみんな色んな転がし方するから見ていて飽きない。
大玉の上を走ってる人いるけどあれは曲芸化何かですか?(笑)
意外性を付きすぎるレクリエーションの数々に俺の腹筋が崩壊しそう。笑いすぎて頬も痛い。次が最後かな?あ、因みに俺はムカデ競争にでてきました。いや、足が溶ける恐怖なんてもう体験したくないよね、うん。おかげで一位だったけど。
『借り物競走!!面白みのないもんからえげつない難題まであらゆるもんがあるぜー!さぁ、借りにいけー!!』
「お、結構みんなこれ出てるんだね」
「変なのさえ引き当てなければいいがな」
隣に座る障子もA組の面々を見守る。しかしえげつない難題ってなんだろう。
「過去には特定の個性持ちだったり、校長のペンとかあったが…」
「校長のペンって3年生ブースまで借りに行かなきゃいけないじゃん。難題だね」
じゃあ今年はどんなものが出てくるのか。何組かゴールしたが、それほど難題という難題はなさそうだ。いや、なんか透明の箱とかいうお題があったから結界作ってあげたのはあったけど。箱というより四角だし、半透明だけどセーフだったようだ、ゴールしてたし。
お、A組次は4人走るのね。
『よーい、スタート!!』
軽い破裂音とともに走り出す四人。お題のところで一度立ち止まり各々が観客席に借りたいものを叫ぶ中、峰田だけが体を震わせながらその場に立ち尽くしていた。
「どうしたんだろうね、峰田全然動かない」
「大方、えげつない方の借り物でも引き当てたんじゃないか?」
意を決したようにこちらへと走り寄ってくる峰田。お、何を借りに来たんだ?ぐっ、と拳を握りしめ、顔を上げた峰田が放った一言。
「誰か、オイラに背脂かしてくれー!!!!」
「「「「「「ねぇわ」」」」」」」
てか、背脂って何さ。肉屋くらいにしか置いてなくない?
案の定、誰も貸し出してくれる人はおらず、峰田はタイムアウトとなった。どんまい。
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