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「あっという間に会場出来るもんなんだね」

たしかセメントならなんでも操れる個性だったっけ?町中最強じゃん。

『ヘイガイズ、アァユゥレディ!?色々やってきましたが、結局これだぜガチンコ勝負!!頼れるのは己のみ!ヒーローでなくてもそんな場面ばかりだ!わかるよな!!心・技・体、知恵知識!総動員して駆け上がれ!!』

歓声のあがる会場の熱気にこちらまで当てられる。やっぱり最終種目まで残ると注目度が違うよね。さて、第一種目は。

「緑谷と…精神支配系のヤツね」

俺の周りにはいないタイプの個性。前世にもそのタイプはいたけど極限無想出来てたら何となく感じることができたしな。こっちの世界ではどうなんだろ。

「そういえば尾白は心操と騎馬戦組んでたんだっけ?」
「まぁね、俺にはその記憶があんまないんだけど」
「さっきもそんなこと言ってたね」

まぁ、精神支配系統は一概には言えないけど操られてる間は記憶がないものが多いし、そんなものだろう。緑谷と心操の試合開始のアナウンスが流れる。

途端に動きを静止する緑谷。

もしかして、もう個性使用されたの?え、はや。

「ああ緑谷、折角忠告したってのに!!」

隣では尾白が頭を抱えている。聞けばどうやら心操は言葉を交わせばそれで操れてしまうらしい。え、なにそれ、全然個性知らなかったら敵無しじゃん。んでもって外部から何かしらの衝撃がなければ支配は解けないらしい。

てことは、緑谷は絶体絶命ってわけか。

一人でに、場外へ出ようとする緑谷に止めるすべはない。が。抗拒の意志が相手に勝れば洗脳は解けるんだろうけど、どの程度洗脳できる力があるかによるよね。そう思うと掛からないにこしたことはないけど、うーん、解決策も考えとかなきゃいけない個性だよね。

場外となるラインを踏む間際。バキッ!!と嫌な音を立て、緑谷の左手が爆風を生み出した。

『これは…緑谷!!とどまったぁぁ!!?』
「すげぇ…無茶を…!」
「おぉ、洗脳に打ち勝ったね」

しかし、あんだけの威力を出さないと解けない洗脳なのか。うーん、手強い。使い方によっちゃすごくヒーロー向きな個性で重宝すべきものだけど。なんでそんな大事な個性をこの学校は試験で弾いてしまうのだろうか。不思議だ。

洗脳の溶けた緑谷が肉弾戦を仕掛け、心操は呆気なく背負投され場外へと投げ飛ばされた。

『二回戦進出!!緑谷出久ー!!』

まぁ、なんにせよ緑谷おつかれ。

ヴー、とポケットに入れていたスマホが振動し、着信をつげる。徐に画面を見ればそれは母からで、一体なんだろうかと訝しみながらも席を立って着信を取った。

「もしもし」
「かなめ体大丈夫?」

さっきの騎馬戦見てたな…。

「平気だよ、心配かけたならごめんね」
「うーん、心配はしたけど私はそれほど。お父さんは半狂乱だけど」
「ああ…、ごめんって言っといて」

父さん心配性だもんな。多分自分の個性故のこともあるんだろうけど。

「リカバリーガールの治療もいらないくらいピンピンしてるから大丈夫」

これは家に帰ってから泣きつかれるパターンだな。うーん、やっぱり自衛もしとけばよかった、なんて後の祭りだけど。

「それにしても今年A組の子がたくさん本戦に残ってるのねー。今の子たちもA組でしょう?」
「あー、うん。そうそう」

会場に視線を落とせば丁度轟と瀬呂の試合開始の合図が響い、た。あっという間に氷塊で埋め尽くされる視界。以前の比ではないほどの肌を指す凍てつく空気。吐く息までもが白くなった。どんだけ個性使ったの轟。

「あら、びっくりした」
「え、ほんとにビックリしてるの、ねえ」

全く動じていないかのような電話口の声にホントかと疑ってしまう。しかし向こう側から聞こえる途切れ途切れの声がどこか悲壮感を帯びたような、悲鳴だった。え、母さんほんとに会場にいるの?なんか歓声とはほぼ遠い言葉が聞こえてくるんだけど。

「…母さんってどこから見てるの?」
「どこって、氷漬けにされてるコの丁度後ろの席ね。今は氷に覆われてて何も見えてないんだけど今どっちが勝ってるのかしら?」
「轟が勝ったよ、うん」

あの一瞬の間に自分と父さんの周りだけ結界張ったんですね、理解した。そりゃあまわりから助けてだの、寒いだのの声が聞こえるわけだよ。

「視界が晴れてきたわね、そういえば鋭児郎くん本戦残ってたのねえ」
「そうそう。多分鉄哲の個性も硬化っぽいから殴り合いになるんじゃないかな」
「あら、鋭児郎くんむきねぇ。楽しみにしとくわ」

頑張ってて伝えといて、とその言葉とともにプツリと切れる電話。うん、何も言うまい。

なんか席に戻るのもなぁ、とこれまた一瞬で終わったらしい上鳴とB組塩崎のアナウンスを聞き流す。瞬殺って連呼されてるから瞬殺だったのだろう。上鳴が残念な顔になってる。

次は、飯田と発目。青山と芦戸。常闇と八百万。鋭児郎と鉄哲。んで、爆豪と麗日ね。

『さアー、どんどん行くぞ。頂点目指して突っ走れ!!ザ・中堅って感じ!?ヒーロー科飯田天哉対サポートアイテムでフル装備!サポート感じ発目明!』

ん?なんか飯田体中にサポートアイテム装着してない?どうしたんだ?丁度それは議論になったようだが、ミッドナイトの采配により許可が降りたようだ。何でもありだね、ホント。

そして展開される発目ワールド。プレゼント・マイクの解説も不要な発目の独壇場である。飯田と自身に装着されたサポートアイテムの説明を機器として展開し、10分まるまる使い果たして勝手に自分から場外になった。やりきった感すごいそして…すげえ根性。

「かなめこんなとこで見てたのかよ」
「んー。さっきまで電話してたからそのままいた」

鋭児郎は、と言いかけてそういえばそろそろ試合だったか、と思い直す。会場では青山と足戸の試合が繰り広げられているがそのまま鋭児郎の隣について歩く。

「母さんが鋭児郎に頑張ってねーって」
「おばさん来てんのか!あー、ドラフト指名する偵察?」
「それもあるかもしれないけど、殆どただの観戦じゃないかな。毎年雄英体育祭みてるし」

テレビに毎年くらいついて応援してるしね。

「じゃあ鋭児郎がんばれ」
「おう!」

控室、と書かれた扉の前で鋭児郎と別れ流石に席へ戻ろうかと踵を返した。どこにスピーカーがあるのかは不明だが、プレゼント・マイクの声が廊下まで聞こえている。どうやら丁度常闇と八百万の試合も終わったらしい。なんか勝敗決まるの早いね。確か次が鋭児郎だったと気持ち早歩きで席へと戻る。

「ただいまー」
「あぁ、夜守おかえり。もう大分終わってるよ?」
「離れたとこでみてたよー」

尾白の隣に腰掛け、今から始まる鋭児郎と鉄哲の戦いを見届けようと前のめりになる。

『さアお次は、んー!?個性ダダ被り組!鉄哲対切島ー!!』

「「うるせー!!」」

なんか歓声に紛れて声とかは聞こえないけどそんなこと言ってる気がする。うん、説明が雑いなプレゼント・マイク。いやダダ被ってるけど。

スタートの合図とともに両者共思いっきり右の拳を振り上げ殴りかかった。明らかにどちらも硬そうな外見であるがどうやら鉄哲は鉄かスチールか、とにかく金属の硬化のようだ。なんか全身が銀色になった。

会場に響く音の何とも重たいこと。二人共”硬化”の個性であるが故の殴り合いである。もう清々しいほどに殴り合いをしている。

「いけー、鋭児郎!」

うん、ガチンコ勝負してると思わずこっちも拳握り込んで応援しちゃうよね。なんか隣の尾白が引いてる気がするけど気にしない。そんな熱い戦いも両者同じように疲労の蓄積と殴られるダメージで双方同時にダウンする。

「あ、ダウンした。鋭児郎、立てよー!」

立ったら勝てるぞー。なんて俺の思いは残念ながら届かず、引き分けの審判が下る。ちぇー、残念。

「引き分けか、個性ダダ被りも困るよね」
「しかもおんなじくらいの実力ってなかなかないよねえ」

鋭児郎と鉄哲気が合いそうだよね、なんとなく。

『引き分けの場合は回復後簡単な勝負、腕相撲等で勝敗を決めてもらいます!』

鋭児郎のところに行ってもいいけど、それよりは次の対戦のほうが気になる。ごめん、鋭児郎。


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