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『一回戦最後の組だな、中学時代からちょっとした有名人!堅気の顔じゃねえ、ヒーロー科爆豪勝己! 対俺こっち応援したい!ヒーロー科麗日お茶子!』

ぶっちゃけ過ぎじゃない、プレゼント・マイク。いや、
確かに堅気の顔じゃないけどさ。前席の緑谷が分析混じりの解説をしてくれるおかげで色々参考になる。

『START!』

その合図とともに駆け出していく麗日。個性の関係上手で触れないと発動しない麗日には爆豪に近づくしか手段がないが、爆豪が得意とするのも近接戦闘。…なかなか分が悪そうな試合だ。

麗日がかなり接近したところでの正面爆破。アレ絶対モロだよね。麗日よけれたのかな。煙幕で、視界を遮られている中現れた体操服めがけて爆豪が右手でそれを押さえ込む。が、麗日はその後ろから左手をかざして現れた。囮。

『上着を浮かせて這わせたのかぁ、よー咄嗟に出来たな!』

確かに良い作戦。でも、それを上回る爆豪の反射神経。囮と気づいた瞬間麗日の姿を確認し下のコンクリを刳りながら爆破をかまし、接近を拒んだ。

「触れなきゃ発動できねぇ麗日の”個性”。あの反射神経にはちょっと分が悪いぞ…」

ポツリと、誰かがつぶやいた言葉に小さく頷く。麗日が勝つには爆豪に近づくしかないのだから。その間にも麗日はひたすらに突進を繰り返し、爆豪は爆破を繰り返し、舞い上がる煙と瓦礫。…ん?瓦礫?

ふわふわと、まるで重さなど感じていないかのように舞い上がっていく無数の、大小様々な瓦礫たち。それは明らかに麗日の個性であり、麗日の作戦なのだと今更ながらに気づく。

考えもなく突進しているわけではないのだと。

「おい!!それでもヒーロー志望かよ!そんだけの実力差があるなら早く場外にでも放り出せよ!!」

どこからか、ブーイングが起こる。それは一部の観客に伝染した。挙句の果にはプレゼント・マイクまでそんなことを言おうとするものだからヒヤリとする。どうやら隣の相澤先生に止められたみたいだけど、止められなかったら次はプレゼント・マイクに大部分の観客からブーイングがプレゼントされる可能性があったね。

『ここまで上がってきた相手の力を、認めてるから警戒してんだろう。本気で勝とうとしてるからこそ、手加減も油断もできねえんだろが』

ピタリと静まり返る会場。その静かな会場に真剣な眼差しの、麗日の声はよく響いた。

「勝あアァアつ!!!」

途端に降り注ぐ、重力という力を取り戻した瓦礫の雨。その無数の武器に流石の爆豪も接近して来る麗日を相手にしている余裕はないらしい。空を見上げ、左手を空へと翳した。

途端に轟く爆発音。

一瞬で掻き消される、麗日の武器。

『会心の爆撃!麗日の秘策を堂々、正面突破!!』

「なに、あの爆発。ほんとに手の平から出してんの…?」

瓦礫の雨を一瞬で吹き飛ばしてしまうほどの威力。格闘センスもあって、個性の破壊力もある。神は一物も二物も与えて…だから行動が破滅的なのか。納得。

見ているこちらがしんどくなるほどに疲労を重ねているであろう麗日が、諦めずに爆豪へ突撃しようと一歩を踏み出し、かくりと、膝から崩れ落ちた。

「…キャパオーバー」

ポツリとつぶやかれた声は静かに耳に届いた。麗日はどうにか立ち上がろうともがいているが、その力が残っていない。ミッドナイト先生が駆け寄り、状態を把握し、静かに告げた。

『麗日さん行動不能、二回戦進出爆豪くん!』
爆豪の勝利宣言とともに、リカバリーガールの元へと運ばれていく麗日。爆豪も静かに会場を後にした。とおもえば、すぐに鋭児郎が姿を表した。ん?なんで鋭児郎そこにいるの?

疑問符しか思い浮かばないが、B組の鉄哲も同じく会場に現れ、セメントス先生がなにやら四角の物体を作り始めた。なんだあれ。

「今から何するんだろうね」
「切島と鉄哲の再戦じゃない?簡単な腕相撲とかで勝敗決めるって言ってただろ?」

そういえばそんなこと言ってたっけ?じゃあ今から腕相撲でもするのかな。

『さアお待ちかね!ダダ被り組の腕相撲対決!これを制した者が一回戦突破の切符を手に入れるぜー!』

両者が右手をかざし、握り込む。途端に硬化した鋭児郎と鉄哲。そして開始の合図が鳴り響く。

開始とともに一歩も譲らぬ両者。拳が全く微動ダニ動かぬそれに互いの力が拮抗していることを物語っている。思わずごくりと固唾を呑んだ。

『あーおォ!今、切島と鉄哲の進出結果が!!』

ガンッという殴打音と共に叫ぶ鋭児郎。机割れてる。
左拳を突き上げ、勝利の雄叫びを一声上げ。鉄哲と硬い握手を交わしている。なんかあそこだけキラキラしてる、青春かおい。

『これで二回戦目進出者が揃った!つーわけで…そろそろ始めようかぁ!!』





…………………







真剣にみてたらあっという間に決勝戦ですよ、うん。相変わらず緑谷はボロボロになって運ばれていった。なんか両手と片足もげてた気がするんだけど、想像するだけで痛い。あそこまでボロボロになれる緑谷もすごい根性。

各々がそれぞれの対戦相手に合わせて戦闘スタイルを変えていく様は見てるだけでも学ぶところは多いし、飽きない。無敵かと思ってた常闇はなにやら弱点を突いたのか爆豪相手に降参をしてたし。常闇のあれって影かなんかなのかな?影なら光とかが苦手だけど。それなら説明つくか。

まぁ、なんといってもやっぱりトリは。

「爆豪と轟だよねぇ」

どっちも格闘センスあり、個性も強力。どっちが勝っても不思議ではない。

『さアいよいよラスト!!雄英1年の頂点がここで決まる!!決勝戦、轟対爆豪!!今!!スタート!!!』

スタートの合図とともにキィィンとした冷たい空気に会場が包まれる。出現した氷塊に思わず体を擦る。一瞬のうちにあれだけの大きさの氷塊を生み出せる瞬発力、俺も見習わなきゃいけないよね。課題が盛り沢山だ。

『いきなりかましたあ!!早速優勝者決定か!?』
「いや、爆豪がこれにやられるわけ、」

ボンッ!!!という爆発音とともに氷塊から穴を開け出現した。二人共規格外すぎる。いや、俺もぶち破ろうと思えば氷塊滅できるだろうけど、体力持ってけれるわ。

「ないよねぇ」

あえて右側だけで勝利をもぎ取るつもりらしい轟は爆豪に向かって右腕を突き出す。が、両の手の平から爆発を起こし、それを避けた爆豪はその勢いのまま、轟の左側を引っ掴み爆風と共に場外へと投げ飛ばした。

一瞬の間にあれだけやってのける爆豪の格闘センスの高さに舌を巻く。どんどん研ぎ澄まされていくよね。爆豪てあの派手な個性に埋もれがちだけど、意外と繊細に物事をやってのける。それに引き換え、轟は個性故に大雑把だ。まぁ、個性が強力すぎるがゆえ、今まで障害らしき障害が出てこなかったのが原因かもしれないけど。

場外アウト寸前で氷塊の壁を作り出し投げ出されるのを回避した。そのまま、爆豪が個性を伴って殴り込んでくる。轟はほぼ防戦一方だ。けど。

「轟、左側使わないね」

緑谷との戦いで見せた左側の炎。今までも殆ど見たことのないそれを爆豪は望んでいるかのように激昂する。

「勝つつもりがねえなら、俺の前に立つな!!なんでここに立っとんだ、クソが!!!!」

その大きな怒鳴り声と共に高く掲げられた両手からど派手な爆発が生じる。一気に轟の頭上まで跳ね上がった爆豪はその勢いのまま、両の手を体に添わせ爆風で回転をかけながら轟に突っ込んでゆく。

もし、轟が前戦での空気の膨張を狙ってるならそろそろことを起こさないと間に合わなくなるけど。

次の瞬間、ボッ!と会場に赤が灯る。その暖かさを帯びた赤の色は瞬時に燃え上がり、爆豪と接触する間際、スッと音もなく消えた。

ゴボっ!という氷塊が硬いものにぶつかり、壊れる音が会場に響き渡る。ガラガラと崩れる氷塊と爆発の煙に包まれ、どうなっているのかはまだ見えてこないが、轟は炎を消した。これが意味するものはひとつだろう。あの爆豪の回転の掛かった爆発に歯向かうには緑谷のときに見せたあの爆風しかないだろう。

『麗日戦で見せた特大火力に勢いと回転を加えまさに人間榴弾!!轟は緑谷戦での超爆風を撃たなかったようたが、果たして…』

霞が晴れてきた。


倒れ込んでいる両者。一人は場内に、一人は場外に。


爆風をもろに受けたらしい轟は氷塊とともに場外へと身を投げ出され気を失っているようだ。

当然のように納得しそうにない爆豪が轟の胸倉を引っ掴み今にも殴りかかろうとしている。え、止めなくていいのこれ。プレゼント・マイク仕事!!

すると、操り人形の糸が切れたようにカクンっと倒れ込んだ爆豪にミッドナイト先生が近づいていく。そういや、先生審判だったね。プレゼント・マイクの存在でかすぎて忘れてた。

『轟くん場外!よって、爆豪くんの勝ち!』
『以上ですべての競技が終了!今年度雄英体育祭1年優勝は、A組、爆豪勝己!!』

お、有言実行だね爆豪。






『それではこれより!表彰式に移ります!』

ポンポン、と空へ打ち上がる色とりどりの花火。表彰台には先程までの激戦を制した三人がお立ち台へと挙がっている、が。

「何アレ…」
「こわ…」
「起きてからずっと暴れてんだとしっかしまー…締まんねー一位だな」

激しく同意。いや、誰もが同意するしかないだろう。

三位には常闇が、もう一人の三位の飯田は家の都合で早退したらしい。どうしたんだろうか。二位にはどこか考え込んでいる轟が。そして、一位には。なにやら体中に拘束具をつけられ、セメントス先生お手製であろう磔台に胴体を固定され、血走った目で隣にいる轟に食いかからんとしている爆豪だ。うん、怖い。

「メダル授与よ!今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!!」
「私が、メダルを持って、」
「我らがヒーロー、オールマイトォ!!!」

あ、かぶった。

一言ずつ、オールマイトから激励をもらい、メダルを首にかけてもらう二人に対し、口枷を外された爆豪はひたすらメダルを拒み、挙句の果にていっ、と効果音がつきそうなオチャメさで口にメダルをかけられた。うーん、シュール。

「さア!今回は彼らだった!しかし皆さん!!」

オールマイトがこちらを振り返り、手のひらをかざす。

「競い!高め合い!更に先へと登っていくその姿!!次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!!てな感じで最後に一言!!皆さん唱和ください!!せーの…!」

「「「「「「「「「プルス、」」」」」」」
「おつかれさまでした!!!!!」

ブーッ!!!とブーイングの轟く会場とオールマイトの困ったような弱気な声が会場を笑いへと導いた。かく言う俺もプルスウルトラって言おうとしてた一人だけど。

体育祭の振り替えかは不明だが、突如として休日となった明日と明後日。さて、なにをしようかな。

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