02


ーーーー早いもので、俺が前世の記憶を取り戻して10年が経った。


以前と同じような修行や鍛錬を反復しているうちにあっという間に時が経ってしまった。時の流れが速すぎて恐ろしい。漸く前世の俺くらいまでとは行かなくともまあまあ少しましになったかなという程度には結界術が出来るようになり始めた今日この頃である。


そういえば、こちらの世界の両親。主に母親は俺と同じような個性を有しているが、ーーというより俺が母の個性を受け継いだのだがーー、どうやら結界の応用は出来ないようだ。

記憶が戻り以前多用していた念糸が使えないかと一人黙々と修行している最中にひょろん、ととても頼りなさげに手から出現したモノに両親は阿鼻驚嘆を挙げた。それに驚いて念糸が引っ込んでしまいその日一日中でなくなってしまったのは後の笑い話である。

母の個性は結界生成のみ。なので俺が念糸を出したことに驚いたようだ。

それでも母の結界はとても強固なものであるため、敵を拘束したり動きを封じたりする補助的な役割としてとても重宝されていることに変わりはないらしい。



あと、こちらの世界の母は基本“滅”は使用しない。



まあ、相手が以前の俺のように妖であるか、こちらの世界では人間であるかの違いに他ならないわけだけど。人間を滅したら死んじゃうから倫理的に問題ありだもんな。

そんなわけで、滅は使わず前世よりもより頭を使いながら結界術を使用しなければならないわけである。


しかし、まさかのこの世界。


許可がなければ公の場で個性の使用は基本認められていないのである。認められているのはヒーローという公職に就く者たちのみ。ちなみに母はヒーローである。

以前は日常の中でも密かに使用していた能力がまさか使えなくなる事態がやってくるなんて誰が思おうか。いや、思うまい。てか、今さらすぎてなくては困るくらい多用してしまっている俺は、ヒーローを目指すことになりました。

動機が不純すぎてすみません。いや、もちろんこの個性が役に立つ仕事につけるなら嬉しいからってのもあるんだけどね。





そんなこんなで。

目の前にそびえたつやたらと厳つい門に大きすぎる建物。
なぜか俺はヒーローになるべく日本で最高峰と名高い雄英高校ヒーロー科を受験する運びとなった。幼馴染にゴリ押しされたのだ。こんなレベルの高いところ…。

いつになっても試験、受験、就職にはなれそうにもない。いや、慣れるまで受けたくもないんだけど。

はあ、と思わず大きなため息が漏れた。

周りを見渡しても同じように緊張した面持ちで建物の中へ入っているくものや、自信満々に入っていくもの。様々な受験生がいる。

が、俺とともに少し離れた所にいるもじゃもじゃ頭の少年はがくがく足を震わせながら立っていた。

自分よりも緊張している人を見つけると緊張感が和らぐっていう心理って不思議だけどあながち間違ってないよなあと、場違いなことを考えているとようやく一歩を踏み出そうとした少年が自身の足に絡まりその体制を崩した。

それ、顔面激突のやつだよね。さすがに受験前にそれはよろしくないだろうと、おせっかいから少年の顔面近くに結界を生成する。地面に顔面激突よりはましじゃね?

ピンッとはった四角の結界にぶつかる前に少年の体がふわりと宙へ浮かびあがった。近くにいたボブカットの髪の少女が胸の前で手を合わせると地面に足をつけたようであるからあれが彼女の個性だろうか。

今さらだけど、個性って汎用性よすぎない?ほんとにこれ超常現象が日常化してるって世界チート過ぎない?なんて、自分のことは思わず棚に上げてしまう。だって俺は前世からこの能力だし。俺の幼馴染なんか肉弾戦敵なしだもんなあ。男らしくてうらやましい。

少年が地面激突を免れたことで用なしとなった結界を解除し、俺も一歩を踏み出さんベく歩き出し、

「かなめ!」

後ろから、良く聞きなれた声に踏み出しかけた足を止める。軽い調子で俺の隣に滑り込んできた顔を見上げる。とたんにニカッとこの場にふさわしくない笑顔を浮かべられた。

「鋭児郎」
「はよ!一緒に行こうぜ。わくわくするよなー一体どんな試験内容なんだろうな?」
「わくわくしてんの鋭児郎くらいじゃない?俺胃がキリキリするんだけど」

なんなら緊張で魂口から出ていきそうなんだけど。この緊張感分けてやりたい。

「なんだよ、緊張してんのか?かなめなら大丈夫だろ!一緒にヒーロー科合格しようぜ!」

ばんばんと痛いくらいに叩かれる背中に押されつつ試験会場となっている大型ホールへ足を踏み込んだ。

試験時間には余裕を持って出てきたはずだが、もうすでに結構な人数がホールの中にひしめきあっている。同じ学校でもある鋭児郎とともに席へ着けばより一層感じてしまう。

試験会場独特の熱気、圧迫感、焦燥感。

隣の鋭児郎はここでも変わらず平常心を保っているようだ。なんてメンタル。俺にそれを分けろ。俺のが精神年齢遥かに上なのになんだこの差は。心臓がばくばく鼓動を刻み、ささやき声は膨れ上がり雑音となって耳に爆音を送る。

落ち着かないと呑み込まれる。

「鋭児郎、試験の説明始まったら教えて」
「おー、わかった」

この気の遣える幼馴染はこれだけで俺がしたいことを分かってくれるだろう。


目を閉じ、大きく息を吸い込み、吐き出す。
徐々に意識を頭のそとへ。
雑音が遠くなる。
頭を、からっぽにする。















ぽん、と突如加わった肩への衝撃に思わず体が驚きびくりと震えた。隣を見遣ると鋭児郎がホールの方を指さしていた。それに頷きで返し、俺もホールへと目を向ける。

受験生の緊張感で静まり返るホールに金髪の、奇抜な髪形の男性が立っていた。

『今日は俺のライヴにようこそー!!!エディバディセイヘイ!!!!』

しぃんといまだに静まり返っている会場をしり目に男性は実技試験内容のプレゼンを高いテンションのままで行っていく。

『演習場には仮想敵を三種多数配置しており、それぞれの攻略難易度に応じてポイントを設けてある!!各々なりの個性で仮想敵を行動不能にし、ポイントを稼ぐのが君たちの目的だ!!』

声高だかに説明をするの言葉に思わず焦りが生じる。仮想敵を倒しポイントを稼いでいく試験ということは理解できた。ただ、仮想敵を滅で消してしまうことはポイントとして換算されるのかどうか。俺にとってはそれによって体力の消費だったり頭をフル回転させなければならないかがかかってくる。

質問したいけどこの大人数の中で質問するのってすごい勇気がいるんだけど、どうしようか。

そんな中空気を破るようにハキハキと男性に質問をぶつける少年に思わず感動する。少年の指摘どうり渡されている紙には仮想敵は4体記されている。

で、その4体目の仮想敵はポイントには全く換算されない大きなお邪魔虫。つまりお邪魔虫を避けつついかに短時間でポイントを取ることが出来るか、っていうサバイバルゲームみたいなものだろうか。

『俺からは以上だ!!』

マジか、質問タイムとかないの!?

「あのっ!俺も質問してもいいですか!?」

思わず勢いのまま立ち上がり男性に向かって声を上げる。
何かをいいかけてた男性は虚を突かれたように大きな目を更に大きく開け俺を見た。

『オーケーオーケー、なんだ?』
「仮想敵を行動不能にしてポイントを稼げ、とのことですが。仮想敵を消してしまってもポイントとして換算してもらえますか?」

とたんに静まり返っていた会場がざわりと揺れた。一斉に集まる疑惑の目。え、個性っていろいろありすぎて全部知らないけど消しちゃうって個性の人誰もいないの?俺の家族がイレギュラーなだけ?

『あー、そうだな。仮想敵は今後の敵を想定しての模擬試験でもある。本当の敵を消してしまうのはヒーローであってもご法度だ。まあ、今回は試験だからな、一部分だけでも残してりゃポイントとしては換算されるぜ』

この答えで大丈夫か?なんて確認してくれる男性に感謝しつつ俺は大きくうなずいた。
隣で心配そうな面持ちで見つめる鋭児郎にへらりと笑い返し、手もとの紙に視線を落とした。

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