03
しかし、どこもかしこもでかくないか、雄英高校。目の前に佇む実技試験会場を見やる。まぁ、これだけの人数がいればこのくらいでも十分かもしれないけど。ちらりと周りを見渡せば様々な受験生たちが緊張した面持ちで試験が始まるのを今かとまっている。
特に持ち込むものもない俺は早々にジャージに着替えて、絶賛準備運動中である。だって筋肉痛になったら嫌だし。
ぐっぐっ、と屈伸をしながら周りを見やる。俺に関してもそうだろうが、パッと見ただけで個性がわかる人はほぼいない。異形形態の人はなんとなく想像がつくこともあるが大概は不明だ。
これがこちらの世界での普通なのだからおかしなものだ。まぁ、お陰で俺も普通の個性として受け入れられてるわけだけど。
しかし、一体いつ始まるのだろうか。
監督官のような人が現れるのかとも思ったが一向に姿が見えない。まぁ、しっかり準備しとけよっていうことなんだろうか?などと考え事をしていれば隣に近づいてくる影が一つ。
なんだろうかと見上げれば、随分と恐ろしい形相のツンツン金髪の少年が俺にガンを飛ばしていた。いや、マジで怖いんだけど。
「どけ、クソモブ」
なんと、言葉使いも恐ろしい。
「あー、ごめんごめん。邪魔してた?」
へらりと笑いながら、道を譲ると舌打ち一つして通り過ぎていった。いや、マジで怖いんだけど。最近の若者怖い。
まぁ、道のど真ん中で屈伸運動してた俺も悪いんだけどさ、なんかなー。ちょっともやもやする。
じー、と先程の怖い金髪少年を観察しているとイライラしたように歩き回っている。
もしかしてこれさぁ、ただ緊張してるだけ、とか?
緊張してて情緒不安定になっててあんな怖い形相になってたり言葉遣いになってるんだったらめっちゃかわいいんだけど。え、一回そう思ったらそれにしか思えなくなってきたんだけど。
ぶふっ、と思わず肩を震わせて爆笑しそうになるのを堪える。さすがに笑うと変なやつ認定されてしまう。さすがにそれは困る。
いや、いい和みになったわ。鋭児郎いないから喋り相手いないし、悶々と考えてたらまた胃がキリキリしてきそうだったからいい気分転換になったよ。
名も知らぬ笑いを届けてくれた少年に感謝していると突如として幕は落とされた。
『ハイ、スタートー!!』
「「「「「ん?」」」」」
突如として響いた声に試験会場にいた誰もが疑問の声を上げる。
『どうしたぁ!?実践じゃあカウントなんざねぇんだよ!!賽は投げられてんぞ!!?』
その言葉を聞くやいなや、慌てて走り出す受験生。そりゃあ時間は十分しかないし、短期決戦。周りは全て敵。
さて、俺も。
「頑張りましょうかー!!」
受験生の集団最後尾を走りながら街に模擬された会場を見上げる。
俺の能力的には周りに人がいると巻き込みかねない。ならば、できるだけ人がいない場所でポイントを稼ぐほうが都合がいい。となれば。
みんなとは違う方へ足を進め、宙の空間に座標指定を行う。
「方囲、定礎、結っ!」
ピンッと形成された四角の結界を足場に一気にビルの上へと躍り出る。できるだけ人がいない場所へと結界を形成しながら空を走る。
試験会場、模擬の街の随分奥まで足をすすめると、眼下には五体の仮想敵。
俺の存在には気づいていないようだ。
久々のこの緊張感、高揚感にワクワクする。これじゃあ鋭児郎のこと言えないね。俺ってこんなに好戦的だったかな?
動きのトロイ五体全てに座標指定。ジジッと馴染みの音に耳を澄ませながら。
「結!」
俺の試験開始だ。
………………
『あと四分!』
どれだけ仮想敵を倒したかわからない。どこまで滅をすれば行動不能となるかもわからないからとりあえず体半分だけ滅をしてみたり、手足だけ滅をしてみたり色々試行錯誤しながらで考えることも億劫になってきた。
意外と受験生が奥まで来るのに時間を要さず、結局俺も地面に降りての混戦状態だ。何人か仮想敵に攻撃されそうになったり瓦礫に潰されそうになった人を助けた気もするけどあんま覚えてない。てか、みんな自分の試験に必死だしね。
しかし、随分と派手な個性を持った人もいるらしい。先程から爆発音がこの試験会場に響いている。しかも何十回と。爆破する個性持ちとか恐ろしい。ほんとにヒーローとヴィランて紙一重だよね。
なーんて、悠長に考えてちゃだめか。
突如として空に影がかかる。いや、空に雲がかかったわけではない。見上げた先にあるものを確認するとおもわず口が引きつる。
「ちょっとあれはでかすぎじゃないのかなぁー!?」
一歩歩くたびに轟音と振動をもたらす、ビルにも匹敵するサイズのお邪魔虫仮想敵。
なんだよ、あのお邪魔虫!!お邪魔虫なんて可愛すぎる言い方のゼロポイント仮想敵の大きさに出現したそばから受験生が蜘蛛の子を蹴散らしたかのように逃げてゆく。そりゃあ、ゼロポイントだから得点にもならないし、体力持ってかれるし、いいことないよね。
…でも、ゼロポイントってことは全部滅しても大丈夫なんだよね?
ゾクリッと背中が泡立つ。ゼロポイント敵に向かって歩む俺に何人かの受験生が声を上げてた気がするけど、俺は自分の実力がどこまで通用するのか、アレで試してみたい。
見上げるほどにデカい仮想敵に口角が上がる。以前の世界でもこれほどまでデカかったやつはいない。良守が学校の校庭に結界を張ったことがあるとは言ってたけど、さすがは体力バカ。あいつの無茶できるタフネスが羨ましい。
『あと一分!』
そんなカウントダウンに思わずぺろりと舌が出た。
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