43.75


ーーー鋭児郎視点。


外から逃げてきたらしい飯田たちとともに部屋の中で、外の様子がわからずそわそわとみんなが落ち着きのないまま時間だけが過ぎていく。

『A組B組総員―――…戦闘を許可する!』

再びマンダレイの言葉が頭の中に響く。普段ではありえない”戦闘許可”の言葉に部屋の中がざわつく。

その許可を出したのは、相澤先生しかいない。戦闘許可を出さなければならない自体に陥ってるってことなのか。そんな思考のまとまらない中、更にマンダレイの言葉が続く。

『敵の狙いの一つ判明―――!!生徒の”かっちゃん”!!』
「誰だよ!」
「爆豪……!?」
『わかった!?”かっちゃん”!!”かっちゃん”はなるべく戦闘を避けて!!単独では動かないこと!!』

プツンと途切れたテレパスはそれ以降何も言葉を紡ぐ様子はない。爆豪は肝試しに参加してるはずだ。

「先生!ダチが狙われてんだ、頼みます行かせてください!!」
「ダメだ!」
「敵の数が不明ならば戦力は少しでも多いほうが!」
「戦えって!!相澤先生も言ってたでしょ!!」
「ありゃ自衛のためだ、みんながここに戻ってこれるようにな」

腕を組んだまま扉の前で仁王立ちするブラド先生を前に唇を噛みしめる。ガタッと、扉の揺れる音とともに人カゲがドアのガラスに姿を写す。

「相澤先生が帰ってきた。直談判します!」
「…や…、待て違う!」

ブラド先生が叫んだ途端、体を部屋の奥へと押し返された。ブラド先生の背後には凶悪な黒炎がドアを破壊している。

「皆下がれ!!」
「さっきやられてた、敵!!?」

右手に黒炎を纏わせ、猫背でこちらを睨めつける男。炎がこちらへ向かう前に、ブラド先生が敵を壁へと叩きつけ、そのまま個性の”操血”であっという間に拘束してしまった。

「”操血”…強え」

圧倒的不利な立場に置かれているにも関わらず、黒炎を纏わせていた気味の悪いツギハギの男はペラペラとこちらの神経を逆撫でるようなことを口にする。

「例えばーーー、何度も襲撃を許す、杜撰な管理体制。挙句に生徒を犯罪集団に奪われる弱さ」

今”生徒”っつーたか?右手に握りしめていた携帯の存在を思い出し、嫌な汗がまたじわりと浮かんできた。

「てめー…、まさか……」
「そういうことかよ!?ザけんじゃねえ!」

電気を手に纏わせた上鳴が脅し文句を口にしても男の口が閉じることはない。いい加減怒りが脳天突き抜けそうになったところで、相澤先生がドアの役割を無くした場所から敵の頭めがけて華麗な蹴りを入れていた。淡々と敵を痛めつける中ドロリと溶けていった先程までいた男。どうなってんだよ。

「それに見ろ、ニセモノだ。さっきもきた」

もう一度、戦線に出るという相澤先生の言葉にブラド先生が唸るように口を開いた。俺も今言わねえと!

「二回ともコレ一体だ。強気な攻めはプロの意識をここに縛るためだとみた。”人員の足りない中で案じられた策”だこりゃ」
「敵が少ねえなら尚更俺も…!」
「ええ!数にまさるものなしです!」

「ダメだ」

はっきりした口調で俺たちの言葉をはねのけた先生に思わず悔しさに唇を噛みしめる。

「プロを足止めする以上狙いは生徒。爆豪がその一人ってだけで他にも狙ってるかもしれん」

どきりと、心臓が嫌な音を立てる。先程から繋がらない通話。知らない男の声。叩きつけられるような音。嫌な早鐘が心臓を打つのを、止める術を、今の俺は知らない。








…………………………











誰もが神妙な面持ちの中、パラパラと戻ってきた生徒やプッシーキャッツの面々を見て言葉を失った。予め、ブラド先生が呼んでいた警察に加え、更に救急車、消防までもが駆けつける自体に発展していた。

マタタビ荘前には意識がない生徒が多数、怪我をおっている奴らも多数いた。そんな中、俺は未だに見つけることのできない幼馴染の姿を探した。が、意識不明の生徒の中にも、負傷した生徒の中にもその姿はない。

ならば、と。相澤先生とかなめが最後に話していた中に出てきた”けんどう”の名前のB組の奴を探す。もしかしたらそいつらと一緒にいる可能性もある。

「あ!」
「?」

森の中から姿を表した両手を大きなものにさせ、人を引き釣りながら向かってくる女子に思わず声が出た。てか、その前に手の中にある奴ら運ばねえと。

「運ぶぜ!」
「あ、ああ。ありがとう」
「拳藤てお前のことだよな?」

突然名前を言われたことに驚いたのか、それとも人間違えだったのか。キョトンとした顔を浮かべられ、しばらくの間が空いてからそうだけど、と言葉が帰ってきた。

「肝試しの時、かなめ…あー、夜守がお前に会いに行ったみたいなんだけど、会わなかったか…?」

脈打つ心臓が気持ち悪い。口の中がカラカラとする。会ったよ、と一言言ってくれるだけでいいんだ。




「夜守?―――いや、会ってないよ」
「え」




その言葉に、微かな希望がガラガラと崩れる音がした。よほどひどい顔をしていたのか、拳藤から大丈夫かと声をかけられる始末。弾かれるように無理矢理笑顔を作ったが余計に眉をひそめられる。その視線から逃れるように早足に背負ってるやつを救急隊員のいるところまで運んだ。

―――、どこ行ったんだよ。かなめ。













「…、今ここにいる者達だけに先に伝えておく」

相澤先生、ブラド先生たちの前に怪我のなかったもしくは軽症であった、十数人だけが神妙な面持ちで前を見つめていた。

「いずれテレビでも報道されるだろうからな。真実を言っておく。生徒で無傷で済んだのはここにいるうちの13名。重軽傷者11名、敵のガス攻撃での意識不明者15名。…行方不明者2名」
「「「「……」」」」
「ガスで意識不明の者も命には別状はない。しかし、敵にお前たち生徒が狙われたのは事実だ。これより、警察の護送してもらいそれぞれ家庭へと送り届ける。林間合宿は中止、学校開始時期はこちらから各家庭へと電話通達する。今は質問も何も受け付けない。速やかにバスへ…」
「先生!!」

思わずついて出た言葉に、先生からの視線に言葉が出てこない。行方不明者2名。一人は緑谷たちの目の前で攫われた爆豪。……もう一人は?もう一人は、まさか…。

「…ブラド、先に他の生徒たちをバスに乗せといてくれ」
「ああ」

他の生徒たちが俺をチラチラ見ながらバスへと乗車していく中、相澤先生に手招きをされ足早にそちらへと走り寄る。

「先生、かなめは…」
「…現在捜索中だ。ただ」

相澤先生の後ろに置かれていた袋から出てきたモノが俺の手の中に落とされ、それを理解した瞬間、―――絶句する。

焼け焦げたボディーバックに、画面が割れた携帯。

「…夜守の持ち物で間違いないか?」
「…」

何も言葉を発さない俺を見かねて、先生がポツリとつぶやく。―――間違いない。合宿中にチョコを取り出したカバンであり、見慣れた、なんの装飾もカバーも取り付けられていないが、幼稚園の子どもたちに貼り付けられたと嘆いていた、オールマイトのシールがデカデカと貼り付けられた幼馴染の携帯。

「夜守も、敵の手中に落ちたとは断言できない。これから警察とともに俺たちも捜索に向かう。…気をしっかりもて」

相澤先生に背を押され、バスへと無理矢理乗せられる。そのときにかなめのバッグと携帯は没収されてしまった。

誰もが黙り込み、重たい空気の流れる中、バスだけが軽快に進んでゆく。

思考を埋め尽くすのは、悔しさもどかしさだけだ。

―――、何も出来なかった。

握り込んだ拳がギチギチと嫌な音を立てる。

俺はただ指を加えて事が過ぎるのをただ待ってるだけだった。

―――本当に、それでいいのか。悔しい、悔しい!!

俺にも、できることがあるんじゃないのか。正面切って殴り込みなんて、どこに逃げ込んだかわからない敵相手にできる訳がない。考えろ、何かあるはずだ。




―――ダチを助けるために、何が出来るか。考えろ。

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