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静寂が流れる。
テレビの中では相変わらず記者と学校側の舌戦が繰り広げられている。死者はでず、攫われたのは俺たち二人だけのようだ。俺が知らない間にそんなに被害が出てたのか。

ちらりと、未だに顔を俯けどこか放心したように落とした手を見つめる死柄木に違和感を覚えながらもじりじりと静かに後退する。

『誰よりも”トップヒーロー”を追い求め…もがいている。あれを見て”隙”と捉えたのなら、敵は浅はかであると私は考えております』

テレビから流れてくる相澤先生の発言。そこには迷いも何もない。ただ、俺達が敵の手なんかに落ちないという宣言だけだ。

『我が校の生徒は必ず取り戻します』

「ハッ、言ってくれるな雄英も先生も…。そういうこった!クソカス連合!!」

ちらりと横目に見た爆豪は顔面を凶悪にさせ、口を動かしながらも打開策を必死で考えているようだ。

「言っとくが俺アまだ戦闘許可解けてねぇぞ!」
「あ、そうなの?じゃあ俺もいいよね」

なら派手に結界使っても問題ないわけだ。ならまずは、じりじりと迫ってくるこいつらのいるこの空間からどうやって脱出するか。

ターゲットである爆豪とオマケの俺。重要度は違えどアジトへと連れてきて勧誘まがいのことをしてのけるのであれば、下手に命を取られる心配はない。特に爆豪に関しては。それを爆豪自身も理解しているのだろう。

「自分の立場…よくわかってるわね!小賢しい子達!」
「刺しましょう!」
「いや、…馬鹿だろ」
「その気がねえなら懐柔されたフリでもしときゃいいものを…やっちまったな」

いや、爆豪に懐柔されたフリとか無理でしょ。どこまでいっても素直なんだし。

「一人お荷物もいるしな」

ちらりと俺を見やる荼毘。そうですね、今の俺の状態はお荷物以外の何者でもないですよ。

「荷物は荷物なりに役に立てるもんだよ」

一触即発の空気が流れる。

そんな中ふらりと、死柄木の身体が揺れる。それに素早く反応を見せたのは黒靄の男。焦ったように言葉を放ち死柄木を諌めるが、ギロリと、死柄木の血走った目が俺たちへと向けられる。思わず心臓がひゅっと縮こまる。

「手を出すなよ…おまえら。こいつらは…大切なコマだ」

慎重に落とされた手を拾いながら元あった顔面へとつけ直す。やけに静かな声に緊迫した空気が流れる。

「出来れば、少し耳を傾けてほしかったな…。君たちとは分かり合えると思ってた…」

ゆらりと、また上体が揺れる。その異様な様から目が離せず、知らずのうちに嫌な汗が背中を伝う。

「ねぇわ」
「右に同じく」
「仕方がない。ヒーロー達も調査をすすめると言っていた…。悠長に説明してられない。ーーー先生、力を貸せ」

死柄木がいつの間にか切り替わっていたテレビの黒い画面向かってそう呟く。死柄木たちの意識が少しそちらへそれた。こつん、と肘で爆豪の腕をつく。死柄木たちから視線は逸らさずに囁くような声を出した。

「俺が結界で逃げ道作る」
「…出来んのかテメエ」
「やるよ。…少し時間頂戴」

張れる虚性なんていくらでもしてやる。何もしていないにも関わらず上がる息、額から流れる汗。顔色も見れたものではないだろう。それにきっと爆豪も気づいてる。でもいま頑張らないでいつ頑張るのさ。

死柄木の視線がこちらへ戻る。どうにか意識をして後ろの扉を定礎するために息を詰める。この場をつなげるためか、爆豪が挑発するように口を開いた。

「先生ぇ…?てめエがボスじゃねえのかよ…!白けんな」
「…黒霧、コンプレス。また眠らせてしまっておけ」
「ここまで人の話を聞かねーとは、…逆に感心するぜ」
「聞いてほしけりゃ土下座して死ね!」



―――イケる!!


コンコン。






「どーもオ、ピザーラ神野店ですー」
「「は?」」

ピザ?このタイミングで??驚愕に爆豪とちらりとアイコンタクトをした途端、左側の壁が突然轟音を立て破壊された。ガラガラと崩れるコンクリに紛れ粉塵が舞う。思わず顔をしかめ何が起きたのか状況確認しようと目を開き、安堵の息が知らず知らずのうちに漏れた。

「もう逃げられんぞ敵連合…何故って!?――我々が、来た!」
「ーーーオールマイト!」

オールマイトが開けた穴からシンリンカムイが己の手で死柄木たちの動きを拘束している。もう一人飛び込んできた初老のヒーローが目にも止まらぬ速さで反撃しようと黒炎を放とうとしていた荼毘を一撃で落とした。

俺達の後ろからも鍵を開け入り込んだプロヒーローと警官たちがわらわらと現れる。外もプロヒーローと警官が包囲しているらしい。あまりの早業に空いた口が塞がらない。プロヒーローたちすげえ。

オールマイトの目が俺たちへと向けられる。いつもと同じ、人を安心させるような、力強い笑みが向けられる。

「怖かったろうに…よく耐えた!ごめんな…もう大丈夫だ少年たち!」
「、!こっ…怖くねえよヨユーだ、クソッ!!」

爆豪の口元が何とも言えない曲線を描く。あれだけ強気に死柄木たちと言葉を張り合っても15歳。不安から開放され安堵したような表情を一瞬浮かべ、その次にはいつもどうりの強面の面に塗り替えられていた。どんな早業だよ。

「せっかく色々こねくり回したのに……、何そっちから来てくれてんだよラスボス…」

シンリンカムイの拘束に囚われたまま体を怒りに震わせながら死柄木が吐き出すように言葉を紡ぐ。

「仕方がない…。俺達だけじゃない……そりゃあこっちもだ。黒霧。―――持ってこれるだけ、取って来い!!!」

咆哮にも似た叫び声が上がる。また、脳無のような奴らが来るのかと身構え。…しかし、死柄木立ちの周りは静寂に包まれたままだ。死柄木もどこか唖然としたように両手を力強く上げたまま微動だにしない。

「すみません死柄木弔。…所定の位置にあるハズの脳無が…ない…!!」

困惑しているのは死柄木だけでは無かったようだ。焦りを見せる敵連合たちとは裏腹にザッザッとこちらへ歩いてきたオールマイトは俺の肩を抱きながら死柄木たちに向き直った。

「やはり君はまだまだ青二才だ、死柄木!」
「あ?」
「敵連合よ、君らは舐めすぎた。少年たちの魂を、警察のたゆまぬ捜査を。―――我々の怒りを!!おいたが過ぎたな、ここで終わりだ、死柄木弔!!」





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