04
『あと一分!』
まずはトロイあいつの動きを封じたい。両足、両腕部位に座標指定を施す。
「結っ!」
ピンッと張った結界に動きを止める仮想敵。腕を振るおうにも結界に阻まれできない。動きは封じた、あとは仮想敵全体を覆うほどの結界を…!
「方囲、定礎、」
さすがにデカ過ぎて定礎するだけでも時間がかかる。ジジジっと独特な音を発しながら四角に描かれる軌跡、四方が結ばれれば、あとは俺の勝負だ。
「結っ!!!」
ぐぐぐ、と結んだ印に力を込める。徐々に上へと向かう結界を見つめ、…全てが囲まれた。
不安定で揺らぎを見せる結界に更に安定させるために力を込める。じわりと滲み出した汗が額から流れ落ちる。あと少し、揺らぎがなくなりつつある中、今まで比較的おとなしかった仮想敵が急に更なる力を込めて暴れようと四肢を動かそうともがきだした。
「くっそ!大人しくしてろよ、あともうちょっとなのに…!」
一気に5つの結界に力を込めなければならない自体になり、一番脆い仮想敵を覆っていた結界がフッと姿を消した。それとほぼ同時に両手足の動きを封じていた結界も耐えきれずに姿を消した。
あとに残るのは何にも阻まれない仮想敵と疲労困憊の俺のみ。
仮想敵が大きく拳を振り上げる。あまりのデカさに動くたびに周りのビルが倒壊、瓦礫を生み出す。拳の直撃を避けるべく自分自身に何重にも結界を施すがあのデカイやつのパワーに勝るのかどうか。
そんな、倒壊音と自分の心音しか聞こえない中、うわっ!という叫び声に思わず顔を向けると一人。散々暴れ倒した仮想敵の残骸に阻まれ降り注ぐ瓦礫の下に立っている少年がいた。
まずい。巻き込んでしまった。
間に合うか。あわてて、少年の周囲に結界を形成する。遥か高くから降り注ぐ瓦礫はもはや重力加速度をまとった凶器としか言いようがない。それを俺の結界で防げるのかどうか。
思いっきり結界に力を込め、更に何重にも結界を施す。瓦礫が結界に弾かれるのを確認し、ガンガン殴られるような頭痛に歯を食いしばりながら力を込める。
俺の眼前から、自身に施していた結界が消える。少年のほうの結界は、消えてない。
あまりにも暴力的な拳が頭上に振りかざされる。
風圧すらも感じたそれは、
『終ー了ー!!!!』
叫びにも似た声とともにあと、それはピタリと俺の頭上で停止していた。
「……………くっそっ!!!!!」
ガンッと思い切り地面に殴りつけた拳が痛かった。
…………………………
試験が終わった後、冷静になった俺の頭を過ぎったのは試験に落ちたかもしれない事実である。
いや、だって真面目に仮想敵倒してたの最初の5分くらいだし、後半は自己満足のゼロポイント敵に勝負挑んで負けたし。しかも他の人巻き込んでたし、怪我なさそうで良かったけど。体力切れで動けなくなった俺のもとに来た回収係と思われる教師には軽いお説教を頂いたし。
受かってる気がしない。
雄英の門の前に座り込み、鋭児郎が出てくるのを待ちつつ項垂れる。
はぁぁ、と大きなため息を吐き出した頃にようやく鋭児郎が雄英から出てきた。相変わらず清々しい笑顔浮かべやがって。ささくれだった心には鋭児郎の無垢な笑顔が突き刺さる。
「その様子だと鋭児郎余裕っぽいね…」
「手応えはあったな!かなめも余裕だろ?それこそ高得点叩き出してんじゃねぇのか?」
「いや、落ちたかも…」
「うぇ?!」
ことの顛末を全て話せば流石の鋭児郎もフォローの言葉はない。まぁ、自業自得だから仕方ない。逆に変にフォローされても悲しい。
「まぁ、結果がくるまで何があるかわかんねぇし、なるようにしかならねぇよ!」
腹減ったからマックでも行こうぜー!なんて肩を組む鋭児郎に少し感謝した。やはり持つべきものは頼りになる幼馴染である。
数日後、家に届いた雄英からの合否通知。
両親が不安げな面持ちを浮かべるのを感じつつ、自室に引きこもる。もう心臓は破裂してしまうのでないかと思うほどにばくばくと激しく鼓動を打ち付けている。
ゴクリ、と固唾を飲み込み、ビリッと封筒を破いた。
『私が、投影されたー!!!!!!』
「うわー!!!!!!」
なにっ!?ホログラム!?しかもオールマイト!?もー!なんなの!めっちゃ驚いたんだけど!叫んじゃったじゃん!
『夜守少年。君ってば、最初の6分間はこちらが舌を巻くほどに仮想敵倒したり他者の救援したりしてたのに、後半は自己中心的な、あの場には相応しくない行動を取っていたねぇ』
客観的な指摘に再度己の不甲斐なさを突きつけられる。これは、本当に落ちたかな。肩を落としながら投影され続けるオールマイトの次の言葉を待つ。
『しかーし!ゼロポイント敵であろうが、巨大で敵うかどうかわからない敵に立ち向かうその心意気、嫌いじゃないよ!!』
『君は仮想敵25ポイント!あとレスキューポイント29ポイント!前半だけでこれだけポイントを稼いでいた子は少数だったよ!あと、自身よりも他者を救おうとするその心意気!君にはまだまだ伸びしろがある!さぁ、来いよ!雄英に!!合格だー!!』
「え…」
ぷつり、と消えたホログラムを前に呆然と立ち尽くす。
さっきオールマイトはなんて言った?聞き間違えじゃなかったら合格って言われた気がしたんだけど。ほんと、に?
「合格…?」
つぶやく事で反芻した言葉。
ぶわりと高揚する気持ちをどう抑えればいいのか、自分自身が思っていた以上に価値のある言葉だったようだ。
とりあえず両親に報告して、鋭児郎にも。
ああ、こんなにわくわくするなんて。二度目の人生も楽しくなりそうだ。
((かなめ!!おめでとうー!!))
(え、父さん、母さん!?)
(ごめんね、どうしても気になって盗み聴きしちゃったの!おめでとう!)
(堂々とよく言うね!?てか、盗み聴きだめだよ!でもありがとう!)
(いやー、かなめもヒーロー科かぁ。父さん鼻が高いよー)
(父さんのんきに言ってないで母さん止めてよ、めちゃ恥ずかしいじゃん!)
というわけで、来年度から晴れて雄英生です。
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