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パチリと目が覚める。目が映し出した見慣れない天井に寝起きの覚醒しない頭の中にクエスチョンマークが飛び交う。しばらくぼんやりと見上げたままそういえば昨日から寮生活が始まったのだとようやく思い出す。

おもむろに立ち上がり、顔を洗ってから冷蔵庫の中の水を取り出し煽ってようやく一息ついた。

朝の5時。寮から校舎までは徒歩5分。いくらなんでも早起きのしすぎか。…習慣って怖い。何をしようかなと寝間着からとりあえずジャージに着替える。学校の敷地内なら走りに行っても問題ないでしょ、うん。頭の中で結論づけてスマホと鍵を持って部屋を出た。と、隣からもバタンと音がした。その音に視線をやると朝からずいぶんと機嫌の悪そうな顔が目に入る。

「おはよう、爆豪」
「…おー」
「爆豪もランニング?それともごはん?」
「てめぇには関係ねぇだろうが」

チッと舌打ち一つ頂きましたー。でも格好的にランニングもしくは筋トレかそのへんな気がするんだよなぁ、ジムとかあるのかなココ。ありそうだけど。

爆豪の隣でエレベーター待ちをしているとじー、となにやら横から視線を感じる気がする。いや、気がするというか完全に見られている。爆豪に。

「………………なに?」
「あ?」

いや、あ?ではなく。穴が空きそうなんだけど、穴が。空いたらどうしてくれる。到着したエレベーターに無言のまま乗り込み、動き出したときにぽつりと爆豪の口元が動いた。

「…顔」
「あー、うん。キレイに治ったよ、リカバリーガールさまさま」
「あっそ」

それだけですか。いや、いいんどけどさ。何だかんだ気にかけてくれるよな、爆豪って。行動がそれを上回る凶暴さだけど。言葉にはだすまい。チンッと小さな音とともに開くドア。さて、準備運動してランニングに行きましょうか。

「……………結局ランニングだったのか」
「あぁ!?文句あっか、モヤシ野郎」
「一言余計だってば!」

仲良く?一緒にランニングに行きましたよ。…だってランニングコース見つけたら行くしかないでしょ、うん。最後の方は競争になったのは言うまでもない。どっちが勝ったって?………内緒。




…………………………………………………………



「さて、昨日話した通り、まずは"仮免"取得が当面の目標だ」

1-Aの教室。一番後ろの席に頬杖をつき、みんなの後ろ姿を眺める。ほんとに誰も欠けることなくこのクラスに戻ってこれたのだという実感が湧いた。だって昨日リカバリーガールのところから帰ったらみんな片付け終わってるし、その後も鋭児郎がグダグダ言ってたらもう就寝時間だったし。

「ヒーロー免許ってのは人命に直接関わる責任重大な資格だ。当然、取得の為の試験はとても厳しい。仮免といえどその合格率は例年5割を切る」

5割、半分が仮免で落ちるのか。そういえば、仮免の具体的な試験内容って知らされてないよね。筆記試験ってあるのかな。

「そこで今日から君らには一人最低でも二つ……」

相澤先生がドアに向かって何やら手招きをしたかと思えば勢いよく開く扉。そちらへ目をやるとなにやら生き生きとした顔をした先生たちがガン首揃えて立っている。その笑顔がなにか怖いです、はい。

「必殺技を、作ってもらう!!」
「学校っぽくてそれでいて、ヒーローっぽいのキタァァ!!」

ガタンッ!と勢いよく立ち上がるメンツが興奮したように声を上げる。思わずその勢いにびくりと体が震えたのは気のせいだ、こら、轟こっち見るんじゃない。

必殺技について、先生たちが熱弁を振るう中、その言葉を頭の中で反芻する。必殺技…俺で言うならば極限無想がそれに当たるのだろう。でも先生一人二つはっつてたよな、うーん…。まあ、おいおいにしよう。

「詳しい話は実演を交え合理的に行いたい。コスチュームに着替え、体育館γへ集合だ」

くるりと先生たちは教室をあとにした。みんなが何処か高揚したような雰囲気のまま、コスチュームを手に取り更衣室へと足を運んでいく。さっそく久々に手にするコスチュームバックを開けば何故か空いているスペースが二つ。…なんだっけこれ。なにか忘れてる気がするけど…まあ、いっか。

「かなめー、早くいかねぇと先生に怒られるぞー」
「すぐ着替える!」

手早く着替え体育館γに足を踏み入れると説明を始めていたらしい先生たちの合間を縫ってなにやらガンダム飯田が勢いよく挙手をしているところだった。遅れてきたのはバレてないっぽい、セーフ。

「ヒーローとは、事件・事故・天災・人災…あらゆるトラブルから人々を救い出すのが仕事だ。取得試験では当然その適性を見られることになる」

情報力、判断力、機動力、他にもコミュニケーション能力、魅力、統率力など多くの適性を毎年違う試験内容で試される、と。相澤先生の言葉に耳を傾けながら痛い言葉に思わず耳を塞ぎたくなる。コレ、俺なかなか難題しかない気がするんだけど。前世でもっとそういうの磨いとくんだった。

「技ハ必ズシモ攻撃デアル必要ハ無イ」

例えば、と続けられた言葉は飯田の体育祭で見せた超高速移動をした技が例えに挙げられた。自分の特技を押さえるってのはこういうことを言うんだろうな。

「中断されてしまった合宿での"個性"伸ばしは…この必殺技を作り上げるためのプロセスだった。つまりこれから後期始業まで…残り十日あまりの夏休みは"個性"を伸ばしつつ必殺技を編み出すーーー…圧縮訓練となる!」

目の前にはセメントの山々が形成され、エクトプラズム先生が分身を生成。異様な雰囲気の中、畳み掛けるように相澤先生は静かに言葉を紡ぐ。その雰囲気に思わずふるりと体が震え、高揚感に思わず口角が上がる。

エクトプラズム先生が分身を形成したってことは一人に付き先生が一人つくということだろう。なんて贅沢なんだろうか。

「尚"個性"の伸びや技の性質に合わせてコスチュームの改良も並行して考えていくように」

……………ん?コスチュームの改良、あ、忘れてた。

「プルスウルトラの精神で乗り越えろ。準備はいいか?」
「「「「「ワクワクしてきたぁ!!」」」」」

発目に改良頼みっぱなしじゃん。
思わずぽんっと手を打った。
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