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「よろしくお願いします」
「アァ」
体育館の一番端、セメントの山が築かれた一番上の場所。周囲を見渡せる場所が俺のエリアらしい。まぁ、結界使って飛べばここまで来るのは苦じゃないし、合理的なのかな?目の前にいるエクトプラズム先生にペコリとお辞儀をしてからさて、どうすればいいのだろうかと首をひねる。同じように首を傾げた先生に思わず和む。
「君ハ期末試験ハ体力が課題ダッタカ?」
「あ、はいそうです」
「必殺技ノ構想ハシテイルカ?」
「一つは…今の結界をより強固に精度をあげるのを目的にしてます。ただかなり集中力がいるんですよね」
うーん、言語化にするのって難しい。フム、とエクトプラズム先生が腕組みをして何か考え込んでいるようだ。
「構想ガ出来テイルナラバ、絶エズ攻撃シタママ体力増強ト集中力ガ必要ナ必殺技が繰リ出セルヨウニ特訓スルカ」
「よろしくお願いします!」
さぁ、特訓開始だ。
…………………………………………………………
まぁ、極限無想も意気込みだけですぐできるものでも無く…。先生に常に攻撃されながら結界を展開し、且つ無想から更に集中力を練り上げるなんてそんな簡単なはずもなく。
「うぐっ…!」
「…少シ休憩スルカ」
「すみません…」
息も絶え絶え、セメントの上に寝そべったまま起きる気力もない。上から俺を見下ろしていた先生がよっこらせと呟きながら俺の横にあぐらをかいて座り込んだ。…流石に座ったほうがいいよね。だるい体を叱咤し、先生の横に座る。先生は何処か考え込むように天井を見上げ、徐に俺へと視線を移した。
「今特訓シテイル集中力ヲ要スル必殺技モ良イガ、君ハ接近戦ニナルト途端ニ弱イナ」
「…あは」
「遠距離戦デアレバ結界ニ阻マレ、君ニナカナカ近ヅク事モ難シイ。シカシ、接近戦トモナレバ君自身ノ結界ガ君ノ次ノ手モ邪魔ヲスル」
「おっしゃるとおりデス」
確かに、結界術はどちらかといえば遠距離戦に適した技だ。前世では接近戦にもなれば習得済みであった極限無想を展開してその場をしのいできた。…ああ、そういえば接近戦向きの技がいくつかあったな。
「ドチラカト言エバ、我々ハ敵ト接近スル場面モ多イ。接近戦モ想定シタ技ヲ模索シテモ良イノデハ?」
「…そうですね、少し、考えときます」
ざわりと、どこかで空気が揺れる。オヤ、と先生が視線をやるその先に釣られて目をやると片手を上げ、体育館へと入ってくるオールマイトの姿があった。
ざわり、と胸の内が騒ぐ。
まだ包帯の取れない右腕、額。まだ、傷は癒えていないのかと落胆する。前にリカバリーガールが言っていた言葉が脳裏によぎる。
ーーー私の能力は治癒力の促進。体力のない患者には使うことのできない能力なんだよ。
…もう、リカバリーしてもらうほどの体力も残っていないのか。
あまりにもじっと、見すぎていたのかふとオールマイトがこちらを向く。へらりとした笑みを浮かべられ、すっと視線が俺から外れる。…あぁ、胸がざわざわする。
コツンと先生の足が俺の膝を叩く。ようやく意識がオールマイトから外れ、エクトプラズム先生を映し出す。先生は何か言いたそうに口を開いたが、一度閉じ、ため息一つついてから小さく言葉を紡いた。
「…ソロソロ続キヲスルカ」
「…、はいそうですね」
集中、出来そうにないけど。案の定、無想もまともに出来なくて先生に静かに怒られるのはそんな遠くない未来。
…………………………………………………………
「……………はぁ」
胸の中にもやもやとしたものが蔓延る中今日の特訓は終わりを告げた。エクトプラズム先生には集中しろと足蹴にされたけど。
まだ明るい中こつりこつりと俺が廊下を歩く音だけが響く。
今俺が向かっているのはサポート科にある工房だ。最初に戦闘訓練があってから早数カ月、すっかり存在を忘れてしまっていたコスチューム改良を頼んでいたモノがどの程度で来ているのかを確認しに行く為だ。体育祭の時の前科もあるし、定期的に見に行かないとまた道の外れたものを作ってそうな気がする、うん、発目ならあり得る。すっかり忘れてた俺も俺だけど。
廊下の先、なんの特徴もない二枚扉のドア。その上には工房の文字。…そういえば、何も連絡入れなかったけど発目いるのだろうか。発明馬鹿だといってたからいつでもいるものだと思ってたけど、いなかったら意味ないよね。
「…一応連絡入れとこうか」
扉を目の前にゴソゴソとスマホを引っ張り出す。ラインを呼び出し、発目の文字を探して…。
バァンッ!と轟音を立て突然開いた目の前の扉にびくりと肩が大きく震え、開かれた扉スレスレにあった前髪がふわりと宙に浮きあがる。冷や汗が背中へと流れ落ちる。…これもう一歩前に立ってたら扉に挟まれ死が死因であっただろうというくらいには戦慄した。扉怖い。いや、扉は悪くない開けた人物が悪い。
「あなたは、夜守くん!!」
やや思考回路が脱線気味だったのを無理やり修正する声が目の前からかけられる。特徴的なピンクの縦ロールの髪、キラキラ楽しそうなものを見つめる子供のような目。…、発目である。元凶はお前かと思わず掴みたくなったが相手は女子、冷静になれ俺。
「ちょうどいいところに!さあ、早く入ってください!」
「は、え、ちょ、まっ…!」
まともに一言を発することを許されず、女子とは思えない怪力で俺の腕を鷲掴み先ほど轟音を立て開かれた扉の中へと連れ込まれた。相変わらず人の話聞かないね、君!
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