05


春。
桜が咲き誇り新しい季節を告げる。真新しい制服に身を包み、俺は今。

全力疾走しています。

「なんで今日に限って誰も教えてくれないのかなー!!?」

半泣きである。朝、あまりにも早起きしすぎて時間が有り余ってしまったため、自宅兼道場で鍛錬をするまでは良かった。

タイマーもセットしたはずなのに音が聞こえた気がしない。両親いわくうるさいくらい鳴ってたと言われたけど、集中すると周りの音聞こえなくなるの知ってるなら教えてよー!!

こんなときは雄英高校のあまりの広さに嫌になってくる。スマホを見れば鋭児郎から1-Aだとラインが来ていたのが幸いである。こんな時間ないときに自分のクラス探し出せる余裕ないし。

階段を駆け上がり”1-A”とやたら主張の激しいドアをくぐり抜ける。間もなくチャイムが鳴り響き大きな息をついた。高校初日からスリリングすぎていやすぎる。いや、自分のせいなんだけど。

「おっす、かなめ!どうしたんだよ、寝坊か?」
「おはよー…いや、修行してたらギリギリになって…」
「お友達ごっこしたいなら他所へいけ」
「、さ?」

へ?
思わず鋭児郎がそんな不穏な言葉を喋ったのかと唖然とすれば、いつの間にか静まり返る教室内とぬー、と立ち上がる黒づくめの男性。え、不審者?

「担任の相澤消太だ、よろしくね。早速だが、これ着てグラウンドに出ろ」

え、担任なのか。
しかもいきなりグラウンドに出ろって。ホントに俺遅刻しなくてよかった。さすがにグラウンドで入学式するなんか思わないし。でもなんで、体操服着るんだろうか?

疑問しか出てこない中、相澤先生はそれだけ端的に述べるとそそくさと教室から出ていってしまった。これは早くグラウンドに行かないとまた怒られるやつだよな。でも、

「更衣室ってどこ…?」

入学初日の俺達が知るはずもないですよね、うん。





…………………





「個性把握テストォ!?」

グラウンドに集まった俺達に告げられたのはいきなりの体力テスト。ボブの少女が抗議するように声を上げているかが先生は右から左へ聞き流している。

淡々と説明をすすめていく中で実技試験会場で印象の深かった少年がボールを個性を使って投げろ、と言われている。てか、彼合格したんだなどんな個性なんだろうか。

ぐっと力を込め、遠心力をつけて勢い良くボールが宙へ。

「死ねぇぇぇえ!!!!!!」

なんて不穏な言葉を発して爆音とともにボールが遥か彼方へ放り出された。もしかして彼は俺が想像していた可愛らしい性格ではなく見たままの恐ろしい性格なのだろうか。

そういえば、試験会場で轟いていた爆音ももしかして彼のものなのだろか。よかった、口に出してなくて。出してたら文字どうり殺されそうだ。

「面白そう…か。ヒーローになるための三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」

あ、誰か先生の地雷ふんだな。やめてよ、こういう顔に出ないタイプの人ってえげつないことしてくるから超怖いんだよ、知ってんの?

「よし、トータル成績最下位のものは見込みなしと判断し、除籍処分としよう」

生徒から湧き上がる不満の声。確かに言ってることめちゃくちゃどけど、面白い。そういうのは越えてナンボだよね、やってやろうじゃん。

俺と同じように好戦的な連中は目をギラギラさせながら不穏な笑みを浮かべている。逆に不安そうな生徒がいるのも然り。けど、これくらいの壁乗り越えていかなきゃこれから人生苦難の連続だよ?きみたち。

「全力で、乗り越えてこい。こっからが本番だ」



……………………




さて。挑発されてやる気になったのはいいけど。どうやって応用すれば好成績が出るのか…。だって体力テストで個性使うなんて想定外だし。

50m走一番手、まさに彼の独壇場とも言える圧倒的な速さ。足がエンジンになるとか、ホントに個性って幅広いよねぇ。あとお腹からレーザー出してた子何なの。それで飛ぶってぶっ飛んだ発想が面白いわ。さて、俺もどうしたものか。

普通に走れば6秒前半。でもそれだとかなり順位としては下。

俺の個性どうやったら使えるものか。

出席番号が一番最後の俺はまぁ、考える時間と周りの観察をする時間はあるけど。まぁ、50m走なんてあっという間に順番が回ってくるもので。

「しかも一人なんですね」

競う相手いないとか、やりがいがないんですけど。え、誰か一緒に走ってくれないかな。「さっさと位置につけ」はい、無理ですよねー。

「先生、準備するからちょっと待ってくださーい」

とりあえず、即席でできるかは全く不明だけどやるしかないかー。靴を脱ぎ胸の前で印を結ぶ、靴の裏にそれぞれ結界を施し、それの弾力を確かめて強度を練る。うーん、これくらいならいけるかな。ちらり、と相澤先生見上げれば恐ろしい形相を浮かべているので、恐ろしや。さっさといこう。

「よーい、スタート!」

スタートの合図とともにいつもと同じように足を踏み出す。勢いよく地面に触れた足が思った以上にびょんっと跳ねた。

「うわっ!制御、むずっ!」

ホッピングの要領で、両足裏につけた弾性のある結界をバネのように使い、一歩の踏切を大きくする作戦である。しかし、思った以上に制御ができない。

「わっ!」

ゴールとともに顔面からダイブ。やっぱり即席だと制御云々の問題になってくる。これも一応練習するほうがいいかな。使いこなせたら楽そうだし。一々足の踏み場に結界作るのしんどいし。

『5秒32』

お、ちょっと早くなった。やりぃ。

「かなめー、顔大丈夫か?思いっきりいったなー」
「即席だから仕方ないでしょ。鼻血出てないから、セーフだから」
「鼻血でてなかったらセーフてどんな基準!」

ぶはっと吹き出したように笑い出したのは見たことのない金髪頭。チャラい。

「怪我してなきゃいいの。てか、どちらさん?」
「俺、上鳴電気!お前面白い個性だな」

え、俺の個性なんだと思われてんだろ。

「あれだろ、バネの個性かなんかか?」
「違うわー!」

思いっきり叫んだら相澤先生に睨まれた。解せぬ。


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