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「"解"。うーん…見事に離れたね」

揺れの収まった割れた地面の下、というより瓦礫の山と化 した地面の隙間で独りごちする。向こうの狙いは獲物をバラけさせることだろう。そうすれば多勢に無勢塊になっている方が有利になるし。まぁ、こんなことで負ける気はサラサラないけど。

「でもまぁ、誰かと合流できる方がいいけど」

先程までの喧騒が嘘のような静けさだ。周りを警戒しつつ瓦礫を越えて歩くが一向に誰とも合わない。…こういう時"探索結界"が使えたら便利だよね。できないから動き回るしかないけど。

「……けて、」
「ん?」

微かな声を耳が拾い上げる。きょろりと周りを見渡しても誰もいない。かすかに聞こえてきた声の方へと足を向けると、一人瓦礫の下敷きになっている男がいる。右半身が挟まれているのか、自由な左側で藻掻いているが一向に瓦礫が退く気配はない。…さすがにこのままは後味悪いか。

ざりっと鳴った足音に気づいた男が俺の姿を認めパッと顔を輝かせた。

「頼む…助けてくれ…!」
「一応俺敵になるんだけどいいの?」
「構わねぇよ!痛いんだ、助けてくれ…」
「…わかった。ちょっと瓦礫退けるから待って」

大きな瓦礫を流石に素手で退けるのは至難の業だ。もう結界で滅してしまうほうが早いだろう。手っ取り早く男の体を巻き込まないように注意しながら大きな瓦礫の大部分を囲うように結界を形成した。

「"滅"」

パンッと小さな音を立て消え去った瓦礫に唖然とした表情の男を見下ろしざっと大きな怪我がなさそうなことを確認して手を差し伸べた。

「起きれる?大きい瓦礫だったし体痛むなら医務室とかいったほうがいいと思うけど」
「あぁ、サンキュー。……、けどその必要はないぜ」

俺の手をとろうとした男が、ニヤリと不敵な笑みを浮かべたと思えば目の前でその姿が揺らいだ。ハッと気づいたときには地面からザリザリと錆びた金属の擦れるような嫌な音が俺の周りから生まれ、あっという間に四方を黒黒しい鉄の棒が取り囲んでいた。

鳥籠のようなそれにようやく罠だったのかと気づいたときには手遅れ。笑い声と足音が複数、近づいてきた。

「はははっ!こんな古典的な罠にかかるとか雄英も地に落ちたな!」
「お人好しすぎんだろお前。そんなんじゃこれからやっていけないぜ?」
「まぁまぁ、こいつ一年だろ?先輩の俺たちが今から身を持って教えてやればいいんじゃねぇの?」

にやにやと嫌な笑顔を浮かべている三人組。その中に先程まで俺の目の前にいた男がいる。複製か、幻影かそんな類の個性だろう。もう一人はこの檻を出現させる個性、あと一人は不明。

俺が何も言わないことをいいことに誰が俺一人分の得点を取るかで勝手にもめ始めた三人組を呆れた眼差しで見つめる。檻に閉じ込めたくらいで勝った気になられても困る。しかも仲間割れとか。三人いるならせめて獲物を三人くらい一気に狩れる方法編み出さなきゃ仲間割れのもとになるくらい簡単に想像がつくのにさ。

呆れたため息を付く中、さっさとここを出ようと印を結んだところで見知った人影が見え、思わず口元が上がる。向こうも俺がそれほどピンチだと考えていないのか焦っている様子はない。うん、流石。

それにしても。

「騙し討みたいなことしなきゃ俺一人しか狩れないなんてコスパ悪いね」
「「「あ"?」」」
「だってこれって勝ち抜きだよ?あんた達みたいに仲間割れしてる間にさ。……俺の仲間が来ることとか考えなかったの?」
「「「!!!?」」」

漸く事態に気づいたのか警戒態勢に入る三人、でも遅い。

「"結"!」

ピンッと三人に向かって手足の動きを封じる結界を展開する。全く動く気配がなかったから座標指定が簡単で助かった。

「ほいっ!」

なんとも言えない掛け声とともに姿を表した麗日は俺が動きを拘束した三人を瞬く間に落としていく。うん、飛び蹴り激しすぎてあらぬ方へ首が傾いたり音がヤバそうだったりしてるけどきっと大丈夫であろう、うん。

「おーい、夜守まだ生きてるかー?」
「俺もターゲットも全部無事だよ。誰が俺を取るかで勝手に揉め始めてくれたお陰で時間稼ぎになったし」
「よかったわー。見つけたら夜守くん檻の中なんやもん!ビックリした」

瓦礫の山を超えてひょっこり現れた瀬呂とゆるゆるした会話を交わしていれば三人を無事落としてきたらしい麗日が爽やかに現れた。…うん、彼女の後ろは屍累々だけど。

「二人ともちょっと離れててね。ーーー"絶界"」

じゅわっ!と音を立て消えていった檻からさっさと出る。絶界を使えばこんな檻有ってないようなものだ。

「さて、じゃあ一人ずつ獲物をいただきましょうか」

ーーー至極恐縮ですけど、年下から社会の厳しさを先輩方に教えて差し上げましょ。



…………………………………………………………………




「にしても、なかなか出会わないもんだね」
「俺らみたいにみんな塊になってから行動し始めてるんじゃねぇか?」
「やとしたらあんまりにも大人数すぎるとウチら三人やし不利やね」

一人一得点ずつ得た状態で次のターゲットを探すがこれがなかなか見つからない。雄英のみんなにも出会わないし思った以上にバラけさせられたな。

『54人目出ました、あと半分切った!早く!終われ!』
「げ、半分切ったな」
「そろそろ身を潜めてた連中が焦って出てくる頃じゃない?」
「…なんか夜守くんおったら冷静になるわぁ」

麗日から感嘆の声が聞こえてくるが、苦笑いにとどめておく。これも前世での賜物である。俺からしてみれば頭の回転早いわ、機転が効くわ、冷静沈着のA組面子の方が感嘆する。なに、みんな実は転生者とか?いや、そんなわけないだろう。

「……なんか音がするね」
「うん?」
「あっちからか?」

俺たちがいるところから少し距離がありそうな声の大きさ。でも明らかに複数。叫ぶような声色も聞こえるから戦ってるのかな。

「瀬呂くん、夜守くんあそこやわ。…アレってデクくんかな?」

麗日から手招きされ瓦礫の隙間から覗き込んだ先、複数の声が聞こえたと思ったら意外と二人しかいなかった。ここからの位置では緑谷ともう一人後ろ姿しか見えないが…なんで裸?うん、絶対雄英のメンツではない。うん。

「なんで裸?ターゲットすらないし」
「は?…あ、痴女が緑谷に襲いかかった」
「いやいやいやいや、なんで二人とも冷静なん!?助けなアカンやん!」
「「ごめん(悪い)、ちょっと驚いて思考停止した」」
「なんでやねん!」

バシッとしっかり俺と瀬呂にツッコミを入れてから麗日が勢いよく飛び出していく。流石に個性不明の相手に特攻かけるのはよろしくないけど、結界で相手の動きを制限しようにも遠目から見るに明らかに身のこなしが素早い。そう簡単に捕まえられてくれそうにない。

「瀬呂、あの女の人と緑谷分断できる?あれだけ動かれると俺の個性じゃちょっと厳しい」
「オッケー、じゃあ分断できたら痴女の方頼む」
「はいはい」

麗日に続いて飛び出していった瀬呂は自身の右腕のテープに指をかけると噴出しながら一枚のテープを三枚に割いていた。なるほど、そんな使い方もできるのね。

「緑谷!何この羨ましい状況!!」
「瀬呂くん!あらゆる意味でナイス!!」
「結」

うまい具合に女の人と緑谷の間にはられたテープに女からはむっとした様な表情が瀬呂へと向けられる。間髪入れずに結界を展開したが、ちょうど結界の定礎した場所から体をねじって避けられてしまった。え、反応早すぎない?女の人の視線が瀬呂から俺へと移る。が、なぜか嬉々とした表情を浮かべられている気がする。瀬呂を見てたときより明らかに顔が笑ってるし、え、こわ。

「麗日!」

女の体整が整っていないのをみて、麗日が蹴り技を仕掛けるがひらりと身を翻し、女は瞬く間に離れた瓦礫の上へと飛び上がった。いやいや、なんであんな状態から麗日の攻撃避けれるの?

「残念…本当に…!本当に!もっと話したかった。でもこれじゃあ無理ね…残念だ」

恨めしい目を麗日に向けながらブツブツと言葉を紡ぐその姿に背筋がゾッとする。得体のしれない、とはこのことを指すのだろう。

「ウララカオチャコさんとっても信頼、されてるね」
「は!?」
「カモリカナメくんも、もっとお話したかった」

ちらりと、最後に視線が俺と合わさると淡い笑みを浮かべたままあっという間に体制を翻し、またたく間に瓦礫の向こうへと消えていってしまった。それを追いかけようとする瀬呂を緑谷が制す。うん、できれば彼女とは関わりたくない。てかなんで、俺の名前知ってんの。まぁ、今は緑谷の安否確認を、て。

「それより三人は本物だよね?」

…なんで疑われるのかがわからないんだけど。どうしたの、緑谷。


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