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「とりあえず4人!」
「皆待つか。他所は10人以上で動いてる、数で押されるぜ」

動くか否か。迷ってる暇はないと思うけど。そんな事を緑谷たちが口にしている間に放送が響き渡る。58名の通過。おちおちしてらんないね。

「…少なくとも今近くにいる団体ならなんとかなるかもしれない」
「は!?すげえな!?どゆこと!?」
「あ、やっぱり集団いたんだ」

緑谷と女の声の割に騒がしいとは思ったけど集団ともドンパチしてたわけね。緑谷がぽつりぽつりと言葉を発していくその手段は的を得ている、と俺は思う。少なくとも俺が考えていた方法と似ているからだ。…そのやり方ならばこの四人でも十分に実行可能である。

「シッ!ちょい待って…来てない…?」

僅かな足音を拾った麗日が身を強張らせる。瀬呂が慌てたように口を抑えるがどうもこちらの位置を向こうは把握していそうだ。よっと、立ち上がる俺を麗日が心配げに見上げてくる。

「俺が、「僕が出る」」

ちょうど言葉の被った緑谷を思わず見つめる。まぁ、この四人だと実働すべきなのは俺と緑谷だよね。本人がその気があるなら話はすすめやすい。

「は!?」
「俺ら二人が囮になって、向こうを翻弄させる」
「二人は隙をついてなるべく多くの相手を拘束して!瀬呂くんと麗日さんの個性は相手から自由を奪いやすい」
「夜守の個性のほうが相手の自由を奪いやすくねぇか?」

瀬呂が戸惑ったように言葉を紡ぐ。まぁ、俺の個性はどちらかといえば前衛よりも後衛向きだし。でもこのメンツであれば前衛でも十分だろう。なにより、あの人数に対して緑谷一人では負担がでかすぎるだろうし。

「俺はどっちも要員で行くよ。まずは相手を出来るだけひと塊にしなきゃね。緑谷、ターゲット気にせずに派手に動き回ってね」
「え"!?」
「いやいや、流石に見殺しは良くねぇぜ夜守…」
「皆で通過せな意味ないやん!」
「いや、誰も見殺しになんてしないし、みんな俺の個性忘れてない?」

なんか、提案したら非難轟々でぎょっと目を見開く。麗日が詰め寄って来たのを肩を押しながら距離を取る。

「俺の個性"結界"だよ?緑谷のターゲット俺の個性で守ればいいじゃん?隠すのはだめだけど、守っちゃだめなんて言われてないし」

ピンッ、と緑谷のターゲットに結界を張ればぽんっと三人ともが手を打った。…なんだろ、個性忘れられるほど俺の個性って目立たないのか?うん?

「確かに守ったらアウト!とは言われてねぇよな」
「思いつかなかった。捨て身で行ってこいって言われたのかと…」
「揚げ足取るのがうまいなぁ夜守くん」
「ねぇ、俺褒められてんの?貶されてんの?」

ちょっと三人とも目をそらすな、こら。

「ともかく」

緑谷が俺と目を合わすことなく無理やり話題変換した。まぁ、こんなことで言い争ってる暇はないけれども。虚しくなるよ、うん。

「さっき言った作戦で行こう。……夜守くんよろしくね?」
「そんな念押さなくってもちゃんと結界するから盛大に暴れてきて。"結"」

ピンッと3つに張られた結界を見下ろし、緑谷がぐっと集団がおるであろう方向へと体を向けた。後ろでは麗日と瀬呂が何やら手製の罠を作っているようだ。

緑谷が勢いよく飛び出した途端に上がる怒声。俺も同じように飛び出せば緑谷に向かっていた視線がいくつか刺さる。じゃあ緑谷だけに任せていられないし。

「"絶界"」

どろりと、体の中から"黒"が溢れ出すイメージ。言葉とともに現れた、周りから見れば正体不明の黒い靄に俺を取り囲んでいた連中が一瞬動きを止める。動きが止まってしまえば俺の領域。

「"結"!」
「っ!足が…っ!」
「やべっ、動かねぇ!!」

手早く結界を展開し、数人の動きを封じる。それを見ていた他の連中が俺に向かってボールを投げてくるが、絶界の俺には無意味で。

「っ!?」

ジュワッ、と音を立て消されたボールに息を呑む音が聞こえる。ジリジリと俺から距離を置こうと後ずさろうとするがそうされて分散されても困るし。ちらりと後方を覗けば随分と走り回っている緑谷の姿がある。そんなに必死なってボール避けなくても跳ね飛ばせれるんだけど…。

「出来れば固まってほしいんだけど…"結"」

複数個の結界を多方面に多数形成する。相手からすれば突然様々なところに現れた半透明の四角の箱に挙動が停止する。

「"滅"」

無作為に作り出した結界を滅すれば、派手な音を立て消え去る謎の物体に相手が慌てたように一定の方向へと飛び退く。これって奇襲とか仕掛けるのに持ってこいだよね。

「ーーーデクくん!夜守くん!いきます!」

突然響いた麗日の声に飛び退いた数人が慌てたように周りを見渡すが、もう遅い。声とともに頭上を確認すれば瀬呂の個性のテープにやたらとでかい瓦礫が宙を舞っている異様な光景。それを認めた瞬間に重力を得たように急降下を始めたソレを、俺の個性を避けたために飛び退いた連中には避ける策もなく。…その罠に捉えられ、地面へと平伏すほかはない。

「ハエ取りみたい…」
「くっそ…!外れねぇっ」

瀬呂のテープに絡め取られ、大きな岩に固定されたソレを外すことも叶わず、うめき声を上げ暴れているのみ。うまい具合に避けた敵がいたらしく、岩陰に潜んでいた瀬呂があっという間に個性で絡め取って拘束した。ちらりと周囲を見渡し他に隠れている奴がいないか確認し、視線を下へと移した。

「さて、ほかが来ちまう前にさっさと頂いちまおうぜ」
「き、君たちまだ、一年だろ。俺は今年が最後なんだよ…っ!」

瀬呂のテープを千切ろうともがいていた一人が悔しげに口を開いた。

「…すみません、俺たちも必死なんです」
「俺から一つ言わせてもらえば、情けで今助かっても二次試験で難しいと思うよ」
「夜守手厳しいこと言うよなぁ」
「弱肉強食を絵に書いたような場所で生きていくには勝ち続けるしかないからね」

苦虫を噛み締めたように顔を歪ませた見知らぬ人のターゲットをコツリコツリと押してゆく。3つ目のターゲットを押し終わったあとにポンッと自身につけていたターゲットが全て赤く点灯した。

『ターゲットが赤く点灯したものは早く通過者控室へ移動してください。早く』
「反応早いな。まぁ、とりあえず第一関門は通過?」

『一気に4人、62人目通過!』

俺の声に答えるように、実行委員のけだる気な声があたり一体に響き渡った。



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