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第一試験通過者が集められた場所には、巨大なモニターが設置してあり、まだ通過していないメンツの映像が映し出されていた。混戦となっている場所に、A組が集結し個性を総動員してなんとかギリギリ100人目のタイミングで飯田か青山がターゲットを押し、試験終了のアナウンスが流れた。

「おォオオー…、っしゃああああ!!」
「スゲェ!!こんなんスゲェよ!!」
「雄英全員一次通っちゃったぁ!」
「いやいや、心臓に悪い」


ハラハラとした心持ちで見ていたこちらは、いや、俺だけかもしれないけど、としても一先ず安心である。にしても地味に結構な人数が残ってたね、危ないなぁ。何はともあれ全員通過したことは意義が大きい。

「この次はなにの試験なのかしらね、ケロ」
「…まぁ、一筋縄では行かないんだろうね」

簡単に仮免出してくれるならこんなに一次試験で合格者数を減らすことはしないだろうし。緊張ゆえか、妙に乾く喉を潤すように配給された飲料を煽る。冷たい飲料が喉元を通る感覚に小さく息をついた。

『えー、100人の皆さん、これご覧ください』

先程までの混沌とした映像から切り替わり、人気のなくなったフィールドの映像。みなの視線が映像へと集まる中、建物から土煙が少しずつ上がり始め。何かが弾けるような音が次第に大きくなってゆく。

ボン、ボン…ドカーンッ!!!!

「え」

一際大きな爆発音が耳に痛いほど鳴り響く。その瞬間に先程までしっかりと映っていた画面は瞬く間に土煙につつまれ、少しずつ開けた視界からは倒壊した建物で溢れていた。

『この被災現場でバイスタンダーとして、救助演習を行ってもらいます』
「げ…、苦手なやつ来た」

ここに来て、今のところ演習で一番苦手なやつが来てしまった。いや、わかるよ。やっぱりヒーローになるためには戦闘能力だけじゃなくて、とっさのときの救助や医療知識とか諸々がいるってことも。

「「パイスライダー…?」」
「二人、そこはツッコんだほうがいいの?」
「現場に居合わせた人のことだよ、授業でやったでしょ?」
「一般市民を指す意味でも使われたりしますが…」
「二人のスルースキルすごいな」

思わず峰田と上鳴にツッコミを入れたくなったが、女子の二人の華麗すぎるスルースキルに舌を巻く。うん、女子たちの一部男に対する扱いの雑さよね。

『ここでは一般市民としてではなく、仮免許を取得したものとしてーーー…、どれだけ適切な救助を行えるのか試させて頂きます』

その言葉に向けていた視線を映像へと戻す。建物が倒壊し、瓦礫に溢れ土煙や火災が発生していそうな現場。その映像をじっと見つめているとなにやら動く影のようなものが見える。それに同じように気づいた障子が口を開いた。

「人がいる」
「え…あァ!?老人に子供!?」
「危ねえ、何やってんだ!?」

『彼らはあらゆる訓練において今引っ張りダコの要救助者のプロ!!傷病者に扮した(HUC)がフィールド全域にスタンバイ中。皆さんにはこれから彼らの救出を行ってもらいます』

「そりゃあ、救助演習だから人はいるんだろうとは思ったけど…」

なかなか手が込んでいる。画面で確認できる限りでは突然の爆発に戸惑った人々が溢れ、血を流し、痛みに悶ているような仕草をしているものまでいる。

………嫌な、光景が脳裏を過る。

「緑谷くん、夜守くん」
「うん…神野区を模してるのかな…」

いつの間にか近くに来ていた飯田が言いにくそうに緑谷と俺に声をかけてきた。…皆想像することは同じだよね。

「あのとき俺たちは夜守くんたちを敵から遠ざけ…、プロの邪魔をしないことに徹した…。その中で死傷者も多くいた」
「まぁ、俺はあの時は救出された側だから…。今度は俺もこっち側だな」
「ーーーー頑張ろう」

ぐっと力強く握られた拳を見て、小さく頷いた。





ーーーーーーーーーーーーー






10分という、いつもであれば短い、けれど今のような緊張した空間の中では長く感じる中、雄英のみんなは随分とリラックスしているようにわちゃわちゃと楽しげに会話をしている。いや、みんな余裕過ぎない?なんで俺だけこんなに緊張してんだろ。

前世でもこのような救助の場面は少なからずあった。まぁ、そのときは時間の猶予もなかったからがむしゃらに動くばかりで、緊張よりもアドレナリンが先行して大量分泌されたからかもしれないけど。いつもよりも早金を打つ心臓を鎮めようと小さく深呼吸をし、冷え始めた指先を温めるためにこすった。


「かなめ、緊張しすぎじゃねぇか?」
「……救助演習が一番苦手なんだよ、余裕だね鋭次郎」
「ハッ、弱気になってんのかよモヤシ野郎」
「爆豪も救助とか一番苦手そうじゃん。その顔で救助来られても泣かれるよ」
「ンだとコラァ!!」
「どうどう、士傑こっち来てんぞ」

爆豪に衿元を引っ掴まれながら、こちらにのしのしと歩いてくる士傑の生徒に視線だけ向けた。全身毛むくじゃらの、その毛がきっと個性であろう男は俺とは視線を合わせずに、爆豪に対してその重そうな口を開いた。

対する爆豪も面倒くさそうにしながらもちゃんと受け答えしている。パッと手が離れた隙に爆豪から距離を取り後ろへそろりと後ずさった。トンと背中が誰かにぶつかったのを謝りながら視線をそちらへ向け、思わず顔が引きつったのは俺は悪くないと思う。

「はァい」
「げ、すみません。ぶつかりました、じゃあ」
「フフ、……かわいい」

今度はちゃんと服を着ていたが、怪しげに光る目の奥の底しれなさにゾワリと鳥肌が立つ。早々にその場を離れ安全圏である雄英の、かつ静かな尾白を盾にするようにその背に隠れた。困惑してることろ悪いけど、暫く盾になっててくださいお願いします。

「どうしたの、夜守」
「…あの士傑の女の人苦手なんだよ」
「さっき話しかけられてたね」
「一次試験試験のときも話しかけられたんだけど、……なんか気持ち悪い」
「珍しいね、夜守がそんなこと言うの」
「生理的にだめっていうのかな、なんかこう…舐め回されるようなあの目が苦手」
「あの二人に言ってみなよ、めちゃくちゃ羨ましがられるぞ」

ちらりと指さされた方を見やると何やら詰め寄られている緑谷に、詰め寄っている峰田と上鳴。言葉の端々に色狂いやらナンパ野郎などといった緑谷には似つかわしくない言葉が並ぶあたり、よくわからないが女の人関連で緑谷の何かが二人の琴線に触れたのであろう。…羨ましがられるというよりは呪われるレベルで呪詛を吐かれそうだ。

「いや、面倒だからやめ…」



ジリリリリリリリリリリッ!!!!!!!



突然鳴り響く、甲高い警告ベル。先程までの余裕のある空気は身を潜め、一気に張り詰めた空気がこの場を満たした。警告ベルがまだけたたましく鳴り響く中、固く強張った音声が流れてきた。

『敵による大規模破壊が発生!規模は○○市全域、建物倒壊により傷病者多数!!』

「演習のシナリオね」
「え!?じゃあ…」
「始まりね」

梅雨ちゃんの冷静な言葉に、A組の面々が緊張した面持ちで虚空を見つめる。

『道路の損壊が激しく、救急先着隊の到着に著しい遅れ!到着する迄の救助活動はその場にいるヒーローたちが指揮をとり行う!ーーー一人でも多くの命を救い出すこと!!!』





『START!!!!!!』








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