08
「へぇ、全部凍らせて動きを封じるのね。いいじゃんね、核も安全に取りに行けそうだし」
あっさりと轟の作戦に同意した俺に轟は呆れたような目を向けた。なんか失礼だな、お前。
「まぁ、万が一封じそこねたら無線で教えてね。障子がいってくれると思うし。じゃあ、俺は建物の外から核のある部屋探してみるよ。そのほうが虱潰しに探すよりは効率いいでしょ?」
さすがにこの状態で走り回れと言われるとつらい。ならほとんど動かず結界駆使して外から核のある部屋探そう。それくらいしかできないし。
「まぁ、窓から見える部屋に核がなかったらそれ以外の部屋を轟が探してくれたら解決だしね」
てことで、よろしくー。と拳を突き出せばまた戸惑ったような視線を轟から頂いた。なんだよ、チームメイトなんだからアリだろ。
戸惑い気味にこつりと3つの拳が触れたのを合図にオールマイトからスタートの掛け声がかかる。
「じゃ、俺外から探して見るからよろしくねー」
手を持ち上げようとしてその重りがついていたことを思い出す。あーもー、ホントに重いなこれ。
ぐぐぐ、と腕を胸の前まで持ち上げて印を結ぶ。
「包囲、定礎…」
ジジジ、と俺の周りに軌跡を刻む。なんか、二人が驚いている気がしなくもないけど、あいにくこっちは重りのせいで結構必死だからその視線を無視する。
「結!」
とりあえず上から順番に探していけば、窓に面した部屋に核を隠してるなら見つかるだろう。結界を最上階まで伸ばし、そこからさらに建物をぐるりと一周する足場の結界を形成する。だって、今いつもみたいに飛んだら落っこちる未来しか見えないし。なら疲れるけど安定した足場のほうがいいし。
そんなことを思いつつ最上階をくるりと一周する。ない。じゃあ、下がるか。下におりる階段を結界で形成しているとき、急に建物の温度が変わった。
さむっ!
建物があっという間に氷に覆われる。外でこれだけ寒いんだから、中にいたら応えるよなぁ。さて、轟は賢そうだから多分俺が見て回れない内側の部屋を下から見てくれてるだろう。俺はこのまま外回りを探索しましょうかね。
「おっ、ビンゴ」
最上階から一階下の北向きの窓の部屋。氷漬けされた核と道着姿の少年が一人。もう一人はいないから別の場所にいるのかな?
「轟、障子。核あったよ、最上階から一個下がった階の北側。核と道着のコがいる。あと一人は見当たらないから気をつけてね」
じゃあ、俺は轟たちがたどり着くまで、
「結」
核を結界で守っときましょうか。
「動いてもいいけど、足の皮剥がれちゃ満足に戦えねえぞ」
程なくして到着した轟は核に触れながらそんな余裕の言葉を呟く。
『ヒーローチームWIN!!』
轟が到着するまで核を結界で一応守ってた俺は轟が核に触れたのを確認したらさっさと下に降りた。結界形成疲れた。
降りる頃凍りついていた建物から湯気のような蒸気が上がり始め、建物の冷気もなくなっていた。もしかして、これも轟の個性?え、ずるいなんで二つも個性があるんだよ。チートすぎる。
もんもんとそんなことを考えながら障子の隣に立つとお疲れ、とポツリと呟かれた。
「障子もお疲れー。なんか俺ら全然活躍なかったなー」
「お前はそんなことはないと思うが…」
『さて、5人共講評の時間だ。戻ってきなさい』
「はーい。あ、轟もお疲れー戻ってこいってさ」
「ああ…」
じとー、となにやら言いたそうな視線が二人から発せられる。特に轟から。
「お前の個性、一体何だ。バネじゃないのか」
見たことのない、と不思議げに呟く轟に障子も頷く。まぁ、隠してるわけじゃないし、どうせクラスメイトとしてこれから明かしていく個性だし。
「”結界”だよ」
結界、とまるで聞いたことのない言葉を咀嚼するように呟く。ついでだし、とオールマイトのともへ戻る道中に説明する。
簡単に言えば、バリア。物を防いだり、守ったりするのが基本。空間に結界を張ることもできる。あとは応用で弾性つけることもできる。まぁ、他も色々できるんだろうけど俺は絶賛修行中。
「これが俺の”個性”。みんなが驚くような個性ではないと思う」
どっちかといえば障子の複製腕のがマジックぽくない?なんていっても無反応な二人。ちょっと、絡みづらいわお二人さん。喋ってくれ。
ようやくオールマイトのいる地下にたどり着いたときには疲労困憊。マジでこの重りやだ。
「先生、これ外して。マジしんどい」
「ああ、そうだったね。コレしんどいでしょ」
HAHAHA、なんて笑いながら重りを外す先生に軽く怒りが。ホントに重かったんだからね。ムスッとしたのがバレたようにさらに笑われた。解せぬ。
………………
「お疲れさん!!緑谷少年以外は大きな怪我もなし!しかし真摯に取り組んだ!!初めての訓練にしちゃ皆上出来だったぜ!」
終わってみれば皆の個性やらチームワークやらが観察できてなかなかに充実した授業だった。どうせならもっとガチガチの戦闘訓練したいけど、そのうち組み込まれるだろうしそれまで我慢かな。
言いたいことだけ言ったオールマイトはバビューンと去っていった。なんか、凄い急ぎようだな。トイレか?
これでようやく一日が終わった。くわっと大きな欠伸を洩らせばちょんちょんと服が引っ張られる感覚。そちらへ目を向ければまんまるな目の小柄な少女が元凶だったようだ。
「えーっと、」
「蛙吹梅雨よ、梅雨ちゃんとよんで」
蛙吹梅雨、と名乗った少女は確か戦闘訓練中カエルのような動きをしてた子だったような。なんか不思議な動きしてる子って印象に残るんだよね。
「私思ったことを言っちゃうの。あなたの個性、バネだと思ってたけど違うみたい。どんな個性なのかしら?」
人差し指を顎に当ててキョトンとした仕草で俺を見上げてくる蛙吹にきゅんとする。なんか、あざといぞ、この子。
てか、俺の個性バネって思ってる子三人目なんだけど。結界の弾性使って跳ねたせいか。そうなのか。
若干もんもんとしながら轟たちに説明した同じことを蛙吹にも伝える。やはり結界という個性には馴染みがないのか、イマイチ納得はしきれていないようだ。でも聞いてくれるな、原理とかは俺にもわからない。
「かなめ、梅雨ちゃん!これからみんなで反省会するんだけど参加するか?」
「反省会てなんの?」
「さっきの戦闘訓練の反省会だよ!」
どうやらクラスの大半が残って反省会をするらしい。殆どのメンツが残っていた。爆豪はいらいらと肩を怒らせながら教室から出ていったが。
「私は残るわ。緑谷ちゃんも気になるし」
「あー、ごめん。俺パスちょっと行きたいところあるから」
「そっか、わかった!じゃあまた明日な、かなめ!」
「うん、また明日ー。みんなもお疲れー」
クラスメイトにも声をかけるとパラパラとお疲れ、と返事が返ってきた。ーーーーさて、ズシリと存在感を告げる重りをカバンの中にあるのを再確認し、重たい足をクラスがある塔とは別の塔に足を向ける。
放課後なだけあり、廊下に響くのは俺の靴の音だけである。ほんとにこの時間でも人はいるのだろうか。
見上げた大きな扉の上には”制作工房”の文字。
いつになっても初めての場所とか初めての人に会うとかなると緊張する。いや、でもこれは自分のため、と言い聞かせ三度ノックをする。
……………、反応なし。
え、いないの?
もう一度ノックしようと扉に近づけば突然開いた扉から随分目に優しくないピンク色が飛び込んできた。
prev|
next